番組(彼が人肉パティシエになったワケ)の途中ですが、実況中継します。
反省をこめて書きました。
「やばい…また…誤字報告をくらってしまった…」
猫又はびびってパソコンの画面を凝視したままだ。
一体何回目だ。文章を更新するたびに、目を皿のようにして確認しているのに。
誤字、誤字、誤字の山だ。自分で発見できればそれでいいが、自分の目には入らないときている。長い文章を読む目が滑る。自分の中ではできあがっている状況を文章にするので次々と書き続ける事に焦ってしまっている。早く、早く、早く続きが書きたい。
「困ったわね」
と声がした。この声は…
「み、美里さんじゃないっすか」
振り返ると、部屋の入り口に美里が立っていた。
「毎晩、ご苦労様」
美里は微笑んでいる。
「これ、オーナーからの差し入れよ」
と両手に箱を持っている。よく見ればチョコレートの入った箱だった。
「四個入りと、二十個入り、どっちがいい?」
「ま、まじっすか。ありがとうございますぅ。では遠慮なく」
と猫又は二十個入りの箱の方へ手を伸ばした。
美里はにっこりと笑って、大きい方の箱を猫又に渡した。
「ごちになりやす…」
猫又はチョコレートを一個、口の中に放り込んだ。
甘い、甘い、藤堂のつくった世界で一番おいしいと噂のチョコレート…
「ガリッ」と音がした。
「痛っ」
猫又は口の中の物を吐き出した。
粉々に壊れた、固くてじゃりじゃりとした味のない物。
「こ、これ…」
手の中にある箱の中身。残り十九個。
「チョ、チョコレートの食品サンプルじゃないっすか!」
「そうなの。見分けがつかないくらい精巧でしょ?」
と言いながら美里が近づいてきた。
「って、ちょ、酷いじゃ…何でこんなもん食わせる…あがが」
美里は四個入りの箱を机の上に置いてから、猫又の髪の毛を掴んだ。
猫又の顔がぐわっと上がる。そして美里はもう片方の手で猫又の顎を掴んだ。
美里が両手を動かすと、猫又の口ががくがくと動く。
「誤字、誤字、誤字。誤字が過ぎるのよ。へたくそな小説を大事な時間を使って読んでくれてる人に悪いと思わないの? 誤字にあたると気分が興ざめなのよ。分かってる?」
「へ…へい…すみません…」
「シリアスなシーンで誤字って、馬鹿なの? 頭、ザルなの?」
「い、いや、ほんますみません…」
マジかよ。この女こえ~よ。
美里は猫又の顔から手を離した。
「あなたの文章は一円にもならないんだから、せめて丁寧に書いたらどうなの?」
「はいはい」
「何なの? その態度」
「い、いや…まじですいません」
「次、やったら殺すわよ?」
へこへこと卑屈に頭を下げる猫又を見て、美里はふんと鼻を鳴らしてから部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まったので、
「け、偉そうに。殺人鬼のくせに、誰のおかげで好き勝手にお楽しみが出来ると…」
と猫又がつぶやいた瞬間。
「バシュッ」と音がして、猫又の頬すれすれに何かが飛んで行った。
何かがかすった頬が痛い。手で触るとひりひりとした。触った手を見ると、赤い血がついている。そしてバシュッバシュッと続いて何かが飛んできて、パソコンの向こうの壁にささった。
「いや~美里さん~~あ、新しい釘打ち機を購入したんすね~やっぱし、電気製品は日本製に限りますよね~~~釘、壁にめり込んでますよ~~さすが~すげえ威力です~」
猫又が顔を引きつらせながらそうつぶやいた。
「み、美里さん~~ここ、賃貸だから壁に釘打つとめっちゃくちゃ怒られるんですけど~~勘弁してくださいよ~~~」
残ったのは、壁にめり込んだ決して抜けないだろう釘。
一個空いたチョコレートの食品サンプルの箱。
そして四個入りの本物のチョコレート。
猫又は食品サンプルをマリンブルーの爪の容器の横に飾ってから、本物のチョコレートを食べた。 了
二、三日したら削除します。
どうかお気になさらずに(^_^;)