エアレースへの参戦②
メガフロートシティGPの予選走行のエントリーが始まった。
予選とはいえ見物客の数は多く、それを当て込んだ出店も盛況な様子だった。それもそのはず、前回、前々回と強豪チームのワンツーフィニッシュ──という予定調和が崩れて中堅どころのチーム・ペンドラゴン、そして今期から新たに参戦した金星資本のチーム・レッドドラゴンが個人及びワークスチームの優勝争いに参加していたからだ。
ブックメーカーには例年比にして三倍に近い賭け金が振り込まれていた──賭けの中心にいたのは金星チームのハッキネン、ウィリアム、ベテランのボッテガ。この三者の年間王者争いだ。
ベットは既に締め切られていてボッテガに賭けていた富豪連中は特に応援に熱が入っている。
人類社会にモータースポーツは数々あれど、エアレースG1ほど規模が大きく人気があり、歴史の長いレースは無い。スポンサー企業の名前を宣伝するために狭い専用コースを何周もぐるぐる這い回るだけの自動車レースの発展型だが単純で分かり易いが故に多くの人を熱中させる。
マシンの見た目は都市部でもそう珍しくはない四輪のスポーツカーと酷似しているが最高速度は時速にして600㎞毎時。反重力プレートで浮き上がり小型ジェットエンジンで加速する。空中や地表スレスレに用意されたチェックポイントを順番に通過していきその通過タイムを競う。
宇宙空間を小型の高速艇で飛び回る航宙レースが若者達の間で流行した時期があってエアレースは時代遅れとまで言われたのだが、大規模な航宙レース大会を立ち上げていざ配信してみると宇宙空間を飛ぶという絵面は想像していたより飽きが早くて視聴数は伸びず、安全性の確保が大変な割に観光PRも出来ず利益に直結しにくいためロクなスポンサーがつかず、という二重苦に見舞われてあっという間に廃れた。
今でこそシティの年末を彩る恒例催事として定着しているエアレースだが、かつてはこのエウロパで地球のモータースポーツをやるなんて誰も想像できなかった。
そもそも銀河公社によって安全な航路が整備されるまでは地球~エウロパ間の移動には結構な日数がかかってしまい、事故も珍しくは無かった。木星帝国崩壊前は、民間人の気軽な宇宙旅行などというのはせいぜい火星止まり、太陽系全域での開催をうたったプロスポーツであっても比較的身近な月か火星への遠征でお茶を濁すほかなかった。
実は、このエアレースG1の第19戦がここメガフロートシティで定期開催されることになった経緯には地球閥の政治的な思惑が絡んでいる。
地球資本の会社のロゴマークを付けた数多くのマシンを、木星圏のエウロパの空に飛ばすこと──これは木星帝国の臣民達に支配体制が変わったことを印象付ける狙いがあった。知名度と企業イメージが向上した地球資本はエウロパ都心部へ進出し若者を中心に受け入れられてきたのである。
◇◇◇◇◇
エントリー・フィーの支払いとマシン登録、ドライバーズ・メディカルチェックを済ませたウィリアム達チーム・ペンドラゴンは、マシンに備え付けられているシミュレーション機能を使って仕上がりを確認していた。
「調子はどうだウィル」
監督代行のリタがウィリアムに訊ねる、一人前に作業服に着替えチームロゴの入ったスタッフ用の帽子を被ってサングラスをかけている。まるで子供の仮装大会だ。
「いいなそれ似合ってる、最高」
「ありがとう。女の格好をしなくて済む良い機会だからな、スカートというのは未だに慣れん」
リタの言う事はたまに難解だ。しかし、この幼児は仕事に関してはかなり信頼できる。知識量も豊富で冷静沈着。作戦会議をやったときにわかったのだが、この幼児は勝負事の駆け引きをしっかり理解している。
見た目の貫禄の無さを除けば、監督代行としてこれ以上は望めない人材といえる。
「マシンの調整について何か問題はあるか?」
