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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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初航海へ

 いよいよ出港の日がやってきた。

 港の搬入用ロボットや商品を持ってきた業者の車が慌ただしく出入りする。艦内では見知らぬクルー数人とすれ違ったが悠長に自己紹介する時間の余裕はなかったので取り敢えず会釈だけはしておいた。出港前の船は全部こんなものだ、雄大は荷物を抱えて艦内を走り回る人達を横目にブリッジに顔を出した。

 ぎゃらくしぃ号の内も外も何かしら慌ただしい空気だったがここは妙に静まり返っていた。

「おはようございまーす。宮城、入室しまーす……」

 軽く敬礼の真似事をして入室するが特に返事はない。

「誰もいないのかよ……ったくこれだもんなぁ」

 操舵士の椅子に腰掛け背もたれを倒す、と不意に後ろの通信士の席で何者かが動いた。振り返るとラフタが「やあ」と片手を上げて無気力な挨拶をしてきた。

「うわ! なんだ……ラフダさんいたんだ」

「一時間前から。あと、呼び捨てでいい」

「あ、じゃあこれからラフタって呼ぶよ」

 ラフタはコックリ、と小さく頷いた。お互いまだ距離感がつかめないが真面目そうで割と気が合いそうだ、と優秀は艦内設備のチェック、燃料などのチェックに入った。特に問題は無さそうなので管制塔に向けて出港する旨を打電する。搬入も終わり、ハッチは全て閉じられた。

 そうこうしているともう一人、ブリッジクルーが入室する。

「げっ」

「あら」

 雄大の露骨に顔色が変わる、マーガレットだ。

 青地にオレンジのストライプが入ったドレスで現れた。ドレスといっても裾の部分を短くカットしてあり、なんとなくバレリーナのようでもある。

 瞬時にお互いのファッションについて嫌悪感を示すがごとく無遠慮に不愉快さを剥き出しにして敵意のある眼差しをぶつけ合う。

「今日は俺が飛ばすんですけどー。伯爵様は何しにブリッジへ? そのケバケバしいお洋服を見せびらかしにいらっしゃったのでありますか? ならもう帰って良いんじゃないっすか」

「いえ~、AAAライセンス様のさぞやご立派な操縦桿さばき。間近で拝見しようと思いまして、オホホ……それしか取り柄がないようですし」

 マーガレットの魂胆は雄大にも何となくわかる。何か粗探しをするために観察しに来たのだろう。

 ラフタはこの険悪なムードの原因を知らないので一人困惑して何事か声を掛けようとするがなかなか踏ん切りがつかないようだった。

 そんな雰囲気を破ったのは立体映像のユイ皇女だった。

「おはようございます! 皆さん今日はいいお天気、出港日和ですよ!」

 ユイは朗らかな笑顔で艦長席の辺りに陣取るとメインスクリーンを指差した。通信席に座っていたラフタがパチパチパチと馴れた手つきでスイッチを入れた。

 ブリッジのメインスクリーンに皇女の顔が映し出される。どうやら艦内に設置してあるあらゆるスクリーンにこの映像が流されているらしい。出港まであと三分です、今回も皆さん笑顔で頑張っていきましょう、と明るい声が響き渡る。

 どんな船でも出港する際には船長からクルーに向けて一言有り難い言葉が出されるものだ。ぎゃらくしぃ号の場合は皇女殿下の笑顔。

「宮城さん、それでは。よろしくお願いします」

 雄大はホログラムのユイに向かって座ったまま頷くと、正面に向き直りエンジンの出力を上げた。

「ぎゃらくしぃ号、発進します」

 アラミスの管制塔に告げると港側の固定フックが外される。此方も係留アンカーのロックを解除。滑るように船体が前進を始める。

 ゆっくりとエンジンの出力を上げる、ガイドビーコンに乗っかっていれば勝手に港から外に出してくれるのだが、雄大はわざとオートパイロットを切ってペダルと左手の操縦桿、そして右手の制御トラックボールを操作してガイドビーコンに乗るよりもスムーズに船体を港から出して見せた。

 ラフタがパチパチと拍手する。

「雄大、綺麗な操船」

「え? ラフタさん綺麗って何が?」ユイが首を傾げる。

「今のはガイドビーコン使わなかった。マニュアル操船」

「そう褒められたものでも……これぐらいは当たり前ですよ」

「まあ、気付きませんでしたわ!」

 ユイ皇女は無邪気にわー、と感心して手を叩いて喜んだ。パチパチ、とまばらな拍手。

「宮城さん、すごい! ねっ、スゴかったねメグちゃん。マニュアル操船なのに綺麗に飛んでたよね!」

 ただひとり、どんよりとした顔で手元の計記で何事か計算していたマーガレットは急に顔を上げて笑顔を作ったせいで頬が引きつって少し怖い顔になっていた。

「ま、それはそう~なんですけど……わざわざそんな無駄に疲れる事をしなくてもよろしいのではありませんこと? 気負い過ぎはよくないと申しますし」

 右の頬が凄い勢いで痙攣している。

「いえ、さきほど伯爵閣下がAAAライセンスの操縦桿さばきを見て今後の参考にしたい、とおっしゃられましたので丁度良い機会だと」

「えっ……?」

 嫌味を逆手に取られてしまった、若き少女伯爵の陶磁器のような白い頬が朱に染まっていく。

「そ、それはまぁ、そ、そのぅ」

「へー! そうなんだ、勉強熱心なんだね」

「く、ぐぅぬぬ~……」

「ご感想は?」ここぞとばかりにフフン、とふんぞり返る雄大。

 何か文句を付けようとしたマーガレットだったが言い返す言葉が見つからず赤面して歯噛みしていた。

「わ、わたくし用事を思い出しました。無事コースに乗ったようですしひとまず退席させていただきます」

 マーガレットは噛み付くような顔で雄大を数秒睨み付けると足早にブリッジから出て行った。

「あ、あれ……」

 ユイとラフタはオロオロしながら2人のやり取りを見守るしかなかった。

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