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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
112/121

消えた六郎①

 お騒がせ会見の後も雄大達は明後日のレースの準備をしていた。結局リタ監督及びお忍び(?)で見学に来たユイ皇女を含めたチームがホテルに帰ってこられたのは夕方近くになってから。

 ぎゃらくしぃグループ御一行様貸切のラウンジに入ると夕食前の時間を潰そうと集まった男性クルー達の姿と、遊び疲れたのだろうかぐったりとした様子の女性クルー達の姿が目に入った。

(そう言えばマーガレット、あいつ結局エアレースのガレージには戻って来なかった)

 ──ホテルに戻って風呂入って着替えて──マーガレットが普段やっている美容関係のケアに掛ける時間を考慮しても戻って来られないはずは無い──雄大は少し考えこんだ。

(あ、そうか。マーガレットの奴。何だかんだでユイさんと顔を合わせ難い気分だったのかも……)

 新婚旅行でエウロパを訪れているカップルに紛れて、いい雰囲気でデートして、濃厚な、とびきり濃密なキスをして互いを愛しく想う気持ちを伝えあった──

(あいつ、顔には出してなかったけど──キスの件、ユイさんに対して罪悪感を感じてるのかも──普段は完全無欠の伯爵閣下のクセにそういうとこ、驚くほど繊細だもんな──)

 

 雄大は少し心配になってホテルのロビーまで確認の連絡を入れてみる、どうやらちゃんとホテルには戻ってきているらしい。

(飯の前に少し横になってから様子見に行ってみるか)

 少し安堵すると、急に眠気が襲ってくる。雄大はマーガレットと一緒に半日、街で過ごした後は警察署にエアレースのガレージ、そして翌日は予選会──と落ち着く暇のない濃密な時間を過ごしてきた。軽く仮眠しただけでまともな睡眠は取っていない。

「でっけえあくびだな、今日はもうゆっくり寝るとええだよ」

 雄大にくっついて回ってご機嫌の鏑木林檎、ゆっくりしろ、という言葉は彼女なりに気遣いらしいが、言葉とは裏腹に傍にまとわりついて離れてくれない。

「そうだな、もう今日はもうゆっくりしたいよ」

「ねえねえ、寝る前に──おらから重大発表があるんだけども。聞きたい?」

「なんだよ重大発表って。そう言えばさっきからいつも以上にゴキゲンだなリンゴさん──すげえこと?」雄大はあくびをかみ殺しつつ近場の椅子に腰掛ける。

「すげえこと! ほらほら雄大さ、見て驚くとええだよ!」

 リンゴのPPに何かの当選通知メールがきている。

「ん? Vプロ?」

 ヴィーナスプロジェクト、金星のアイドル事務所だ。

「ジャーン! すっげえこったべ? おったまげたべ?」

「え!? これ、Vプロのライブチケットじゃないか! か、カウントダウンライブ、前夜祭から後夜祭まで含めてフルオプション──すごいな!」

 雄大の眠気は一気に覚めた。

「えへへ~、実はそんだけでは重大とは呼べねえ。指定されている座席を見るだよ」

 雄大が指で画面をタッチすると指定座席がクローズアップされる。業界関係者しか入れない50室のロイヤルボックス席のうち1室が抽選で一般客に解放されるのだが、リンゴはたったの三口応募で当選、見事1室2席のペアチケットを入手したのだった。

「ハアアア!?? ぼ、ボックス席?」

「イエーイ! やった~! ロイヤル~! ボックス~!」

 リンゴはぴょこんぴょこん飛び跳ねて喜びを表現する。

「ガセじゃなくて本当に公平に抽選やってたんだ! おいおい、こんなの長年ファンやってて初めて見たぜ──」

 雄大は思わず自分のPP付属カメラでロイヤルボックス席当選メールの通知画面を撮影した。

「や、やっべえ……三千万人在籍のコミュニティーに八年間在籍していた俺達第一世代パルフェファンが『一般人には当たらない』という結論を出したロイヤルボックス席当選通知──」

「ビギンズラック! ビギンズラック!」

「はっ、そう言えば──」

 自分にも当選通知が届いていないか、雄大は慌てて自分のPPを見るが着信しているのは例の「死ね」メールぐらいだった。履歴にたっぷり50ページ以上がイタズラ。着信拒否を設定してもそれをかいくぐって送信されてくるあたり、単なる嫌がらせに留まらない執念を感じる。もう慣れたのは慣れたのだが久々に見るとダメージが大きい──しかもたった今また一通、呪いのメールが届いた。

