銀河パトロールSOS~対決、ガレス号~
ガレス号とのドッキングが完了し、ハッチが開く。
ぎゃらくしぃ号側からユイ皇女の溌剌とした声で『いらっしゃいませ、ようこそ銀河コンビニぎゃらくしぃへ!』と録音メッセージが流れてくる。
操船クルーになりすました白兵戦専門の海兵隊員達30人がわざとらしいはしゃぎ声を上げて小走りに店内に進入してきた。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
細身長躯でひょろりとした中年男、営業チーフの甲賀六郎が『熱烈歓迎、ガレス号御一行様』と書かれた旗を振りながら双子星マーク入りの無煙タバコを配り回っていた。六郎の声質は元から若干辛気臭く、そういう中年男から熱心に押し付けてくこられると猛烈にいかがわしい商品に見える。
「おいおい? 俺はこんなの買わないぞ第一俺はタバコはやらんのだ」
タバコを押し付けられた船員は訝しげにパッケージの注意書きを眺める。
「これ、外側のパッケージは胡散臭いですけど中身は木星の老舗ゴールデンダブルなんですよ。ゴールデンは年配の方に人気あるから、お客さんが吸わないなら愛煙家に売りつければいい小遣い稼ぎになりますよ?」
まあそういう事なら、と船員は胸のポケットにタバコをしまい込んで売り場へ消えていった。六郎はその足取りををねっとりとした視線で観察する。
『六郎、どんな具合?』
ブリジットから六郎のインカムに連絡が入る。
「あー、こいつら目の奥が笑ってないねえ。なんかやる気だわ。『電気タバコ』準備しといて良かった」
『こっちの出番がなくなるじゃん』
「まー、こんだけじゃ終わらない時は……そんときゃ頼むわ、まあ、お手柔らかにな?」
『うん、加減するよ~?』
無線の向こうではブリジットが、うひひ、と心底楽しそうに笑っていた。
六郎はレジでガチガチに緊張しまくってるリンゴのところに駆け寄る。
「お、おいおい堅いぞ。スマイル、スマイルだ鏑木」
「そ、そっだらことゆわれても、おら」
「大丈夫だって、お前は何か始まったらレジの下の暴漢対策シェルターに潜ってじっとしてれば」
六郎がちょいちょい、とレジカウンター下にあるスペースと非常ボタンの位置を指差す。
「ぴゃ……」
五穀豊穣の御守り札を握りしめながらリンゴはコクコクと大袈裟に頷く。
店内には穏やかなBGMが流され、ユイの声で店内施設案内やオススメ商品の紹介がなされていく。
ふと酒の陳列棚の裏に何か仕掛けているような不審な動作をする船員を発見した。
六郎は目を細めると店内の部下全員、そしてバックヤードで待機しているブリジットとマーガレットに『始まったぞ、手はず通りにな』と低い声で告げた。
音もなく酒の陳列棚に近寄ると、不審な行動をしている船員の腕を背後から掴む。
「なっ?」
「お客様、困りますねえ……」
六郎は素早く船員の脚を取るとそのまま引き倒し床に顔面を叩きつけた。
少し大きな音がするが店内放送に紛れたようで全く騒ぎになる気配はない。六郎が仕掛けられた機材を取り外そうとした次の瞬間、けたたましい音と強い光が店舗エリアのあちらこちらで発生した。
六郎の間近でも閃光弾が炸裂する。
「馬鹿やろう! ここは高級品が……!」
陳列棚が一瞬小さく浮き上がる程の衝撃、棚からウイスキーとワインの瓶が床に落ちて割れていく。
万引き防止ブザーまで鳴り始めて店内はさながら音の洪水だったがそれに拍車をかけたのはガレス号側のゲートから現れた甲冑をまとった巨人達だった。
海兵隊の装備品の中で最も優れた制圧用の強化服エグゾスーツ、これを装着したレンジャーが店内に次々と乱入してくる。
レンジャー部隊を指揮しているハダム大尉は店内の様子を見て驚いた。
「しくじったか」
予定通りならばぎゃらくしぃ号の店員達が床にうずくまり海兵隊30名が先行して店舗エリアから動力部、ブリッジへの通路を確保する段階なのだが倒れているのは味方ばかり。ハダムは大型の通信機を取り出すとガレス号ブリッジとの回線を開いた。
