表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チョコレート・ハウス 外伝  作者: 猫又
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

アキラの寝不足な一日

 朝、八時に姉の美里に叩き起こされる。

「アキラ、起きなさい!」

 ちなみに二回目は少しトーンが落ちて、三回目の声で起きなければ、タッカーで肩にお洒落な飾りを作ってくれる。今までに三回ほどタッカーでやられて右肩に傷が六つある。ちなみにあまりの痛さにかっとなり、飛び起きて相手を殴り殺しそうになった。はっと目が覚めてその相手が美里だと気がついて、慌てて振り上げた手を止めたのだが、肩の筋を痛めて二、三日肩が痛かった。

 今日も右手にタッカーを構えてきたので、飛び起きた。

「おはよー」

 とにこやかな美里の背中へ、

「くそばばあ」

 とつぶやく。

 美里が振り返り、

「さっさと飯喰って働きなさい、それとも、あんたが飯の材料になる? どう? 若い男は高く売れるのよ」

 と睨まれた。


 九時、朝食をすませ、着替えてから一階の職場へ下りて行く。

 十時、チョコレート・ハウス開店。

 午前中はわりと客が来る。届け物、土産物の購入やバースデーケーキ等の予約客が多い。

十一時、喫茶室で近所のおばさま方のお相手をする。アキラのファンは割と多く、アキラも愛想よくつとめる。

 十二時、昼食兼で近くのOLが喫茶室へ来る。ケーキ一個で腹の足しになるのか?と思うが、愛想よくつとめる。時々、デートに誘われたり、プレゼントを渡されたり、告白されたりする。全部、断る。

 一時、昼食。

 二時~四時、やはり喫茶室で働く。バイトの由香の友人達が入れ替わり来る。アキラとオーナーを見てはこそこそと話してくすくすと笑う。由香はいわゆるBLというジャンルの物が好きらしい。漫画を画いたり、小説を書いたりする仲間らしいのだが、オーナーとアキラをネタにしている様子だ。来年、由香が大学を卒業してバイトを辞めたら殺そうと思っている。

 五時、常連の由香の母親が血相変えてきて、しゃべるしゃべる。ショッピングセンターで幼い女の子をトイレに連れ込もうとした男がいたが、美里が騒いだので事なきを得たららしい。男は逃げ去ったので、周囲には警戒が必要だ。由香の母親の様子からして、あちらこちらでしゃべっているだろう。男を追い払った美里がチョコレート・ハウスの人間だとすぐに誰もが知ったと思われる。

 六時、駆け込みの客が多く、忙しい。

 七時、閉店。

 八時、家へ戻ってから夕食を食べる。

 九時、オーナーは笹本に頼まれたというデザートの仕上げに厨房へ入って行った。アキラは部屋の窓から外を見ながら、自慢のサバイバルナイフを研ぐ。

 十時、下の扉が開いて、美里が庭に出た気配がする。少し前から庭の周囲をうろうろしている男がいる事にアキラは気がついていた。ナイフを研ぎ終わったので、それを手にしてから階下へ降りる。

 庭に出て行くと、美里が若い男と話をしていた。手に小さいナイフを持っていたので近づいてサバイバルナイフの柄でこめかみを殴打してやる。

 男が庭に倒れ込んで、怯えた目で美里とアキラを見上げた。

 美里は子供は殺さないらしいので、獲物を譲り受ける事にした。

 笹本の車がやってきて、オーナーが依頼を受けていたデザートを渡した。

「笹本さん、こいつ小さい女の子に悪さする変態、そっち連れてっていい?」

 とアキラが言うと、笹本は嬉しそうに手をすりあわせて承諾した。

 オーナーと美里が金を受け取らなかったので、笹本は余計に嬉しそうだった。

 

 笹本の食肉工場へ獲物を運び入れた時、山内♂17才はぐったりとしていた。

 生まれて初めての恐怖になすすべもないという所だろう。エリートの家に生まれ、エリート教育を受けてきた。末は博士か大臣かと将来を嘱望されていたのだ。

「アキラ君、顔は最後にしてくれるかな? 綺麗な顔で写真撮りたいから」

「写真?」

 笹本が車の背後のドアを開けながら、

「そう、ほら、最近、スーパーの野菜でもあるだろう? 私達が丹精込めて育てました、みたいな札。ああいうの」

「もしかしてこいつの顔を食材ですって表示するの?」

「全面には出さないけど、まあ、雰囲気くらいはね。付加価値だよ。若いオスは喜ばれるからね」

「へえ」

 アキラはにやっと笑った。

「賢くてエリートだけど幼女にしか反応出来ない変態ですって書いとけば?」

 と言いながらアキラは車の荷台から山内を引きずり下ろした。

「ひいいい」

 と山内が悲鳴を上げた。

 山内は後ろ手と両足を縛られている。

 暗い倉庫のような場所に蹴り入れられ、山内は恐怖の為に失禁した。

「たすけて……助けてください」

 と山内が言った。

「無理」

 とアキラが答えた。

「美里に見られたのが運の尽き。そのまま逃げて隠れてるならまだ可愛げもあるものを、美里を殺しに来たお前の負け」

「アキラ君の大好きなお姉ちゃんを殺しに来たなんて君も度胸あるねえ。アキラ君に喧嘩売るくらいならあっさり自殺する方がましだって噂、知らないのかい?」

 薄暗い倉庫内の電灯をつけながら笹本が言った。

「笹本さん、妙な噂を流さないでくださいよ」

 とアキラが苦笑した。

 笹本が上着を脱いでビニール製のエプロンをした。早速腕まくりをする。

「あ、そうだ。藤堂君のデザートを冷蔵庫に入れて来なくちゃ。ちょっと失礼」

 笹本がオーナーから受け取った発泡スチロールの箱を持って、倉庫から出て行った。

 