「ああ問題ない。しかし色々セッティングが変わっていてあんた達の流儀に慣れるのはもう少し時間がかかるかも──」
「そうか? 以前よりパフォーマンスが上がったのは明白だがそこまでピーキーな調整ではないだろう。これでタイムが出ないようならそちらの責任だ」
それだけ言うとリタは大会運営本部との打ち合わせのためにチーム・ペンドラゴンのガレージから出て行った。
ウィリアムはシミュレーションを切り上げると、セカンドドライバーの調子を確認しにいった。
(あの幼児、俺の心配よりこのど素人のほうを心配してやれよ)
「おい宮城、どうだ? 何か手伝える事はあるか?」
雄大もウィリアムと同じくマシンのシミュレーターを走らせて何かPPにメモを取ってブツブツ呟きながら方程式を組み立てていた。
「うん、ちょっと気になってる事があるんだけど」
「いいぜ、先輩に何でも聞けよ」
「このチームのオーナーって確か英国領のペンドラゴン卿だよな? 何か言ってこないのか、この非常事態に」
チーム・ペンドラゴンのオーナーは英国貴族モート・ペンドラゴン卿──地球閥の一員である。
レースの細かい事はよくわからないくせに、眺めて酒の肴代わりにするためだけにオーナーをやっている酔狂な男である。ウィリアムから見れば、金は出すが口は出さない、理想のオーナーだ。
「非常事態なのは知ってるけど『判断はおまえとタチェに委せる』ってさ。それよりか今の年間王者争いのほうに夢中になっててな、応援団を引き連れて本選を観戦しにくるそうだ」
「スタッフの補充とか八百長疑惑を調査するとかそういう手を打ってくれればいいのに」
「敢えて知らない振りを決め込んでるんじゃないかな、バカの振りをして敵を作らない──彼なりの処世術だと思う」
監督がやる気無くして逃げた時点でメガフロートシティGPは棄権させるべきだろうに、ドライバーのやる気に感銘して全権一任するなどペンドラゴン卿の酔狂ぶりには呆れるほかない。
「スタッフの身の安全より、ペンドラゴンの名前が売れるほうが大事ってことさ。でも、そのおかげで俺は好きにやれるからオーナーには感謝してるよ、死んでも取るぜ年間王者──」
ウィリアムは自らの全身が静かに燃えているのを感じ取った。怒りや動揺で我を忘れているのとは違う。闘う準備が出来たのだ。
「こっちよりか自分自身の心配をしろよ宮城。本日デビューのド素人くんなんだからな、一本目は七割の速度で完走して感触をつかめ、おまえはタイムを出すより先ずは完走を心掛けるんだ」
「こんなもんゲームと一緒だよ」
これからモンスターマシンに乗り込むというのに、リラックスしてチェックポイントのおさらいをやっている雄大。
「宇宙船の中みたいに快適じゃないぞ。宮城は従軍経験があるらしいが戦闘機乗りじゃないんだろう? 予選走行だからって舐めてると地面と激突する羽目になるぞ」
「──エアレースの死亡事故ってさ……」
「おいなんだいきなり縁起でもない」
「エアレースG1で死んだドライバーはここ10年でゼロ。20年遡ってひとりだ」
「それは俺達グレードワンドライバーが細心の注意を払って乗っているからだ」
「海賊は獲物以外のパトロール艦みたら殺す気で粒子砲撃ってくるし、魚雷もロックオンしてくるぞ」
雄大は真顔でウィリアムの顔を見据えた。
「それと比べたらひとりで自由に飛べる予選のタイムアタックなんてゲームと一緒だよ」
ふざけているようにみえてこれでなかなか侮れない。ウィリアムは雄大への評価を少し改めることにした。
(なるほど、あのユイ皇女や金髪から信頼されてるのもわかるような気がする)
「変な心配して悪かったな、ちゃんとプロフェッショナルの顔してるよおまえ」
「ありがとうウィリアム。まあお互いリラックスしていこうぜ」
雄大とウィリアムはガッチリと握手をした。
◇◇◇◇◇
『大変ですキング……』
