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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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木星発アラミス行

 木星発、アラミス行特急の船券15万ギルダ、一等客室オプション込み23万5千ギルダ。

「値上がりしてる……」

 木星宇宙港の乗船手続きカウンター、宮城雄大はPP端末で銀行口座のクレジット残額を睨んだ、元々険しい顔がさらに険しくなる。

 一等客室の価格に気圧された雄大はしばらく眉間に皺を寄せたまま思案していた。雄大の後ろで順番待ちをしている中年の婦人が咳払いを始めたので黒髪の受付嬢は少し困り顔で手元の端末を操作してホログラムデータを宙空に投影した。

「一等客室ですが今でしたら眺めの良い展望室スイートツインを同じ料金でお取りする事が出来ます、天の川やホワイトピラーの美しい景観を満喫出来ますよ?」

 整形美人特有の自然過ぎて逆に胡散臭い営業スマイルと化粧の毒気、銀河公社制服の胸を強調するデザイン、あくの強い色気に流されるままに雄大はPP端末を受付嬢に手渡した。

「じゃあ展望スイートでお願いします」

 根負けした、無駄な出費だ、想定外だ、と雄大は後悔したが今さら手持ちが心細いから二等客室でお願いします、とは言いだせなかった。

「はいスイートですね。それではプライベート・パッドをお預かり致します」

 受付嬢が雄大のPPをカウンターの端末にセットすると雄大の公開可能個人情報がモニタに映し出される。

 地球名 宮城雄大

 ユウダイ・ミヤギ 25歳 ルナA型 月一等市民

 外宇宙船舶ライセンスAAA 従軍経験有 

 病歴無 犯歴無 ワクチン投与済み

 受付嬢の目が丸くなり、きゃっと小さな黄色い声を上げた。

「月一等市民で」

「AAAライセンスですって!」

 隣のルナリアンっぽい受付嬢も身を乗り出して雄大の個人情報に食らいついた、後ろの婦人まで少しばかり目を剥いて雄大の頭の先からかかとまで観察して「どこのエリート航海士かしら」と値踏みを始めた。雄大はわざとらしく咳払いをして手が止まってしまった受付嬢に処理の継続を促した。

「申し訳ございませんお客様、手続き完了致しましたので端末をお返し致します」

 受付嬢は意味ありげに微笑みながらPP端末を返却するどさくさにまぎれて雄大の手を握ってくる

「ご旅行から御帰りの際には是非、こちらの番号まで……連絡待ってます」

 彼女はメッセージカードを雄大の手に無理矢理握らせると「15時までに外宇宙発着ホーム5番ゲート前までお越しくださいませ」と乗船案内を始めた。どうやら通常業務に戻ったらしい。なんとなく気恥ずかしくなった雄大は飛び退くように受付カウンターを離れた。


 ただっぴろい木星宇宙港を歩きながら雄大はPP端末に表示される銀行口座のクレジット残高を眺めていた。今からでも二等客室に変更できないものかと思ったがそこまで面の皮は厚くない。

「ライセンス失効する前に何とか良い職を探さないとなぁ」

 AAAライセンスを活かせるような職場なんてそうそう無いとは思うが長距離貨物船のドライバーぐらいならいくらでも求人があるだろう。アラミス星系はそういうところだ。

「女なんてな、肩書きだけで男を見て、値踏みするんだものな」

 舌打ちをしながら顔写真入りメッセージカードを指先でもてあそぶ。どこかの屑籠にでも捨ててやろうと周囲を見回す内に不意にカードの起動ボタンを触ってしまったらしく先ほどの受付嬢が水着姿でビーチで水遊びをするホログラム映像が連絡先の番号と一緒に再生された。

「水着……こっちも整形、かな?」

 ごくりと喉をならす。

 鼻の下をのばしているとすれ違った親子連れから冷たい視線を浴びせられた、あまり公共の場で再生するものではない。

(捨てる前に客室についたらPPにホロデータをコピーしよう)


 雄大がこれから乗る宇宙船は既に発着ホームに接舷していた。

 銀河公社恒星間大型客船「おおすみまる」定員800名、何度も木星-アラミス間を往復してきた古株だ。船体下部に展望デッキらしきものが見える。

 観光で行くならアラミスはそんなに悪いところでもないが、まっとうな地球市民や月一等市民が移住したくなるような住環境とは程遠い。観光地から一歩外に出ればその日暮らしの畜産コロニー・カウボーイや資源採掘の山師連中、賞金稼ぎやレトロなアステロイド・パイレーツが未だに幅を利かせているような治安の悪い星系なのだ。

 待機列で待つ間、大きな図体を持て余しているミルクスタンド・ロボットを呼びつけて飲み物を買う事にした。PPをかざすと広告ホログラムが飛び出してきて木星限定販売の「地球産原料だけでつくったこだわりのコーヒー牛乳」をお勧めしてきた。ホロをタッチして購入を決定するとPPから代金が自動で引き落とされ5秒でロボットアームがドリンクを雄大の目の前に運んでくる。

「受付もこいつみたいなロボットだったらキャンセルするのも気楽だったんだけどな」

 苦笑いしながらコーヒー牛乳で喉を潤すとちょうど乗船開始のアナウンスが始まった。PPも警告音を出して雄大に乗船を促した。

 一週間の船旅が始まった

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