「く、くうう……ファン歴一年に満たないリンゴに当たって、何故長年送り続けている俺にボックス席が当たらんのだ──理不尽、なんて理不尽な世の中なんだ。最速タイムとか要らんからこの豪運を俺にもくれ!」

 眉毛と下唇をへの字に曲げて雄大は悔しがる。つい数時間前に散々ボッテガとマーフィーを煽っていた人間と同一人物には見えないほどの落差。

 栄えあるコースレコードも雄大にとってアイドルのカウントダウンライブ以下の扱いに成り下がっている、これはエアレース関係者には見せられない。 

「ふふ、やっぱりこの御守りは御利益があんだべな、もういっかいおがんどくべ」

 リンゴは首から掛けた安産祈願と学業成就の御守り札を握って拝む。

「た、確かに重大発表だ、んぐぐぐ羨まし過ぎるぅ」

「へへへっ、そんなに行きたいなら意地を張らずに一緒に来ればええだよ。ペアでご招待だからおらがもう一人選べるんだど。な、一緒行くさ!」

「だから俺は無理なんだって。ユイさん連れて月に里帰りなんだ、説明しただろ」

「ら、ライブ終わってから行けばええ、て思うんだども──」

 リンゴは少しつまらなそうに唇をとがらせた。

「さすがに移動時間考えるとなぁ──ユイさん置いて俺だけ別行動ってのも取りづらいし」

「カウントダウンライブ、雄大さ、おらと一緒だと行ぎたぐねぇの?」

「そ、そういう意味じゃなくて──リンゴと一緒ならどこでも楽しいだろうし、正直めちゃくちゃボックス席に興味あるんだけど──ユイさんとの約束が」

「皇女殿下の方が、大事──パルフェとおらを足し算しても、殿下のほうが──」

 今まではしゃいでいたリンゴが急に大人しくなる。

 今まで見たことの無いような物悲しい表情で雄大の顔を見据えてくるリンゴ。

(え? なにこれ──リンゴ、もしかして泣きそう?)

 雄大は慌ててリンゴの頭を撫でながらキョロキョロとあたりを見回した。

「あ、そうだラフタ、おーい! ラフタおまえ正月は暇だろ? 実は……」

 ホテルに戻ってきてからもラフタとリタ、そして牛島はマシンの調整に関して打ち合わせをやっていた。雄大に呼び止められてゆっくりと振り向く。疑いの眼差し。

「──暇じゃない、年末年始、僕と牛島は船で留守番だよ──それに、リンゴには悪いけど、僕、そういう混雑してるとこ絶対行きたくないから」

「そ、そうなんだ残念」

「雄大、ここのところ魚住より人使いが荒いよね。もうちょっと他人の気持ち、考えた方がいいよ」

(ま、まだ拗ねてるのかラフタ──サッパリしてるようで案外根に持つタイプだったか──)

「ご、ごめんなさい……」

 人間嫌いのラフタをこの休暇がらみで無理に引っ張り回している雄大、どうも友人の信頼度が随分と下がっているらしい。


「じゃ、じゃあ六郎さんに連れて行っ──」

「六郎も留守番。警備主任だよ」

 話を聞いていたラフタから矢のようなツッコミが飛んできた。

「こ、困ったな、なんとも。ペアチケットだからなぁ、相手はちゃんと選ばないと」

「拙者、拙者、暇、すごく暇でござる……拙者正月は暇、というかいつも暇!」

 遠くの方から太刀風陣馬が背伸びをして挙手している。授業参観で張り切る子供のようだ。

「陣馬はダメ」

 世間知らずのリンゴの保護者に相応しい人材を探しているのに、リンゴが面倒を見なければならないほど世俗の慣習に疎い少年をお供につけるのはナンセンスだ。

「皇配どの! 拙者では頼り無い、と?」

「じゃあおまえ、ひとりで金星行きの定期便に乗れるのか?」

「っ──」

「パニックになって刀を振り回して暴れ出すのがオチだからな」

「無念──」

 陣馬は相当ショックだったのか、パタリとその場に倒れ込んでしまう。

「も~、オーバーリアクションなんだよな、いちいち……」

 陣馬と無駄なやり取りをしている内に、リンゴはすっかり不機嫌になっていた。

「もういい、おら──ひとりでいぐから」

「だ、だめだめだめだめ、女の子がひとりで金星方面とか危ないって」

「もともとおらはひとりで──ひとりでアラミスまでいくつもりだったんだもん──雄大さがダメなら別にひとりでもいいもん」

「まあ、待て待て──な? この話はまたゆっくり、レース終わってから、な?」

 リンゴは口をとがらせたまま、ぷい、と横を向いてPPをいじり始めた。本格的に拗ねてしまったらしい。

 

