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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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飛び込み営業

 銀河コンビニぎゃらくしぃ号の一番の売りはその機動力である。

 公社が建設した航路の途中には中規模の基地が点在し、最低限の燃料、緊急時の水や食糧、薬など生活必需品などを備蓄している。これらの基地は民間でも利用出来るが基本的には政府直轄であり、軍施設としての意味合いが強いため置いてある食糧は軍用であり緊急時には民間に無料で提供されるが味の方はそれなりに悪い。

 サターンベースのような基地であれば多少の娯楽や嗜好品も売っているが大きな宇宙港に着くまで宇宙船の乗員は買い物とは縁が無い。

「そこで移動店舗の出番なんだよ」

 髪の毛が多少薄い細身の中年男性、甲賀六郎と操舵士の宮城雄大はぎゃらくしぃ号のレジを立ち上げ、客の迎え入れ準備の最中であった。

「客船は基本、銀河公社の独占状態だし、長距離貨物船はライバルが多過ぎるという事ですか」

 電源を入れシステムを立ち上げレジ周りを清掃する。

「そうそう商売敵になるよりは連中を客にしてしまおうという発想の転換だよ。退屈な航海でウンザリしている連中に嗜好品やら何やらを売りさばこうってわけだ。宇宙港に店舗を構えて客を待つより飢えた客をこっちから探しにいくんだよ」

「よくわかりましたけど。六郎さん、俺はなんでここでレジ打ちしなきゃいけないんですか? 俺は本来、操舵士なんですけど」

 六郎は雄大の顔を見て首を傾げる。

「操舵士と言えば船員の花形だけどさ。お前、店員と言えば最前線の花形、店舗の顔だよ? 嬉しくないの? ほらお客様がいらっしゃったよ、おしゃべりはここまでな」

(う、嬉しくないってーの!)

 隣を見やると、リンゴが初勤務でガチガチになってる。緊張でぷるぷる震えているようだ。

 雄大は小走りにリンゴの傍に駆け寄った。

「リンゴ大丈夫か?」

「宮城さん、お、おら……うまくやれるべか。心配だっぺー……」

 顔が強張ってて今にも泣き出しそうだ。

「ゆっくりでいいから。あと客の事は同じ人間だと思うな。餌をもらいに来た犬か猫だと思って優しくしてやるんだ、そしたら自然な笑顔が作れる。いいな?」

「えっ、そんなんでいいだか? 相手はお客様だべ? わんこと一緒なんて失礼だぁ」

「そら駄目さ、でも今はそれで乗り切れ。いいな?」

「わかっただよ、おら宮城さんの事信じる……」

 ガシッとリンゴの肩を掴む。雄大に励まされた事でリンゴはようやく落ち着いたようだ。


 ぎゃらくしぃ号は宇宙軍のパトロール艦と接舷していた。ハッチが開くと若い船員達がぎゃらくしぃ号の店舗エリアにどっ、と押し寄せてきた、手に手に買い物カゴを持って店内に散らばる。ブリジットと六郎が営業スマイルで店内の売り場説明とおすすめ入荷品の案内を始める。

 人気はやはり「酒」「ジュース・駄菓子」「ホットスナック」「カップラーメン」そして不動の一番人気は「漫画・雑誌など書籍」である。

 任務中の軍艦ならずとも宇宙船は外部からの電子的な干渉を嫌う、電子機器の集合体である宇宙船内の制御コンピュータが誤作動した時の被害は計り知れない。特に軍艦はその辺りの制限が厳しく電子データの持ち込みは厳禁だ。どんな悪意のあるプログラムが紛れ込んでいるかわかったものではない。

 おかげさまで紙媒体の漫画雑誌や書籍が飛ぶように売れる、ぎゃらくしぃ号で漫画を買った船員同士は互いに貸し借りをして余暇時間を漫画雑誌を読んで過ごすため、それが習慣になりそして中毒といえるレベルにまでなっている者も多いという。