「少佐、トラブルです。木星の連中、こちらの奇襲に備えがあるようです」
『船の機能に多少の損害が出ても構わん。エグザスでブリッジまで突入、力ずくで制圧だ。皆殺しでも構わんが皇女だけは殺すなよ?』
「はい」
『無傷では奪えぬのは致し方ない。此方も最悪の事態に備えて準備はしておく』
「了解しました……第一陣突入!」
ハダムの号令とともに全高三メートルの巨躯を揺るがしながらレンジャー部隊のエグザスがぎゃらくしぃ号の床を踏み荒らす。レジを飛び越えスナック菓子の陳列棚をハルバードで凪払いながら12体の巨人がバックヤード目掛けて突進していく。
ハダム大尉は途中、ぎゃらくしぃ号の店員らしき制服姿の数人から対人ショックガンによる射撃を受けたがエクザスにはゴムボールを投げつけられた程度にしか感じない。
ハダムは彼等を完全に無視すると、部下の1人に倒れている海兵隊員の救助を命じた。
船員に扮して目くらましをするはずだった隊員達はほぼ全員が何かに感電したかのようなショック状態で時折痙攣していた。おそらくは配られていたタバコの箱に何か別の仕掛けが施されていたのだろう。
「くそ、正規軍が民間の賊風情に先手を打たれた上に手加減されたのか。それにしても賊にしては手際が良すぎ──」
突然ハダムのエグザスに何か黒い大きな物体がのしかかってくる。それは中身のレンジャー隊員が引きずり出された後のエグザスの残骸だった。
大尉には今、一体何が起こっているのか理解出来なかった。バックヤードに向かって突進していったはずの 部下達が大きな赤い何かに振り回され、床に叩きつけられ踏み付けられて悶絶している。巨大なはずのエグザスが更に大きな何かに蹂躙されているのだ。
「はぁ? おい! 何事だ! イワタ、ジャービス? 状況報告だ!」
『た、隊長! て、撤退を……一旦引いて別のルートから!』
「馬鹿者! 我ら第28部隊は栄えあるレンジャーの……」
ハダムはイワタの泣き言を聞くのは初めてだった。平素の彼は誰よりも根性がある無骨な武人なのだ。
おかしな方向に足が曲がったイワタ曹長のエグザスがハダムの前に放り投げられてくる。痛みに悶絶し白眼を剥き泡を噴いているイワタの顔をバイザー越しに確認する。
「い、イワタ曹長? し、しっかりせんか!?」
バックヤードからぬう、と出てきたのは異形の巨躯を持つ鬼だった。
両の拳を二回、三回と胸の前であわせ、打ち鳴らす。そのたびに鋼がこすれて黄色い火花がバチバチと上がる。赤く巨大な類人猿、鬼がいたら正にこんなたたずまいであろう。
「よし! あったまってきた! まだまだイケるよ!」
「お前やり過ぎだ、絶対何人か死んでるぞ」
「大丈夫、加減したから」
「お前の本気はさぞスプラッターホラーなんだろうな」
「ん? スプラッシュタンポポ?」
「もういい喋るな」
「アイアイ、キャプテン」
ハダムの目前には見たこともないデザインの真っ赤な機械の鬼とショックガンを抱えた男が立っていて、何事か間の抜けた言い争いをしていた。
男は手にしたショックガンの狙いを定めるとハダムの後方に控えている部下を撃った。
対装甲ヒートライフルでもあるまいし、ショックガン一発如きで止まるはずのないエグザスが、不思議な事によろめいて尻餅をつく。装甲を貫通した様子もないのにレンジャーのエグザスは上手く機能していない。
六郎がピンポイントで撃ち抜いたのは腰部にある制御パネルだった。本来は何らかのトラブルで自制をうしなって暴れる装着者を沈静化させるための筋力増幅装置の解除機能を作動させたのである。とても人間技とは思えない、まるで魔法か酷いペテンにかかったような気分だった。
一方の赤くトゲトゲしい鬼のような姿のエグザスにはレンジャーのハルバードの刃や突き立てられていたがどれも浅く、この怪物を止めるにはいたらなかったようだ。
