境界線
赤い目玉が左、右、左、右、左。黄色と黒色の境界線が、君と僕の間を遮る。
長い長い鉄の化け物が走る間、君の姿が見えなくなる。けれど、この化け物が通り過ぎても、境界線の向こうに君がまだいる確信があった。根拠はどこにも無いけれど。
化け物が通り過ぎた境界線の向こう、紅いコートを着た君が、ニッコリと笑っていた。
「おはよう。それともこんにちは、かな」
「時間的にはこんにちはだけど、深夜のバイトに入ってて、さっき起きた所なんだ」
「じゃあ、おはようだね。あと、おつかれさま」
「おはよう。深夜のバイトっていっても、ただ店に居るだけで良いんだ。お客さんなんて滅多に来ないから」
境界線を挟んだまま、他愛の無い会話をする。
カーブミラーに、黒色の半袖のTシャツを着た僕が映る。
「身長、ずいぶん高くなったね。私と変わらなかったのに」
「だから男の方が成長期は遅く来るんだって。卒業までにはもっと伸びるよ」
「今何年生だっけ? 二?」
君が指を折りながら数える。まだ片手で数えられるのに、僕はこんなにも変わってしまった。
「そっか、二年の夏休みかー。良いな、私もバイトしてみたかった」
「たまたま僕の所が楽だっただけだよ。クラスの皆はもっと大変だって言ってた。大変なのに僕より時給が低いって悔しがってるのもいるよ」
「むう。仕事選びも大変ね」
まったくだよ。と僕は笑った。
境界線は決して上がってくれない。君と僕の間に、いつまでも在り続ける。
こんなに安っぽい、触れば壊れそうな、黄色と黒色の細い棒が、君と僕の境目。
中学二年生の冬から、三年間。そしてこれからもずっと、君と僕の間に境界線は在り続ける。
ずっと。
ずっと。
カン、カン、カン、カン。と耳障りな音が空に響く。
「……今日はもうおしまいだね」
「うん。ごめんね。今日だって分かってれば、もっと早くに来たんだけど」
「仕方ないよ、お盆休みは長いから」
「次は冬だね。必ず早くに来る」
「うん。それじゃあ、また」
君は惜しむように手を振る。
赤い目玉が左、右、左、右、左。鉄の化け物が君の姿を隠してしまう。
今度この化け物が通り過ぎたら、そこにもう君はいない。