 雄大のところに若い下士官が雑誌を大量に抱えて持ってきた。十冊、いやこれは二十以上だ。

 気付くと雄大のレジ前に若い男性が列を成していた。

(これは……)

 リンゴのレジの方が比較的空いてるが、彼等が彼女のレジに列ばない理由は……

 雄大が機械的に書籍購入者をさばいていく。

(そりゃあ……リンゴのとこにこういう際どい系の雑誌は持って行きにくいわなぁ。まあ、あいつはこういうの耐性あるけど)

 きらびやかな金星アイドルのグラビアからちょっと人前では目を背けたくなるような過激な表紙のものまで様々だった。


「おーい! ユウダイもリンゴもなかなか手際良かったぞ。あらかたさばけたから休憩入るか? ン?」

 ブリジットに促されて店舗エリアを出る。

 ドッキング状態を維持したままパトロール艦とぎゃらくしぃ号は併走を続けている。

 ブリジットは缶入りのオレンジジュースを持ってくると後輩2人に押し付ける。売り物じゃないのか、と思ったがキチンと購入済みになっている。

「すいません、いただきます」

「いいっていいってこのぐらいなんてこたねえよ! おごりだから遠慮しないで!」

 一番安い50ギルダの缶ジュースだからあんまり遠慮する気はないがリンゴの方は何度も何度もお礼を言ってそのたびにブリジットが照れている。

(似た者同士……)

 この二人、よく今までこんな純粋な心のまま生きてこられたものだ。

「あたしはもう少し残るけどあんた達は上がっていいよ。じゃ、これからもこんな感じでよろしく頼むぞ!」

 必要以上に大きな声を出してブリジットは売り場に戻っていった。


 初仕事が終わった安堵感からなのか2人になるとリンゴは急にはしゃぎだした。雄大の手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねる。雄大はジュースを少しこぼしてしまった。

「お、おい俺まだこれ飲んでないんだって」

「……宮城さん、おら緊張せずうまくやれたっぺ! 途中、苛々してる子がいたから頭撫でてやっただ。こうやって、よしよしって。えへへ」

 リンゴは背伸びして雄大の頭を優しく撫でた。

「ハァ?」

「そいだら急におとなしくなっただぁよ。わんこと思えば怖くないって本当だべ!」

「そ、それは良かった……で、でも撫でるのは控えた方がいいかなーって。ほら急に触ると怒る犬もいるし」

「そうだべか?」

(……この子にたとえ話は通用しない、アドバイスするにもちょっと言葉に気をつけておかないと)

「じゃこれはどうだ?」

 今度は雄大がリンゴの頭を撫でる。

 リンゴは驚いて雄大から飛び退いた。

「……ぴゃああ? き、急にそっだらことされたら!」

「ほらビックリするだろ? これからは急に頭撫でたりするのは無しだぞ?」

 リンゴは顔を真っ赤にしながら、はーいと頷いた。


 約半日の営業が終わり、ぎゃらくしぃ号はパトロール艦とのドッキングを解除して予定のコースに戻る。

 食堂でリンゴと一緒にチキンソテーとマッシュポテトをつついているとユイ皇女の声で雄大に呼び出しがかかる。

「お疲れのところ申し訳ないのですが~……」

 近隣を航行中の貨物船グループ、ぎゃらくしぃ号をなるべく早く利用したいと2時間前からひっきりなしに光短信を送ってきているそうだ。

 皇女殿下は客の要望に応えるために雄大に少し無理な操縦をしてもらいたいのだろう。

(何とも人使いが荒いけど……こんな可愛い娘、しかもお姫様に頼られてるって結構気分がいいよなァ)

 軍内部の出世争いで痛くもない腹のさぐり合いをやってストレスを貯めたり、父親や一族の事で過剰な優遇を受けたり逆に露骨な嫌がらせをされたりするよりかは割かし面白い仕事なのかも知れない、と雄大は感じていた。

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