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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
108/121

エアレースへの参戦①

『なかなか帰ってこられないから魚住と一緒に心配していたのですよ』

 PPを介してユイのホログラムと会話する雄大。

「ごめんねユイさん、なんか警察に犯人と間違われてPP取り上げられちゃって」

『厄介な事件に巻き込まれていたのですね、逆に安心しました、ふふ』

「え? 事件で安心?」

『メグちゃんとその──『駆け落ち』でもしたのではないかと──ちょっと心配しました』

 ユイは恥ずかしそうに微笑む。

 真横でそれを聴いていたマーガレットは動揺のあまり紅茶を噴き出しそうになった。

「俺はともかくとしてマーガレットはユイさんに黙って逃げちゃうなんて出来ないよ。性格的にもね」

 マーガレットも小さく頷くので雄大は苦笑いする。

「それでちょっと頼み事があるんだけども──」

『はい? 何でしょうか』



◇◇◇◇◇


「そういやあのお高くとまってる金髪はどこに消えた?」

「ああマーガレットか、あいつは風呂と着替えだな……たぶん三時間は帰ってこない」

 ウィリアムは昨晩マーガレットに殴りかかって逆に投げ飛ばされた事を恥じていた。頭に血が上って我を忘れていても紳士たるもの女に殴りかかるなど言語道断。

(ぶん投げてくれてありがとうすっかり落ち着いたよ、なんて言えるわけないだろ)

 顔を合わせないで済むのは正直気が休まる、頭痛のタネは少ない方がいい。

「おい宮城、おまえ……腕利きメカニックに心当たりがあるって本当なんだろうな?」

「勿論だ、くせ者揃いだが信頼度は抜群のメンツだよ」

 ウィリアムのチーム・ペンドラゴンが借りているガレージで雄大はG1マシンを弄っていた。

「ていうかおまえ、さっきから俺のマシン触ってるが──航宙ライセンスAAAってのは反重力ヴィークル整備士の資格とかまで取得させられるのか?」

「任せろ。名作と名高い『ポールポジション銀河GPX』の対戦で俺に勝てる奴はいないぜ、しかもマシンチューニングの実績もゴールドで全解除してる──余暇時間を費やした甲斐があったな」

 雄大は自信満々に親指を立てた。

「ゲームじゃねーか!」

 ウィリアムは雄大の尻を蹴飛ばす。

「いったいな! たとえゲームでも本格的なシミュレーターだ、開発者のマシュー・ブレナンに謝れよ。彼は天才だ」

「ああああもう! 俺がやるからどいてくれ!」

 ウィリアムは愛機のエンジンルームを覗き込む。実のところウィリアムの知識は学生レベルで止まっている。

(くそっ、悔しいがロボットのサポートがなきゃサッパリだ──もっと勉強しとくんだった)

 ウィリアムの手が止まって目が泳いでいるのをみた雄大は勇気付けるように彼の背中を力強く叩いた。

「まあまあ、俺がここに呼んだメカニックチーム『チューニング三銃士プラスワン』はマシンの整備に関してはおそらく太陽系随一の連中だ。四人揃えばタチェさんにもひけはとらない──」

「──三銃士、プラスワン──?」

 渋い顔をするウィリアム。雄大のPPから電子音がすると、ちょうど、2台のホバークラフトがやってくるのが見える。ガレージ前に横付けすると何やら荷物と人員を降ろし始めた。

「噂をすれば、ってヤツだな。どうやら三銃士が到着したようだぜ」

 ゴクリと生唾を飲むウィリアム。

(まさか現役引退して経営者におさまったような大物エンジニアでも連れてきたんじゃ──)