◇◇◇◇◇


 雄大は近くで何かの文章をタイピングしている魚住を見掛けてリンゴの件を相談した。魚住は端末への入力を続けながら雄大の話を聴いた。

「あの、誰かいませんかね、金星方面の世情に通じていて正月、実家に帰省したくない暇な人材──店舗クルーの中とかに」

「うーん、あの娘達の中に? うちのクルーは金星とは縁遠いですからね」

 ユイ皇女には地球圏への接近禁止令が出ていたため、つい最近までぎゃらくしぃ号は太陽系内縁の金星周辺域を航行する事は無かった。当然、金星出身の人間も少ない。

「敢えて言うなら、六郎さんぐらいですけど──まあ、無理よね」

「六郎さん金星出身なら何とか頼めませんかねえ」

「まあその、あの人には色々深い事情が、ね」

 魚住はお茶を濁す。

「事情ねえ……」

「もしかしたらヴィーナスプロジェクトのファンをやってる娘がいるかも知れないから、社内伝言板か何かで募集かけておきますね。まあ、でも──しばらくは皆さん、反応無さそう……あんな状態だし」

 魚住の視線に釣られるように雄大も女性クルー達の固まっている一角を見る。

 ラウンジのテーブルに突っ伏して、へにゃっ、と(しお)れているのはユーリとブリジット、そして店員のリーダー格のキャシーを中心にした店舗クルーの女子達──40人ほど。

 水着の上に上着を羽織っただけの彼女達、フルマラソンを走り終えたようにぐったりとしていた。討ち死にした武士、いや浜辺に打ち上げられた魚の死骸だ。その一角だけ妙に空気が悪い、ついばむ鳥すら居ないため死骸が腐敗して悪臭を放っているかのようだ。

「どうしたんですかアレは」

「プライベートビーチで逆ナンパ──良さそうな男性客に声掛けて回ってたらしいわね──」

「それで?」

「──わざわざ私に結果について言及させたいのですか? 残酷ですね宮城さんは」

 魚住の言うとおり、素敵な出逢いがあったのなら大量の落ち武者は発生していない。

「でもひとりぐらい……」

「全員無事、何事もなくこのラウンジに生還したようです」

 魚住はヘラッと皮肉めいた笑いを浮かべる。

「あちゃ~───」

「みんな良い娘達ですけど──ここ、セレブリティの宿泊するホテルなんですよねえ。そもそも、宇宙船暮らしのあの娘達と惑星定住者のアッパークラスじゃ会話も弾まないと思いますよ」

 雄大はちらりと魚住を見る。

「──魚住さんは参加しなかったんですか。魚住さん、世話係とは言え木星帝国の王宮勤めですよね。それこそセレブみたいなもんでしょ」

 ハア、いえ別に──と気のない返事。

「私はそんな1ギルダにもならない事に血道をあげるのはちょっと……実は午前中、市長さんとメガフロートシティを周遊しながら色々『チェンジ!』なお話をしてきました。ビジネス面でのバックアップも取り付けられましたし、大変有意義な会談でした」

「え~と市長さんって、ユイさんを『連邦議員に推薦し隊』の隊長の人でしょう? 大丈夫なんです? 交換条件に立候補しろとか言われたりは──」

「推薦する会の会長──です。まあ、引っ張るだけ引っ張って、殿下御本人にしっかりきっぱりお断りしていただきますから問題ありませんよ。だいたい社長業にかまけて木星王家としての活動が疎かになりがちな殿下に、下々と一緒に楽しい議員活動をやる暇なんてありません」

 以前にユイが、魚住から皇室典範の見直しをやらされている、と愚痴っていたのを思い出す。魚住やユイにとっては木星帝国の復興が第一、太陽系連邦政府の議員というのは学生の部活動のような位置付けなのだろう。

「もしかして、魚住さん──議員立候補を餌に、援助を貰うだけ貰っておきながら市長の頼みごとは結局聞かないつもり、ってことなの? 悪いなあ……」

「ふふっ、もう宮城さんったらそんな身も蓋もない言い方して──人聞きが悪いですよ?」

 魚住はニッコリと微笑む、心からの笑顔。

「いい笑顔ですね……」

 ニコニコとしている魚住京香。思考回路は残念だけど容姿は割とイイ線いってるな、と雄大は客観的に分析した。

(いや、割と、どころかかなり。ユイさんやマーガレットのせいで目立たないけど素材はイイよな、クールな知的美女──)