ホテルアンヌン、ロイヤルスイート702号。金星マフィア、悦楽洞主達の代表としてこのエウロパにやってきている男──通称、キング。普通にエウロパに入ろうとすると入国審査に引っ掛かり、たちまち連邦政府から捜査官が派遣されるほど悪名が知れ渡っている男だ。
現在はファイネックス社のランファ・シン・タチバナの手引きでこのホテルアンヌンに滞在している。
「何ですか?」
『今から送るデータにアクセスしてください……』
「もう少し寝かせてくださいよ、まったく。僕は朝が弱いんです」
キングと呼ばれた男は眠そうに目を擦った。
『失礼ですがキング、もう午後です』
「それは銀河標準時でしょうが。金星時間だとまだ朝なんですよ」
端末を開くとエアレース配信の総合司会をやっているベテランキャスターのメイナードがかつてないほどエキサイトしながらシティGPの予選会について語っている。
どうやらチーム・ペンドラゴンが予選走行で最速タイムを叩き出し、本選のスターティンググリッドでポールポジションを獲得したらしい。前回王者、黒人レーサーのボッテガがインタビュワーに煽られて機嫌を悪くしたのか、ドレッドヘアを揺らしながら何かシャウトしている。タイムの取り直しをしろ、レギュレーション違反だ、と連呼していて現場が相当混乱しているのがよくわかる。
「チーム・ペンドラゴン──」
キングの眉がピクピクと小刻みに動く、表情にこそ出さないが機嫌は相当に悪いだろう。
「ウィリアム。散々警告してあげたのに度し難い馬鹿ですね。しかも最速タイムなんて──こちらもこれで腹が決まりましたよ。多少の無茶は許しますから、さっさと殺しちゃってください──」
『しかし、何やら市警察のディッシュという男が嗅ぎ回っていまして、今強引に動くのはこちらの命取りに』
「何でもいい、ウィリアムを優勝させるな。絶対にだ」
『かしこまりました』
「レース中なら事故で片付く──ん? 何ですかこれは」
キングはここではじめて細い目を見開いた。
「──ポール・ポジションを取ったのって新人ドライバー?」
キングがウィリアムの順位を検索する──マシントラブルがたたって32台中18位──
「何これ──」
『ええ、そのせいで界隈がすごく荒れていまして』
キングは顔をしかめた。
「なにが起こっているのか、正直理解しかねますね……」
◇◇◇◇◇
「宮城雄大さん、あなたのことを教えてくれませんか?」
「はっはっは、いやー名乗るほどの者でもありませんよ。昔、ちょっとね……ふっ」
雄大は大勢の記者に囲まれていた。
ポールポジションをかっさらった新人の登場に記者達はわいていた。雄大がチラと覗くと記者のひとりが文字媒体のメディアに出す文章を作成していた。
『緊急特集! エアレース界に超新星あらわる! その不敵な魅力と超絶テクニックの秘密に迫る』
雄大はニンマリとほくそ笑んだ。
「ふふふ……実力、実力」
目に見えて増長しているが、天狗になってしまうのも無理はない。
「雄大さ~!!」
バタバタと走りながら此方にやってくる少女。
「おお、リンゴくんじゃないかね、応援に来てくれたのか」
濃紺のセパレート水着の上に袖無しのベストとデニムのホットパンツを着込んだ海沿いの街らしいスポーティーないでたち。鏑木林檎は溢れんばかりの元気を振りまきながら記者の足の隙間を潜り抜けて雄大の前にやってきた。高く飛び跳ねると雄大の上半身に飛びつく。
「こらこらやめないか人前で」
「雄大さ、レースで優勝したんだか? なんかどこのニュース屋さんでも騒ぎになってっぞ!」
リンゴは器用に雄大の肩によじ登り、ちょうど肩車の態勢になる。少女特有のぱつんぱつんとした張りのある太腿を撫でるとリンゴはくすぐったそうに笑う。
「こら、やめるだよ、フフフ!」
「そっちも締め付けるのやめないと。もっと変なとこ触っちゃうぞー」
「ひゃひゃは、脇腹はやめるだよ、おらそこダメなんだってば!」