「待たせたな兄弟──」

 半開きだったガレージのシャッターが全開になる。外の光とともに勢い良く入ってきたのはダンディーな声のロボットを先頭にした一団……

「俺はぎゃらくしぃ号の調理主任、牛島実篤だ──特製サンドイッチを持ってきたぜ」


「────ラフタだよ──早く終わったら早く帰れる?」


「──リタだ。ほう、おまえまさかウィリアムか? 立派になったな」


 ウィリアムの前に、飯炊きロボット、引きこもり、そして──偉そうな幼女が現れた。予想を遥かに下回る寄せ集め感。


「これで三銃士プラスワンが揃った、まあ大船に乗ったつもりで待ってな。予選走行までにはバッチリ仕上げるぜ」

「おい宮城、プラスワン──ってのはまさか」

 怒りで震える拳をおさえつつウィリアムは雄大に尋ねてみる。

「よくぞ聞いてくれた、それはもちろんこのオレ、オンライン対戦の帝王、宮ぎ──」

 雄大が自分を指差すジェスチャーをした瞬間にウィリアムの拳が雄大の顔面にヒットした。



◇◇◇◇◇



「ふざけやがって──ちくしょう。なんであんな素人臭い連中に俺の運命を託さなきゃなんねえんだ。しかもひとりは幼児だぞ?」

 ウィリアム・マグバレッジはガレージの隅にあるパイプ椅子の上に腰掛け、自分のマシンの前に集っている三人と一台を遠目で眺めながらサンドイッチを頬張る。

「──どうぞ、コーヒーですよ。ミルクと砂糖たっぷりです」

「お──」

 ちょうど飲み物が欲しいタイミングで目の前に差し出されるプラスチックのコーヒーカップ。

 カップに満たされた液体をすすると疲れた身体と荒れた心に滲みてくる。いい匂い、コーヒーの匂いだけではないえもいわれぬ薫りがウィリアムを包み込む。

「あ~なんだこれ、めちゃめちゃ旨い……生き返った気分だ」

「いえどういたしまして」

「──え!?」

 ウィリアムはコーヒーポットを持った女性を見て驚く。

「あ、あんたユイ・ファルシナ? ホンモノか?」

 いつの間にか木星帝国の皇女殿下がランチボックスとコーヒーポットを積んだカートの前で食事の準備をしている。

「はい正真正銘、ユイ・ファルシナでございます。はじめましてですねウィリアムさん。朝早くから私共の身内が押し掛けちゃって。ご迷惑ではありませんでしたか?」

 本人をみるまで半信半疑だったが、雄大が電話で呼びつけたら本当にガレージまで木星の皇女殿下が弁当持参でやってきた。

(なんだこれ──どういう状況なんだ?)

「お隣、よろしいですか?」

 ユイは断りを入れてから隣に座る。柄にもなくウィリアムは赤面した。

(くそ、身体が熱いぜ。ついうっかり飲んじまったけど──コーヒーになんか入ってたんじゃねーだろうな?)

「あ、おい、そのコーヒー、なんか変な──」

「おかわりどうぞ」

「お、おう……」

 ユイは物腰柔らかに空のカップにコーヒーを注いだ。

 無礼とは思いながらもウィリアムは慎重に臭いを嗅ぎ液体に混ぜものが無いか注意する。

「毒は入ってませんよ?」

「わ、悪いな……金星の連中から毒を一服盛られないよう警戒しなくちゃならないもんで──」

 ユイには何もかも見透かされているようで、ウィリアムはなんとも尻の座りが悪かった。髪の毛と脇のあたりから何か鼻腔をくすぐる薫りがする。このまま隣に座り続けているとおかしくなりそうだ。距離を起きたいが、ガレージはそんなに広くない。

(この女──俺が木星帝国をイジメ抜いた連邦政府議長マグバレッジ家の血筋だって知ってるはずだろ? どういう神経してんだ?)