 陸地に上がった魚の死骸みたいになってる女性陣に対して死体蹴りをするようで忍びないが、魚住女史を連れて行けばナンパの成功率は随分違っていたのではないかと思われる。少なくともゼロではないはず。

 今は割と残念な感じだが、もともと木星王家の子女の世話係として選抜されたほどの逸材、能力だけでなく気品や女性的魅力も人並み以上を要求されたに違いない。

「ねえ、ナンパの話に戻しますけど魚住さんが水着でナンパしたらイイ男引っ掛かるかも知れないから、明日あそこの腐乱死体(リビングデッド)引き連れてボーイハントのリベンジに協力してあげたらどうです? 魚住さんスタイルいいし美人だし──どうですか、ちょっと水着姿になってみません? 誰にも見せないままメガフロートシティを去るなんてもったいないと思うなぁ」

「は?」

 眉間にスゴい皺が寄る──氷で出来た槍で滅多刺しにされるような凍てつく視線。強い、間違いなく強い──

「いえ、何でもありません……」

「私の容姿がどうのこうのでグループの業績が上がれば苦労しませんよ。そんな水着の話よりもエアレースです。宮城さん、実は先ほどレース舞台裏の模様を『栄光への軌跡』というドキュメンタリー番組として配信するよう指示を出しておきました。ミルドナット社に有料チャンネルを準備させましたのでご協力お願いします」

「ファッ?」

 魚住が今、熱心に文章を作成していたのはどうやらその有料配信の件らしい。

車載(オンボード)カメラとか車内にも配信用のドローン張り付かせますんで、みっともないところは見せないでくださいね」

「あっ、はい──で、でもそういうの、事前に相談して欲しいなぁ……すぐそばにいたのに」

 魚住の目尻がつり上がる。

「事前に相談して欲しかったのはこっちです。いきなりレースに参加を決めてくるし、挙げ句に太陽系全域にファンがいるベテランを会見の席上で辱める始末──」

「は、はぁ……すみません。でも考えなしにただ調子ぶっこいて悪態ついてたわけじゃなくてですねぇ……」

「わざとならやめてください。幸い、殿下とウィリアムさんの交際疑惑に関心が集中してるおかげで悪目立ちはしてませんけど──取り敢えず配信では謙虚かつ誠実なところを見せてください。殿下の婚約者として発表する前に悪いイメージがついたら後が大変ですよ?」

「りょ、了解しました──」

「よろしくお願いします、それでは私そろそろ行かなくては」

「え、今から? ディナーは食べていかないの?」

「地球連邦政府広報が木星総督を通して我々木星王家宛てに正式な文章を送ってくるらしいんです──今から緊急に木星総督府と会議です」

「ウィリアムのせいでなんか大事になってますねえ──」

「元を辿れば宮城さんのせいです。しっかりしてください未来の皇配殿下──ニュース屋に振り回されて地球閥の男なんかに殿下を取られないようにお気をつけて」

「そんなバカなこと──ハハハッ。ウィリアムとユイさんじゃ釣り合わないよ」

「──容姿だけなら雄大さんより議長の御曹司の方が釣り合い取れそうですけど」

「はうっ──」

 グサリ、と雄大のプライドに特大の楔が打ち込まれる、PPを鏡面代わりにして、格好良く見えるアングルを探し始める。

 魚住はそんな雄大を残してスタスタと共有スペースのラウンジを出て行ってしまった。


◇◇◇◇◇


「金持ちのいい男ゲットしたらあんな忙しいばっかりのコンビニ船なんか降りて、ちゃんと空気と水が無料の環境税を支払わなくても住む惑星に定住して──人生大逆転してやろうと思っていたのにィ……」

 キャシーが手足をジタバタさせる。

「アラミスには環境税無いよ──あたし環境税なんて払ったこと無いもん」

 大半がぐったり蠢いている中、ブリジットだけはケロッとしている。

「リンジー、あんたの住んでた無法地帯にはそもそも政府が存在しなかったのよ」

「あ、そっか」

「イイ男はほとんど新婚旅行のヤツらばっかりでさぁ」

「カップルはビーチに来るな! いちゃつくならこそこそ人目に付かないとこでやればいいのに。見せ付けてんのか!」

「ほんとよね~!!」

「それな! あの見下したような目! 男がいるからって偉いわけでも無いのにね!」

 そもそもエウロパは新婚旅行先であり、ホテルアンヌンはセレブリティの宿泊する落ち着いた宿である。決して出会いの場では無い。彼女達の方がむしろ美しい砂浜に混入したコンクリートの礫といえよう。