きゃっきゃっ、と暴れるように戯れるふたり。
「あ、あの~……宮城さん、そろそろインタビューの続きを」
「そうだなぁ~、なんていいますかぶっちゃけ話すこと無くないですか? 結果が全てですよ結果がね」
雄大は目を細めて底意地の悪そうな笑みを浮かべると、チームライトニングのボッテガに視線を送る。
「シーズンも大詰めの今になって参戦を決めた理由は? 今からだとあと二戦しかありませんけど」
「いや、俺、別にエアレースで食べて行く気なんてないんで。たまたま職場の慰安旅行でエウロパに来たら、ボスから『エアレースに出なさい』って言われたもんで。まあウィリアムくんの年間王者争いに加勢するだけのつもりが、なんだか俺の方が目立っちゃってほんと、申し訳ない、ハハハ」
「は、はあ……? スポット参戦、ですか?」
記者達は顔を見合わせてざわざわと何事か話あっている。
「なあ雄大さ、これ宇宙で一番?」
「そう。あそこの怖いおじちゃん達が長いことかかっても出せなかったタイムを三回走っただけで出しちゃったんだぞ」
雄大は隣の記者会見席を指差した。
「ヘイユー!? いい加減にしなサーイ!!」
「なんたる無礼漢……許し難し!」
精悍な黒豹のようなスレンダーなボッテガと、たっぷりと脂肪を貯えたレスラー体型の巨漢マーフィー、エアレースの二大スターが雄大の煽りに対して過敏過ぎるほどに反応していた。
「お、おい宮城、煽るにしても言い方があるだろ」
隣で顔をひきつらせていたウィリアムが雄大の背中を小突く。
「なんだよ、ウィルもあいつらに言ってやれよ『年間王者はいただいたぜロートルども』って」
ひえっ、とウィリアムが悲鳴を上げる。ボッテガが立ち上がって何やらアメリカ訛りで怒鳴りつけてきた。
「ユー達ペンドラゴンチーム! 本選で大恥かかせてヤリマース!」
「珍しく意見が合いましたなボッテガ殿、本選と言わず今この場で小童どもに非礼を詫びさせよう──」
マーフィーもその巨体を揺らしながら立ち上がる。
「ほほう、やってみろよ。だがな、俺達の後ろ盾を知っても喧嘩を売る度胸があるかなご両人?」
「後ろ盾──? ペンドラゴン卿だろ?」
「ふっ──見て驚け、皇女殿下のおなりである。一同、頭が高い!」
雄大が記者会見席にもうけられた衝立をガラガラと動かすと裏手から、物凄く申し訳無さそうに頭をペコペコと下げながらユイ・ファルシナ皇女殿下が現れた。
「げえっ──!」
「こ、こ、皇女殿下だと~!?」
「ワッザハプン?」
一気に会場全体がヒートアップする。各チームそれぞれの会見はそっちのけになってしまい、ドライバーや監督達は記者のいなくなった席にぽつんと取り残されてしまった。
金星資本のチーム・レッドドラゴン、そしてチーム・ワイヴァーンの面々は苦々しげに皇女にたかる記者連中を睨んだ、レッドドラゴンのファーストドライバー、ハッキネンは現在ウィリアムと4ポイント差で単独2位だ。レッドドラゴンは新設チームながらワークスとしてもボッテガのチームライトニングを押さえてトップをキープしている。
本来なら、いまごろ注目を集めていたのは、このレッドドラゴンのはずだったのだが──雄大のポールポジションとユイ皇女の登場で完全に話題をかっさらわれてしまった。
「すみません、本当にすみません!」
ユイは王侯貴族に連なる人間としてはかなり腰の低い方だが公式の場で何度も頭を下げ困り顔を晒すのはなかなか珍しい。
「すみません、うちの操舵士が本当に挑発的ですみません……後でキッチリと言い聞かせてから謝罪させますから、ボッテガ様、マーフィー様、どうぞこの場は私の顔に免じていただきたく──」
「む、むう」
「よりによってペンドラゴンのバックにユイ・ファルシナ皇女殿下とは……」
振り上げた拳をどこにおろしてよいかわからないボッテガとマーフィー。ふたりはブルドックのように唸りながら雄大と皇女の顔を交互に見比べるとそれ以上、何もいわなくなった。