唯一、足に深々と突き刺さったハープンをその赤鬼は無造作に抜き取った。引き抜かれたハープンには装着者の血液が大量に付着していたが、当の本人はケロリとしている。
「痛ってて……うわ、なにこれ凄く痛い」
傷痕の確認のためにバイザーを上げる、そこから見えたのは浅黒い肌の女性の顔、ブリジットだった。エクザス装備のレンジャー10人の突撃を受け止めて弾き返す程の剛の者など聞いた事もない。
あまりの事態に茫然としていたハダムだったが別働隊の事を思い出して撤退のコール、そしてマクトフ少佐に作戦失敗のサインを発信するべく通信機を手に取った。
しかし、その通信機は寸前でハダムの手からこぼれ落ちる。六郎のショックガンの射撃が正確に通信機を射抜いていた。
「うぬぅ──! お前ら……よくも、よくもやってくれおったな」
「やってくれちゃったのはそちらさんでしょうよ。大人しくお買い物して帰れば良かったのに……みろよ、店内グッチャグチャ」
「じゃ、店舗スタッフはしばらくお休みだね、ラッキ~!」
「ラッキーじゃねえよ、業者が来るまではお前と俺で掃除と修理すんだよアホか」
ブリジットは、ひどいいん、ぐええと喉が潰れたヒキガエルのような嗚咽を漏らす。
「そんなことより指揮官さんよ、もう残ってんのはあんた1人だけ。大人しく降伏した方が身のためだぜ。俺らは無駄に殺すつもりは無いからさ。むしろ命は要らんから──何か不良在庫でも買ってけや」
六郎は底意地の悪い笑顔を浮かべながらハダムに銃を突き付けた。
その頃、船外からドッキングアームを伝ってブリッジに向かう一団があった。ハダム大尉の本隊とは別に船の外から攻撃を加える別働隊である。ハイドラ級の構造は当然、熟知の上でこの任務に臨むフレド少尉は外部メンテナンスハッチを目前にして立ち止まる。
「何かいます」
「構わん、ランチャーで吹き飛ばせ」
部下がミサイルランチャーを構えるより早く、しなる鞭のような無数の極太ワイヤーがエグザスの足を取り、弾き飛ばす。
飛ばされた隊員は予想外の事態に為す術なくガレス号側に弾かれていってしまう。
フレドは一旦甲板に伏せると正面にいる何かの正体を確認するべく有線カメラを放つと望遠にして対象をズームアップする。
そこにはレトロな外装の強化服を着た人物が腰に手を当てたまま仁王立ちしていた。
(なんだあれは……)
エグザスより若干小さめの強化服で最早スクラップ置き場を通り越して骨董商が扱うような古めかしいデザインをしていた。塗装は剥げ落ち、地金の色すらくすんだ丸い鉄くずの塊にも見える。
その人物は大きく腕を振り上げると先程の鞭のようなワイヤーをしならせ始めた。
(しまった?)
甲板の曲面を利用して隠れていたつもりだったがどうやら船内の協力者から鞭を持った人物に自分達の位置が報告されているようだ。
(此方の作戦が完全に読まれている?)
フレドは立ち上がり、散開するようハンドサインを出したが部下の1人が逃げ遅れワイヤーに背面を強打された。なまじ甲板面に足裏のマグネットで吸着していたせいでワイヤーで打ち据えられた衝撃が足に集中してどこか関節を痛めてしまったようだ。
「曹長?」
「少尉……すいません膝がイカレました……」
「そこで援護射撃しろ」
フレドはハーケンを命綱代わりに甲板と自らを結ぶとリアジェットを噴射して甲板から離脱するとヒートライフルで骨董品に狙いを定める。飛び上がった瞬間、その鈍色の強化服がフレド少尉の動きを予測していたかのような反応速度で飛び上がり、弾丸のようにフレド目掛けて突っ込んでくる。
「ばっ……?」
ヒートライフルの照準が合わないまま引き金を引く、強化服は身をよじってその一撃をかわす。
「ゲブッ!」
激しい体当たりを受けたフレドは舌を噛み声にならない声を上げた。鈍色の強化服はフレドを鯖折りの態勢で抱え込み腕を固定すると自らのリアジェットを噴射、Vの字を描くように反転すると今度は甲板目掛けて猛スピードで突っ込んだ。
(子供……女?)