「あの大学生三人組、めっちゃ水着に食い付いて来てたのに。リンジーが馬鹿力だしてネットの支柱壊しちゃうから。ドン引きよ!」

「あれは惜しかったねぇ……年下、ちょー可愛かった。誰よビーチバレーでおっぱい揺らして悩殺しようなんて馬鹿なこと言い出したの。頑丈(タフネス)さと根性(ガッツ)をアピールしてどうすんだ!」

「で、でもビーチバレーの鉄製の支柱曲げるぐらいパワフルな女の子が好き、って男の子だっていてもおかしくは無いじゃんか」

 男に可愛らしさをアピールするどころかボール遊びのほうにふっかり夢中したブリジットはボールを追いかけて支柱に激突した。

「普通、折れるのは人間の骨なんだけどな………」

「生存競争の激しいジャングルで日々戦いに明け暮れている男の子ならあんたのこと一目で気に入りそう」

「え───あたしアラミスに帰ったらモテモテ?」

「ああ、群れを率いるような強い動物(オス)から引っ張りだこな」

「むしろ群れのリーダーになりそう……」

 ブリジットは小声でひーどーいーと言うとメソメソ泣く真似をする。

「ぶりっ子可愛くねえからやめな」

「そ、そうかにゃあ……」

 何ともかしましい大反省会である。

「このフロア、貸切で良かった──目一杯愚痴れるもんね」

「でも一番の敗因はアレよ。ユーリが露骨に結婚の話とか良妻アピールすんのがブリジットの支柱破壊よりドン引きだったと思うわ。アレかなり重かった」

「あたしのせいかよ!?」

 数人が頷くのを見てユーリは、くそぉ~と一声唸るとウィスキーのボトルを持ち出した。

「呑むどー! 今日は呑む!」

 乾いた笑いが起きる。ユーリはウェイタードローンがちまちまと水割りを作っている姿にイラついてウィスキーのボトルをドローンから取り上げた。

「もー、何でもいい、酔えればいいんだよ」

 ぺろりと舌を出し、ラッパ飲みの体勢になる──次の瞬間、ユーリの手からボトルが取り上げられた。

 驚くユーリの頭に拳骨が落ちる。

「な、何だァ!?」

 ユーリが拳の先にある相手の顔を見る、小田島医師がウィスキーのボトルを握って仁王立ちしていた。

「げっ、小田島のおばさん──」

「──こんなリゾート地にいるのは遊び慣れてる男性しかいないんだから。良い仲になっても結婚まではいかないでしょ?」

 再びユーリの頭を叩く小田島医師。

「そんな夢みたいな事言って、失敗したらお酒に逃げる──典型的なダメ人間の行動パターンじゃないの。お酒なんてやめてこれからの事を真剣に考えなさい」

「え、説教なの? ちょ、ちょっと待って?」

「フラッと出て行ったかと思えば軍隊なんて入って……そのくせ待遇に不満があったらクーデターなんて大それた事に荷担する! もうムチャクチャじゃないの! リクセン艦長さんや皇女殿下、伯爵閣下のとりなしで免責になったからいいものの──昔の大人しくて引っ込み思案のユーリちゃんの方がおばさん、好きだったわよ?」

 ユーリの顔が羞恥で真っ赤に染まる。

「せっかく医療従事者資格取ったんだからちゃんとした医者になる勉強しなさい。皇女殿下にお願いして私の助手として正式に木星帝国に就職するのよ」

「が、ガチ説教とかやめてくれよ、せっかくの休暇なのに萎えるだろ?」

「こういう時だからこそ自分の普段の行動を見つめ直してちゃんと更生する良い機会なのよ」

 普段怒らない小田島医師はユーリにだけは厳しく接する、同郷で親代わりをやっていた縁があるらしいふたり──女子従業員達は気を利かせて各々の部屋へと引き上げていく。

「──おい、おまえら逃げるなよっ!? ひとりにする気か」

 青ざめて立ち上がろうとするユーリをブリジットが抑え込んで力ずくで椅子に座らせた。

「てっ、てめ──」

「ひとりにしないよ? なんかここにいたらユーリちゃんの昔話が聴けそうジャン?」

 ブリジットは、ウシシ、と笑うとPPのボイスレコーダーを機能を立ち上げた。

「覚えてろてめ~!」

 




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