 笹本が倉庫から出て行くのを見送って、アキラは山内の腹を思い切り蹴飛ばした。

 やはり鉄入りの重いコンバットブーツを履いている。

 山内はぐふっと血を吐き出した。

「内臓破れたらさ、苦しいぞー」

 と言いながら、アキラは山内の手と足を縛っていたロープをナイフで切った。

 思わず自由になった山内がアキラの顔を見上げながら、少しずつ身体をずらして逃げだそうとしている。

「俺を殺したらお前の勝ち、自由に逃げていけばいい。人間、死ぬ気でやれば何とかなるかもよ?」

 とアキラが笑った。

 山内は顔からたらたらと汗がしたたり落ちていて、恐怖で見るからに身体が小刻みに震えている。

「かかってこいよ」 

 とアキラが言った瞬間に、きえーーーーーーーーっと奇妙な悲鳴を上げて、山内がアキラに飛びかかっていった。その瞬間、アキラのナイフがきらっと光った。

「あ、あーーーー、ごめん、顔は最後って言われたんだった」

 研ぎ澄まされたナイフは山内の左目に深々と突き刺さっていた。

 山内の絶叫があがり、顔を押さえて苦しげに転がり回った。

「しかも目玉は貴重だから潰すなって毎回言ってるんだけど? 君といい美里君といい目玉を特に好んで潰すよね?」

 と声がして、入り口に笹本が立っていた。不愉快そうな顔で腕組みをしている。

 アキラはぽりぽりと頭をかいた。

「悪ぃ」

「まあ、元々アキラ君の獲物だからいいけど。それにしてもこんな顔じゃ写真にも撮れないな。顔写真は今回は諦めるか」

「じゃあ、もういいだろ?」

「どうぞ、あんまり内臓を壊さないでくれよ」

「分かった」

 アキラの顔が嬉しそうに輝いた。山内の頭を踏みつけて、ナイフを取り返す。

 どろっと潰れた目玉が出て来た。

 山内の絶叫が弱々しい悲鳴に変わり、そしてぜいぜいという息苦しい呼吸になった。

 アキラのナイフが山内の喉に突き刺さり、そして、そこから一直線に胸、胃、腹を綺麗に切り裂いていった。どろっと血が流れ出て、内臓がぷるんっとはじき出されて飛び出した。山内はまだ死んでいない。頭を上げて、自分の身体を見下ろしている。切り裂かれた身体から自分の内臓がぞろぞろと出てくるのだ。辺りはすぐに血で真っ赤になり、生臭い匂いが漂った。

 アキラはナイフを引き抜いて、山内の頭髪を皮膚ごとぞりっとそいだ。

 白い骨が見えたので、それをナイフの柄でガツンガツンと叩くと割れた。

 中には濁った色の脳みそが見えていた。

 ナイフの先で脳みそを少しすくって、山内の口に入れてやった。

「うまい?」

 と聞いたが、山内はもう生きていなかった。


「アキラ君、もういいんじゃないかなぁ」

 あまり食材を壊されたくない笹本が声をかけた。新鮮さも大事だ。

 死んだ瞬間からだんだんとまずくなる。笹本としては早く食材を処理したかった。

 ここで食人鬼と殺人鬼は相容れない。

 なるべく多くの食材を確保する為には獲物の身体を壊さないで欲しい食人鬼と、食には興味なく、破壊行為こそが目的の殺人鬼。だが、お互いにお互いを失えば破滅しかない。 共存の為にはお互いに譲り合う事も大事だ。

「いいよ。楽しかった」

 アキラは身体を起こして、後に下がった。

 笹本は嬉々として山内の身体を調べだした。

「笹本さん、俺、帰ってもいい?」

「いいよ。ありがとう。またよろしくね。いやぁ、君たち姉弟が揃ってから私のレストランの評判も上々だよ」

 と笹本が嬉しそうに言った。

「あっそ。じゃあね」

 と倉庫を出て行こうとするアキラに笹本が、

「ああ、そうだ。お礼を渡しておくよ」

 と言って懐から封筒を出した。

「いいよ、美里もいらないだろうし」

「そうはいかんね。私はこの食材で君に払う謝礼の五倍は稼がせてもらうからね。とっといてくれたまえ」

「そう? じゃ、遠慮なく」

 アキラは封筒を受け取って、ポケットに入れた。

「じゃあね」

 とアキラが倉庫を出て行こうとしたとき、笹本はすでに食材の解体にかかっていた。

 アキラは夜の街をぶらぶらと歩いた。

 チョコレート・ハウスまで歩いて帰ったせいで、就寝は午前二時だった。

 朝、四つ目のタッカーの針が右肩に刺さった。    了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