「雄大さんって変わってますよね~、ふふ」

「あんたも相当変わってる──俺は地球閥の顔役、マグバレッジJr.の息子だぜ? なんとも思わないのか」

「連邦政府議長には誠に申し訳無いことをしました──お父様とは式典で少し意見の衝突がありまして──私もまだまだ子供ですね、反省しています」

「そういう話じゃないんだよ、俺がウィリアム・マグバレッジだ、って知っててわざわざやってきたのは何でだ? 仇敵の窮状を笑いに来たのか?」

「いいえ、私は雄大さんとメグちゃん──マーガレット伯爵に会いに来たんですよ? 牛島さんにと一緒にサンドイッチを作って。ピクニック気分です」

「のらりくらりかわしやがって。正直に話せよ──地球閥に逆風が吹いてていい気味だ、って内心ほくそ笑んでるんだろ?」

「では正直に言います」

 ユイは座り直すと膝をウィリアムの方に向けた。

「冷凍刑を終えた私が、気が狂うほど憎んだ相手への復讐は終わりました──いえ、正確には終わりつつある、というのが正しいでしょう」

 ユイは横目でリタの方を見る。

「ただ、それと同時にその相手が作り上げた銀河公社は人類史上最も巨大で最も人類の発展に貢献した素晴らしい企業だと思います。銀河公社を打倒するのは私の生き甲斐であり目標のひとつです。復讐は終わりましたが、私と地球閥の闘いはむしろこれからが本番なのです」

「は──?」

「私は心の中に鬼を飼っています。それは世を憎む恐ろしい復讐鬼、8歳の頃の気性の激しい自分自身です」

 ウィリアムはユイの言葉にどきりとする。よく通る鈴のなるような声はウィリアムの心の奥底にまで染み入ってくる。

「消したくてもなかなか消えてくれず困り果てておりましたが、最近ようやく、その鬼子を消す方法がわかりました」

「どうするんだよ」

「楽しい思い出で、上書きしていけばいいんです」

 ユイはこれ以上は無い、という朗らかな笑顔を雄大達に向けた。

「…………」

 ユイは機械いじりに夢中になっている雄大や牛島、ラフタ達に暖かい眼差しを送った。

 ウィリアムは雄大達に嫉妬を覚えた、こんな笑顔で見守ってくれる社長(ボス)がいる。どんなに金を積んでも得難い宝物だ。

「そういうわけですから──地球閥の皆さんの窮地を嘲笑っても特に楽しくはないのです。むしろ、地球閥関連銘柄の株価乱高下の方が気になります」


「なるほど。憎むほどの興味すら湧かない、ってことか──遠回しとはいえキツいこと言うお姫様だな」

「正直に言え、と申されましたので──」

 ウィリアムとユイはクスクスと小さく笑いあった。

「いつかお父様ともこんな風にゆっくりお話が出来る時間を作りたいですね」


 

 しばらく後、マーガレットは未だに風呂から帰ってこないが、マシンのセッティングは終了した。

 かと思うと今度は何故か幼女の仕切りでスタッフミーティングが始まっていた。

 幼女は先程から訳知り顔で話を進めていく。

「──気になっていたんだがな、ウィル。2ndドライバーはいないのか。データを見ると前のレースも、その前も予選エントリーすらしてない」

「とっくに逃げちまったよ、そんなもん、薄情なやつさ。ワークスチームとしての総合優勝はまず無理だし狙う必要も無いさ。あとウィルとか呼ぶなクソガキ」

「勝利を確実な物にするためにはセカンドドライバーの存在が重要になる、これは明らかだ」

 リタはホロでマシンを2台映し出す。

「なんかあった時の予備でいいだろ。今の状況で力を貸してくれるドライバーなんていたらそれこそ金星の息がかかってる訳だしな」

 

「うむその通り、そこでな──セカンドドライバーはそこのユウダイ・ミヤギにやってもらう事にした。こやつなら身元がはっきりしておるし、コースも熟知している」


 ウィリアムを除く一同がぱちぱちと拍手をする。

「満場一致のようだな。ではユウダイミヤギ、我がチーム・ペンドラゴンは君を歓迎する」

「ありがとう監督、最善を尽くします」


(どこからどう突っ込んでいいか悩ましい)

 ウィリアムは小声で「もうどうにでもなれ」と呟いてテーブルに突っ伏した。予選走行まで、残り時間あと僅か──

 

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