番組(藤堂君は意外と鬼畜)の途中ですが、藤堂君が来たので実況中継します。
調子に乗ってまた実況中継します(^_^;)
「美里はまたうふふっと笑った、と。で3が終了にしよ。あ~次どうしようかなぁ」
と猫又はキーボードから手を離して、肩をぽきぽきと鳴らした。
連日の執筆は肩と頭にくる。
「年のせいだろ」
と失礼な事をぬかす声がした。猫又はその声が誰だかすぐに分かった。
美里でなければ危険はない。釘打ち機で背後から襲われる心配はない。
「あのね~どんだけがんばって書いてると思ってんの!?」
比較的穏やかであろう藤堂相手には猫又も強気だ。
「あっそう。じゃ、がんばって、これ差し入れ」
藤堂が両手に袋を持っている。中には黒い物体が入っていた。
「何これ?」
「調理学校の友人が実家のせんべい屋を継いだ。そこで作ったかりんとう。郷土の名産品で超有名」
「へえ、おいしそう」
「どっちがいい?」
「え…どっちって…またどっちかは食品サンプル? 勘弁してよ! 歯ぁ折れるって!」
藤堂はくすくすと笑った。
「食品サンプルじゃない」
「でも偽物でしょ!?」
「林の子供が公園で拾ってきたのさ。「美里さん、おやつ~~」って言いながら」
「公園で拾ったぁ?」
「そう、本当に子供って何するか分からないのな。美里も俺もびっくりしたよ」
と藤堂はまた笑った。
「公園で拾ったおやつって…まさか…」
猫又は袋の中の黒い物体を見た。
両方を見比べてもどっちもかりんとうに見えるから怖い。
「まさか…これ…犬の…?」
「で? どっちがいい?」
藤堂はくすくすと笑いながら、両手に持った袋を猫又の方へ差しだした。
「い、いらないわよ!」
「片方は本物なんだけど。すげえ美味い名産品」
「い・り・ま・せ・ん!」
猫又はつんと藤堂へ背中を向けた。
「まじ性格悪いよね、あんた達二人! どんだけがんばってあんた達の為に毎晩毎晩毎晩毎晩書いてると…」
「無能者め。それはそうと美里が怒ってるんだがな」
「怒りたいのはこっちよ! え…なんで怒ってんの?」
猫又は振り返った。あの女を怒らせたら何されるか分からない。
「お前、新連載を始めたらしいじゃねえか」
と藤堂が猫又をにらみ付けて言った。
「え、いや、その」
「俺たちをないがしろにして」
「違うって! 今までがんばって書いてきたじゃんか! ちょっと気分転換に…」
「へえ、じゃあ、あくまでも俺たちが本筋で? 土御門が気分転換だと?」
「え…ええ…まあ…そう、思っていただいてもやぶさかではございませんが…」
「あ、そう。それならそれでいい。話合いの席ではきちんと証言してもらうからな」
「ちょ…話し合いって…何それ」
「猫又は知らないだろうが、お前の書いた作品の登場人物が集まって時々会合をしている。誰が一番か。誰が一番作者に愛されているか、これは長い間決着がつかない問題だったんだが、今、お前は俺たちが一番だと言ったな?」
「え…ちょ、待って…それは…」
何これ、誰かを選ばないとならないって、どんな拷問。
藤堂は固まっている猫又に背を向けた。
「ちょ、待ってくださいよぉ。っていうか、みんな仲良くしてくださいよぉ」
「全く、無能な作者」
そう言って藤堂は部屋を出て行こうとした。
(やばい…このまま藤堂を帰すわけには行かない…チョコレート・ハウスは超気に入ってるけど…チョコレート・ハウスが一位と名乗りを上げたら、もっともっと激怒する登場人物がいる…しかも…何人もいる…もういっそ地球を壊しちゃおうっかなーって奴もいる…)
猫又はパソコンデスクの引き出しを開けた。
「フレディ、殺っちまいな」
引き出しの中には、伝説の殺人鬼「フレディ・クルーガー」のグローブがあった。
銀の鋭い爪がついた茶色い革のグローブ。もちろんレプリカだが、爪の部分は鋼鉄製だ。
ごそごそとフレディの爪が動き出した。
そろっと引き出しを這い出て、藤堂の後を追う。
フレディのかぎ爪は空いたドアから外へ出て行った。
ちょっと痛い目に合えば、藤堂も考えを変えるだろう。
作者には逆らわないのが一番だぜ。へっへっへ。
カキーン! と嫌な金属音が響いた。
しばらくしてごそごそごそとフレディの爪が戻ってきた。
「ぎゃ! 爪、折れちゃってるじゃん!」
しかも、革の部分にはやはり無数の釘が撃ち込まれている。
すまない、という風にフレディのグローブはくしゃっと凹んでしまった。
「どんだけ釘打ち機愛用してんだ…恐るべし…美里。殺人鬼も国産が最強って事か…しかも、うんこ置いて帰んじゃねえよ、藤堂さんよぉ」
猫又しばらく悩んだが、二つのビニール袋を両方とも捨てた。 了
フレディ…(T_T)