「ありがとうございます」
ホッとした顔で溜め息を吐くユイに、ひとりの記者が興奮気味に問い掛ける。
「あのっ、あのですね、ま、まさか! 皇女殿下、噂は本当なんですか!?」
「は、はい? 何の噂でしょう?」
ユイも記者の緊張に釣られて少し動揺気味に返事した。
「あ、あなたがチーム・ペンドラゴンの支援をしているというのはまさか──そこにいらっしゃるウィリアム・マグバレッジさんとの交際が順調に進んでるという事なんでしょうか!」
「え?」
呆気にとられるユイ。
「ええええ~っ!?」その他の記者連中が大きくどよめく。
寝耳に水とはこのことである。ドローンに指示を出してユイとウィリアムのツーショットを撮り始めた。
「交際!」
「熱愛!」
「え、えらいこっちゃ!」
以前、皇女がロンドンの戦没者慰霊式典に参列した折に、マグバレッジJr.が『息子の嫁にしたい』と公言していた。
ユイへ求愛アピールする独身の著名人は数多くいるが、最も有力と思われているのが連邦政府議長の長男、ウィリアム・マグバレッジその人だ。
何しろハンサムな上に実家は裕福、父親は最高権力者──加えて環境にあぐらをかかず名門大学で経済学をおさめ独力で畑違いのグレードワンのドライバーの座を勝ち取った気骨ある若武者派だ。
会場全体がレースの話をしなくなった。
毒気を抜かれたようになったボッテガは首を傾げながら椅子に座り、マーフィーは憤慨して肩を怒らせながら会場を後にした。ポールポジションを奪取した雄大ですら邪魔者扱いされ、記者から押しのけられる始末。
「なるほど! 年間王者を取って皇女殿下にプレゼントするんですねウィリアムさん! ステキです!」
女性記者が黄色い声を上げた。
「地球と木星の友好を象徴する、なんとも爽やかなビッグカップルの誕生ですよ!」
「いえその──」
ウィリアムの女性ファンが語るウィリアムの魅力は父親譲りの二枚目顔と野生を感じさせる荒々しさの融合にあるらしいのだが、この時のウィリアムは借りてきた猫のように大人しく、ただただ赤面していた。
ウィリアムは記者連中から交際についてコメントを求められると意を決したように胸を張り、力強く応えた。
「──レースは何が起こるかわからない。勝った奴が速いんだ。速い奴が勝つとは限らない。俺のとこのセカンドドライバーが言うように結果が全てだ──そうだろうハッキネン?」
ウィリアムは一度、金星の息がかかったチーム・レッドドラゴンのハッキネンを睨みつけた。ハッキネンは何も応えないが殺気のこもった視線をウィリアムにぶつけた。
「もう話すことはない。とにかく俺は栄光を勝ち取る」
ウィリアムはユイの腕を乱暴に掴む。ユイは驚いてウィリアムを見詰めた。ウィリアムも真っ直ぐユイの瞳を見据える。
「あの、ウィリアムさん? お顔が恐いです」
「会見は終わりだ」
記者連中の驚きと興奮は最高潮に達した。
ウィリアムは照れ隠しをするようにユイの手をぐいぐい引っ張って会場の裏手へ逃げるように去っていった。
えらいこっちゃ、と騒ぎ立てながら記者達は報道局の上司や職場と回線を繋いで会議を始めた。エアレースの取材にやってきてまさか、時の人、ユイ・ファルシナの熱愛疑惑をスクープ出来るとは──思わぬ特ダネに目の色をかえて『売れる』記事の作成に取りかかった。先程まで作成されていた雄大の紹介記事は「熱愛疑惑」「交際発覚」の文字列に上書きされていく。
「あのー、俺へのインタビューはまだまだ受け付けてますよ~──超大型新人でーす──」
残された雄大は、リンゴを肩車したまま棒立ちで忙しそうな記者達を眺めていた。
「──おらは雄大さが一番かっけえと思ってっから安心するとええだ」
よしよし、と頭を撫でてくれるリンゴの優しさが身にしみる雄大だった。




