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るりか、降臨4 

 どんっと突き飛ばされた。まあ、あたしは肩が少しとんってなっただけなんだけどね。

 相手はすぐに手首を握っていたからひねったんじゃないかな。

 シェフなのに手首痛めるなんて馬鹿ね。

 笹本とかいうおっさんがあたしをにらみ付けていた。

「帰ってくれ。あんたが来ても由美は喜ばない」

 と笹本が言ったわ。声が震えてる。真っ赤になっちゃってさ。

「竜也に会いに来ただけよ。由美なんか嫌いだったもん」

 ママが慌てたように、

「るりちゃん、今日の所は帰りましょう」

 と言ったけど、ようやく竜也に会えたのに帰れなんてあり得ない!

 竜也は棺桶のすぐ側に座っていたけど、青白い顔をしてて憂いを含んだ表情がとっても素敵、黒いスーツもよく似合ってる。

 あたしだって似合ってるでしょ? この黒いワンピース。いつか着ようと思って買っておいて本当に良かった。フリルがたくさんついたゴスロリ風。ヘッドドレスも素敵でしょ?

 竜也は笹本に、

「笹本さん、相手にするだけ時間と労力の無駄ですよ」

 と言った。全くその通りよ。

 あたしは笹本を相手にしてる暇なんかないんだから。

 邪魔な由美がようやくいなくなったんだから、また明日から竜也のとこへ通えるわ!



 その晩、美奈子と弟の会話を聞いてたら、

「オーナー、店をたたむんじゃないかしら? 由美さん、亡くなってがっくりきてるでしょうから」

「困るなぁ。あの人いなくなったら姉さんが発狂する」

「発狂する? もうすでに発狂してるの間違いでしょ?」

 と生意気な美奈子が苦々しい口調で言った。

「お姉さんてこの先どうするつもりなの? もう嫁にもいけないでしょうけど、あなたが面倒みるの?」

「それは…しょうがないよ」

「あっそ、じゃあ、あ・な・た・が面倒みてね? あたしは知らないわよ。あなたのお姉さんなんだから」

「そう言うなよ」

「この先、子供が出来てもお姉さんの側にはやりたくないわ。何かうつりそう」

「何かうつりそうって…」

 本当に腹がたつ女だわ。何かうつりそうって、何なの?

 

 竜也が店をたたむなんてのは、美奈子の杞憂だったわ。

 まあ、そうよね。あたしが側にいるのに、どこかへ行くはずがない。

 竜也は相変わらずショッピングセンターの一階でケーキ屋を続けていた。美奈子の話では由美を殺した犯人がみつかるまではこの街から動かないと笹本と話してたってさ。

 でもあたしの予想通り由美を殺した犯人はいつまでたっても捕まらなかった。

 貴史君は取り調べまでは受けたらしいけど、証拠不十分とかで解放されたらしいわ。

 さすがに市長の息子よね。

 あたしは朝晩、竜也の店の前で彼を見守り続けた。

 いつになったらプロポーズしてくれるのかしら?

 実をいうとね、ウエディングドレスはもう作ってあるんだ!

 超フリフリのフリルがいっぱいついた奴!

 結婚式のプランももう考えてる。

 あとは竜也があたしを迎えにくるだけよ!

 でも由美の一周忌が過ぎた頃、あの女が引っ越してきた。


 美奈子が真白いふわふわした毛のポーチを持ってあの女と立ち話をしてたわ。

 玄関先で立ち話なんて全く下品なんだから。

 美里とかいうその女は嫌な感じがした。

 何ていうの? 冷たい目で人を見る感じが蛇みたいだった。あたしを見ても頭も下げないし、目を大きく見開いてあたしを頭の先から足下までじろじろ見たわ。

 むかついたから、美奈子の持ってたポーチをぶんどってやったわ。

 美奈子は半泣きで面白い顔してたけど、美里は薄笑いであたしを見てた。

 美里は無職で毎日ぶらぶらしてた。美奈子はあたしをニートだとか悪口言ってるくせに美里には親切にしてやってた。あたしは花嫁修業中なだけで、無職じゃないわ。でも美里は完全に無職だった。貧乏くさい自転車でハローワークへ通ってるらしいけど、すぐには見つからない様子だった。

 そのうちに美奈子の裏切りが発覚したわ!

 あの女、竜也がバイト募集かけたら教えなさいって言ってあるのに、あたしに内緒にしてたばかりか、美里に勧めたって言うのよ! 美里は面接がすんで明日から勤める事になったって美奈子が嬉しそうに弟に言ってたわ! 何、美里と仲良くなってんのよ!

 冗談じゃないわ! 

 あたしはその晩、あの女の部屋に怒鳴り込んでやったわ。

 うちが経営してるマンションに住んでおきながら、あたしの嫌がる事をするってどういう神経よ! 一番許せないのは美奈子だけど、美奈子への制裁は後よ。まずはあの女をどうにかしないと。

 美里は用心深い女だった。あたしがドアフォンを鳴らしたら、ドアを開けたけどチェーンをかけたままだった。ドアの隙間からあたしを見て、また薄ら笑いをしたわ。

 本当にむかつくんだから。

 痛い目に合わせてやる。あたし、本当にそう思ったの。


 次の日の夜、竜也の店を見張ってたら、あの女がショッピングセンターの裏口から出てきたわ。この時間になると、店には竜也しかいないの知ってるわ。でも店の表はすぐに鍵をかけられちゃうから入れないの。毎日竜也が出てくるまで隠れてるんだけど、美里を痛めつける方が先よ。

 美里が自転車を押してとぼとぼ歩いてるから、あたしは美里のとこまで走っていった。

 美里はあたしを見ると早足で立ち去ろうとしたけど、あたしは肩をつかんで引き倒してやった。自転車ががしゃんっと音をたてて倒れた。

「やめてください。八つ当たりも迷惑です」

「何がよ!」

「あなたが店で雇ってもらえないのはあなたの問題でしょ。私がバイトするのと関係ないでしょう」

「うるさい! うるさーい!」

 何て生意気な女なの。自転車を起こそうとしたから、足で踏んづけてやったわ。そしたらあたしを突き飛ばそうとしたから、ぎゃくに腕を引っ張って転ばせてやった。手が地面についたからその手を何度も何度も踏んづけてやったわ。

 美里は恨めしそうな顔であたしを見上げた。

「ここでずっとバイトするって言うなら、あんたの体もこうしてやるわ! あたしはこの町じゃ何しても許されるんだから!」

 美里が立ち上がって、あっという顔をした。

「藤堂オーナー」と言うから、あたしは慌てて振り返った。

 でも竜也はどこにもいなかった。

 そして首に痛みを感じた、と思った次の瞬間には目の前が真っ暗になった。

 え? あたし…どう…な…           

                               了

るりか、降臨。は四章で終了しました。ありがとうございました。

外伝はまだしばらく続きますのでよろしくお願いします。

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