バイザー越しに見えた顔は少女の面影を残した美しい女性だった。次の瞬間、フレドの目に映ったのは壁。ぎゃらくしぃ号の外壁だった。
ぎゃらくしぃ号の外壁と敵の膝に頭部を挟まれる形で衝突したエグザスの頭部は変形、ねじ曲げられたフレドの頸椎は激しく損傷してしまった。
「捕虜を三人、拘束しておきましたわ」
鈍色のゴツい強化服を脱いで身体のラインがしっかり浮き出る紺色のアンダースーツ姿になったマーガレットがブリッジに入室する。
『メグちゃんお疲れ様でした。大活躍でしたね。ひさびさにメグちゃんの強いところを拝見できました。お爺さまに負けず劣らずの大立ち回りでしたよ?』
「まあそうですよ、そうなんですよ。わたくしの部下の六郎達も凄いんですが何よりワイズ伯爵家当主こそが銀河で一番なのですわ」
「うわ」
雄大は汗ばんでしっとりとした髪とその肢体に思わず見入ってしまう。幸い、マーガレットは雄大の邪念のこもった視線には気付かないようだった。
先程までマーガレットに敵の位置を教えていたラフタの方は今度は真剣に計器類に見入っていてこのマーガレットのセクシーな姿には微塵の興味もないらしい。ある意味仕事熱心だが別の見方をすると面白みに欠ける。
(こ、これは……下手な全裸よりエロいような……)
チラッと横目でマーガレットの腰のラインを盗み見てはどぎまぎする。艦内放送を使って六郎達に指示を出していたマーガレットが不意に操舵士の席に寄ってきた。驚きを隠せない雄大の横に立つとマーガレットは髪をかきあげながら余裕綽々の態度で雄大に話しかけた。
「ちょっと宮城」
「は、はい?」
「どうなの? 先程のわたくしを見て賞賛の言葉とかは出て来ないのかしら?」
「えっ、感想……? す、凄くイイです。そそります」
「そそる?」
マーガレットは動揺する雄大の姿が何を意味するかわからず首を傾げると、まあいいわとそのまま操舵士席の端に腰掛けた。
吐息が顔にかかるほどの距離。
「わたくしの強さに萎縮しちゃってるわけね? ワイズ伯爵家に伝わる格闘術をもってすれば連邦のレンジャーであろうとこの通りなのよ、どう? わたくしの技量と代々受け継がれた最強の聖鎧アクバルの強さは?」
上気した少女の身体から汗とともに大量に発せられるフェロモン、雄大はその甘美な薫りに脳がとろけそうになっていた。
「は、はい……凄いです。なんかこみ上げてきます」
「わかればいいのよわかれば。これからはもっとわたくしに敬意を払うのよ?」
上機嫌のマーガレットはその小さな鼻を上に向けてふんぞり返る。
「ところでユイ様、これからどうします? 余勢を駆ってブリジットと六郎達に内部からのガレス号制圧を命じますか?」
興奮状態にあるマーガレットに気圧されつつ、ユイは落ち着いた口調で言った。
『先ずは降伏勧告です、ラフタさん回線を開いてください』
「了解」
言うが早いかブリッジのメインビューワーにガレス号のブリッジの中が映し出される。
『この売女、卑しい女狐め、はかりおったな?』
ガレス号艦長マクトフ少佐は開口一番、ユイを侮辱する言葉を吐いた。相手方も現在の戦況を正確に把握しているようだった。
『女狐とは私の事でしょうか』
『他に誰がおるか、逆賊の残党風情が正規軍に弓を引いて無事に帰れると思うなよ?』
『あなた方の目的が何かはわかりませんがこのまま降伏してください、此方には捕虜がいるのです。何ならこのまま此方の揚陸部隊を突入させて力ずくで制圧してもよいのですよ?』
『小娘が。せいぜい今のうちに吠えてろ』
マクトフは一方的に通信を切る。
「無礼な、吠え面をかくのはどっちか、今に思い知らせてくれる」
マーガレットは自分が侮辱されたかのように歯噛みをする。
「ガレス号の出力増大、シールド展開始まりました!」
「六郎!」
ラフタが叫ぶと同時にマーガレットが命令を出す。ガレス号のドッキングベイを中心に小さな火の玉が幾つも上がる。ガレスの内部爆発は収まらず挙動は怪しかったが回頭して主砲を此方に向けた。
「出力が極端に低下、ガレスの主砲が安定した射撃をするためには176秒必要」
「ユイ様、距離が離れ次第こちらも主砲を」
『撃ってはなりません』
「待って。何か変」
ガレスの腹部に搭載された謎のモジュールは速やかに展開すると独立した戦闘艇となった。
