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ハサミ

 ハサミ



 ハサミが好きだ。

 軽いし、頑丈だし、刺せるし、切るとざくざくと手応えのいい感触。

 舌切り雀なんて昔話があるくらいだから、ハサミは古来からある正しい武器だと思う。

 なんと言っても持ち歩いても不審じゃないのがいい。

 特にキッチンバサミがいい。持ち手もしっかりしてるし、固い物も分厚い物も割と切れるからだ。

 バチンッとちょん切ってしまうあの感触がいい。

 刺してぐりぐりぐりとこねるのもいい。傷口を広げてみるのもいい。

 

 昔、金持ちの友人がいた。中学生の頃だ。

 勉強が出来て、スポーツも出来て、いつもクラス委員に選ばれて、友人も多い。先生の受けもよく、そして彼女の友人もまた優等生ばかりだった。優秀な人間でなければ友達にはなれなかった。

 私は彼女が嫌いだったけれど、私以外の生徒はみんな彼女が好きだった。

 私は母子家庭でその母もろくでなしの母親だったので、お嬢様な彼女には心底馬鹿にされていたのだろうと思う。

「駄目ね、全然、違う。あなた、全然分かってない」と彼女によく言われた。

 彼女は彼女の思想だけが正義だった。

 彼女の用事をやりたがる女子生徒はたくさんいたし、彼女の事を好きな男子生徒もたくさんいた。

 だけど彼女は私に何かと用事をいいつけた。

 それをうらやましそうに見る生徒達。

 微笑ましいとでも思っているのだろう先生達。

 私は人つきあいが嫌いで、黙って本を読んで学校での時間を潰すのが常だったので、彼女の干渉が嫌だった。

 優等生は「友達のいないかわいそうな西条さんにせめて用事でもさせてあげて友達との交流を深めてあげればいいんだわ。そんな慈悲深い私のおかげで西条さんにも友達ができるに違いない」という顔で私を見た。そして私に格別親しい友達ができないままでいると、

「私のアイデアはいいのに、実行する西条さんが悪いんだわ。本当に不器用な人。片親しかいない人はこれだから」という彼女にとっては正当な理由で彼女の取り巻き達と笑うのだった。

 

 中学三年生で私は母を殺したので、その後は施設に入った。

 おかげで高校まで進学出来たから、母を殺した甲斐があったというものだ。

 店側が雇ってくれるかどうかは知らないが、母が生きていれば私は中卒で風俗に売られていただろうと思う。

 優等生の彼女とは別々の高校へ進んだが、ある日彼女の家に呼ばれた。

 地元なのでお互いに家も知ってる。中学までは皆が幼なじみ的な存在だった。

 彼女は進学校へ進んだのだけれど、その当時つきあっていた相手が悪かったのだと思う。

 みるからに「俺ら不良。そこが売り物だけど何か?」みたいな感じの男がいた。

 格好いいでしょ? 私の彼氏、みたいな感じで紹介され、そしてその格好いい彼氏が連れてきた男友達を私に紹介するわ、と言った。

 その男友達は彼氏よりも更に風采が悪く、そしてぶすっとした顔だった。

 明らかにその友達もむりやり彼氏につれて来られて迷惑している様子だ。

 仕方がないのでその日は四人で遊んだ。

 彼女がかっこういい彼氏といちゃいちゃするのを部屋の隅で見ていただけなのだが。

夕方、私は門限があると言って彼女宅を出た。

 格好いい彼氏達も帰る様子だった。


 彼女の家には誰もいなかった。親は夜が遅いらしく、姉妹もまだ帰っていなかった。お手伝いのような人がいたが、夕食を準備してから帰っていった。


 彼氏達が遠ざかっていくのを見送ってから、私は彼女の家に戻った。

 玄関入ったところで「忘れ物」と言うと、彼女「ねえ彼氏の友達とつきあわない?」と言ってきた。断ると不機嫌そうな顔になった。

「せっかくの私の提案を断るなんて、駄目ね、あなた」と言った。

 もううんざりだったので、私は持っていた学生カバンで彼女の顔面を殴打した。

 ぎゃっと言って彼女が倒れた。

 長い間カバンに入れたままにしておいたキッチンバサミを取り出した。玄関マットを彼女の顔の上に置いて、喉をちょきんと切った。びゅーっと血が拭きだしたのだが、分厚い高級そうなマットが吸収してくれた。

 彼女の身体はびくびくと痙攣して、腕や足をばたばたとして暴れた。

 しばらく暴れる様を見ろしていたけど、やがて動かなくなった。

 出血死よりも窒息が先だったのかもしれない。

 よく切れるハサミの先で、彼女の目玉をついてみた。すぐに潰れてしぼんだ。

 彼女はセーラー服を着たままだったので裾をめくって、切腹をしてみた。

 結構固い。

 切腹は痛いらしい。だから腕のいい介錯人が一刀で首を落としてくれないと、すごく苦しむと何かの本で読んだ。

 舌を引っ張り出して、真ん中から二つに切ってみた。スプリット・タンだ。

 舌っ足らずな話し方をするなとは思っていたけど、やはり舌が短かかった。 


 ハサミはいい。

  

 彼女の身体中をつまむようにちょんちょんと切ってみた。

 皮膚を切る感触は割と好きだ。

 殴り殺すのと同じくらい好きだ。

 傷だらけの彼女をそのままにして帰った。

 

 その日はよく眠れた。

 母を殺した日もよく眠れたが、同じくらい眠れた日だった。   了 



私もハサミは好きです。

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