ハンマー(五キロ)とガムテープ(布)
ハンマー(5キロ)とガムテープ(布)
「大丈夫?!」
美里の顔色が焦って白くなり、藤堂を見た。
「ああ、危なかった。とっさによけたから手をかすっただけだ」
「何ですって? 手を?」
「美里、相手にするな」
と藤堂が止めるも、美里の顔は戦闘準備万端の様である。
美里はきっと相手を見た。
相手は彼らふたりを威嚇している。
少し距離があるが、にやりと笑っているように見える。
「オーナーの手を怪我させるなんて絶対に許さないわ」
「美里」
腕をつかんで引き寄せようとする藤堂をふりほどいて、美里は、
「殺してやるわ」と言った。
「頭と胴体を引きちぎって、ばらばらにしてやるわ」
「美里! 奴は殺しのプロだぞ! 容赦なんてしないんだ! きっと何人も殺してる!」
「分かってるわ」
「君を危ない目に合わせるわけにはいかない。頼むからやめてくれ」
「あなたは部屋から出てて」
美里は藤堂へ振り返り優しく笑った。
「どうして」
「あなたに殺しの場面を見られたくないわ。ね、分かるでしょ?」
藤堂はため息をついて、部屋から出た。
カチャンとドアが閉まる。藤堂は部屋の外で壁にもたれて立っていた。
何も自ら危ない思いをしなくてもいいのに、と思う。
美里はすぐ前にあるテーブルの上にガムテープがあるのを見た。敵との距離をおきながらそれを手にする。最近のガムテープは弱くなった、と思った。粘着力が弱く、すぐにはがれるし、破れる。だが、何重にもぐるぐるまきにすれば拘束力もありそうだ。
敵が近づいてくる。
美里は敵から視線を外さずにガムテープを長くちぎった。それをハンマーの柄にぐるぐるぐると巻き付けた。
敵が首をかしげたように見えた。美里が何をしているのか、理解できないようだ。
美里はガムテープを巻いたハンマーの柄で敵に殴りかかった。
びゅんと空を切る音がした。
「ぎぎぎぎぎぎ」
と敵が床の上で悲鳴のような悔しそうな声を上げた。
「ばらばらにしてやるわ」
敵が抵抗して暴れたので、ハンマーの柄からガムテープのかたまりが剥がれた。
美里はハンマーを持ち直して、その五キロの先で敵をたたきつぶした。
ハンマーは重いが確実に相手を潰せるから好きだった。
ぐしゃと潰れる感触がいい。
ただ外へ出る時に持っていくのは大変なのであまり出番がない。
久々の活躍だった。
カチャっと音がして、美里が顔を出した。
藤堂は急いで、
「大丈夫か?」と聞いた。
「ええ、頭と胴体をばらばらにしてやったわ。ふふふ、見る?」
と、美里が笑った。
「いや…いいけど、片付けは俺がするよ」
「あら、そう?」
「ああ」
藤堂は箒とちりとりを持って部屋に入った。
見事だ。
見事に頭を潰され、胴体もぺしゃんこ。
手(?)も足もハネもばらばらになったスズメバチが床の上で事切れていた。 了
実話です。