「これは?」
四つの戦闘艇は各々が独立して動き出すとぎゃらくしぃ号に突進してくる。シールドでは弾けないほどの質量がぎゃらくしぃ号の右舷と艦首に激突する。魚雷の着弾よりも大きな衝突音と激しい揺れが船体全てを襲う。
「宮城!」
雄大はマーガレットに言われるまでもなく艦内のダメージコントロールを行いながら出力を上げて左回りに舵を切りながら急発進する。振り払われた戦闘艇から短距離用の対艦魚雷が発射された。粒子砲と違い、魚雷はシールドを無効化しながら抜けてくる。
「対空防御!」
ラフタが副砲を、マーガレットがマルチロケットランチャーを操作して魚雷の着弾を防ぐ。
抜けてきた一発を逆噴射の急制動をかけてかわすが、艦底近くで爆発、衝撃でぎゃらくしぃ号は流され一時的に舵取りが不可能な状態に陥った。
「きゃ……!」
衝撃で座席から吹き飛ばされたマーガレットを雄大は身体で受け止める。
『メグちゃ? 皆さん大丈夫ですか?』
「わたくしは大丈夫! それよりガレスが……」
「ガレス号、まっすぐ突っ込んできます!」
『主砲準備、シールド解除、全エネルギー回せ! 目標ガレス号艦首! エンジンには当てるな!』
先程までは主砲を撃つのをためらっていたユイだったが切迫した状況にあってはそうも甘いことは言ってられないと自ら主砲準備を指示した。
その凛とした声に驚きながらも雄大は命令を復唱した。
「主砲準備よろし!」
『主砲一斉射、三連!』
ハイドラ級の火力は旧式戦艦のそれに匹敵する。粒子砲から放たれたエネルギーの塊は避ける暇すら与えずガレスの不完全なシールドを易々と打ち破り艦首を完全に破壊した。
二連、三連、と次々に浴びせられる重金属粒子によってガレス号はその突進の勢いを失いプラズマ発光現象を引き起こしながらゆらり、ゆらりと中空を漂う。四つの戦闘艇もエネルギー供給が断たれたせいかその動きを止めていた。
「やったやった!」
雄大とマーガレットはがっちりと抱き合う。
「ガレス号、戦闘艇の全てが動力停止。爆発の心配ありません。無力化しました。もう勘弁してほしいよ……」
ラフタはふぅ、とため息をついた。彼には珍しく疲れきったようなトーンで泣き言を洩らす。
逆にマーガレットは興奮状態が継続しているらしく雄大の膝の上に乗って身体を押し付けるような体勢のままその頭をポンポンと叩いた。
「あんたもなかなかやるじゃない? デカい口たたくだけの事はあるわ」
『……メグちゃん、あのー……ちょっとくっつき過ぎじゃないのかな? 宮城さんが困ってるみたい』
「あの、はい、困るというか名残惜しいというか」
「あ」
マーガレットは、ささっと雄大の膝の上から降りる。
「わ、わたくし店舗の方を見に行ってきますわ」
マーガレットは今更ながら自分のアンダースーツ姿を雄大やラフタのような若い異性に見せる事に恥じらいを感じてきたらしく、急に胸元を隠すとそそくさとブリッジを退出した。そのすぐ後、ラフタがガレス号からの短信をキャッチする。
「ガレス号から連絡。おそらく救難信号です」
「何を今更! まあどのみち助けるのは船乗りとしては当たり前だけど。此方から救助を申し出てくるのを待つのが武人の礼儀ってものだろう? 非礼に非礼を重ねる奴だ」
雄大はマクトフ達の無礼な振る舞いに腹を立てた。
『あら宮城さんも案外古風なんですね……』
「艦隊戦ではそういう習わしがあるのか。月の文化か何か?」
ラフタもユイも少し驚いた様子だった。確かにこういう細かい古式ゆかしい戦場の習わしにこだわる軍人は最早天然記念物だ。これは明らかに父親の影響だろう。
「じゃ、じゃあガレス号に寄せます。流石にもう反撃できる体力は残ってないでしょう」
ガレス号からの小型ボートを受け入れる準備を進めているとブリッジに牛島からのコールがあった。
「珍しいですね、牛島さん。何かありましたか?」
『大変困った状況になっていましてね、海兵隊員の一人が応急手当をしていた小田島先生に隠し持っていた銃を突き付けて人質にしてしまった。今、我々は大勢のクルーを人質にとられて動けない……宮城さん、ラフタさん、マーガレット様のお力をお借りしたい』
『ま、まあ……小田島先生が』
ユイは目に見えて狼狽していた。
祝勝ムードから一転、艦内は再びの緊張に包まれてしまった──




