優里亜の恋バナ
中学3年生の山里優里亜はバスケ部、女子同士の話を合わせることに疲れているが、口には出せない。高校に入ったら何をした以下の話題で、優里亜はコミケに行きたいと言ってしまった。それを聞いていたクラスメイトの男子、立花浩紀が、行ったことがあると話してきた。立花は大人しく目立たない生徒。優里亜は自分がアニメ好きであることを隠している、だが立花と親しくなり、立花のお姉ちゃんに誘われ、夏コミに初体験をする。その帰りに友達に見られてしまうが、優里亜は開き直って笑いながら、コミケの袋を見せびらかす。優里亜は立花のお姉ちゃんがいる高校に、進学し同人誌を作ろうと思うようになった。立花も同じ高校を受験する。
「ねえ優里亜、俊夫のことどう?」
クラスの美羽が聞いてきた。小学校から中学三年の現在までの友達なんだけどさあ。この頃は美羽のみならず、女子は恋バナになると目の色が変わってくる。
「別にぃ、あんま気にしたことないしぃ。」
下手に返事すると尾ひれがついちゃう。この間なんかさあ、「かっこいいね」って言ったばかりに、私がその子のこと好きみたいになって、学年中にうわさ広がったわ。打ち消すの、すげえ疲れたし。
進路も始まるし、あんま余計なことで煩わされたくない。
「俊夫さあ、野球部で勉強もそこそこだし、顔もいいよね。」
「そうそう女子にも優しいしね。」
適当にうなずいとこう、でないとシカトしてると思われちゃう。
「優里亜はクール・ビューティーだよね。」
そう、その程度にしとかなきゃ。女子って難しいな。
休み時間はほぼ恋バナ、いや架空の恋の話だ。誰かさんと誰かさんがくっついてえ、別れてえ、とか空想の恋バナっていうか、言われた本人は迷惑じゃないかな?でも女の子のグループは、「ねえ」でうなずかなきゃなんないんだ。
「ねえ。」って聞かれて、そう思ったら「うんうん。」とか声出すけど、そうでなかったら後でもめるし、適当にうなずいておく。ああめんどくせえ。
「やばい、時間だ、次数学の常盤だぜ。」
「うざいし、しつけえよなあ。」
進路あるから、授業中はそこそこみんないい子らしいふりをしてる。
「これは公式だからな、覚えておかないと入試で失敗するぞ。」
みんな受験でピリピリしてんから、失敗とかいう言葉使うなよ。
隣の莉奈から手紙が回って来た。あんま、授業中の手紙回しにつきあいたくないんだよね。バレると怒られるし、特に今は数学の常盤じゃん。
莉奈は手を伸ばしてきた、仕方がないから受け取った。
指さしてる、斜め前の由香にだ。由香に渡せってことか、なんか私が見つかりやすい位置じゃん。やだな、でもしゃあねえし。
「おい、そこ!」
常盤に見つかった。あーあ、やっぱ常盤の時はまじいよ。
その後はネチネチネチ、いっそ怒鳴られた方が楽なんだよね。手紙の内容が『数学ねむい』おかげでいつもより長い説教。
昼ごはん、美羽、莉奈、由香と一緒に食べた。特別に仲いいわけじゃなくて、どっかのグループにいないとハブされるからだ。
「常盤ねちっけえ。」
「奥さんとうまくいってないんじゃねえ?」
あんまし煽ると、みんなまた何しでかすか分かんない、ご飯に集中してるふりをする。
「常盤の時は、手紙無しでいいよね。」
釘さしとこう。こういう微妙な気配りは正直疲れんだよ。
部活が終わり六時一斉下校、別にバスケが好きで入ったわけじゃない、美羽に誘われて入っただけだ。七月の試合で三年生は引退、そしたら受験勉強と好きなことができる時間が増える。本当は、アニメとか好きなんだよね。それまでは我慢するっきゃない。
「ただいまあ。」
「ああ、お帰り。夏の引退試合、日程は決まったの?」
お母さんが聞いてきた。
「七月の第三日曜日、真栄中でだよ。勝てば七月末に県央大会だけど、うちら甲陽中そんなに強くないから、その日で引退だと思う。」
「まだ分かんないわよ、県大会にも進出するかもしれないわ。それとね、塾の夏期講習のお金、振り込んでおいたわよ。」
家じゃあ普通の子してるんだ。学校と家とどちらが本当の私の顔なんだろう?
女の子って難しいなあ、男子がうらやましい。
お母さんは、公務員の家庭で育ち、それなりに躾が厳しかったらしい。でも私たち子供には、おおらかに接してくれる。もちろん、きびしい所はきびしいので、私が学校で別の顔を持つようになったのは、そのせいかもしれない。
親の前じゃ、絶対イマドキの言葉は使えない。
翌日、期末試験の範囲が発表になった。
「やばい、二年よりも総合2点は上がんないと。」
「平均点で?」
「違うよ、九教科でオール5だったら、5×9で45じゃん。オール3なら27点。学校によって内申点変わるからさあ。」
美羽は良く調べている。学校じゃあくだけているけど、美羽んちいいうちだもの。周りに合わせてるって感じ。
「えーとアタシ、二年生でギリギリ30じゃん。やばいか。」
莉奈はあんまり進路のこと、気にしてないみたいだ。
「行けるとこ行ければいいんだあ。」
莉奈らしい、あまり勉強してないけど、そこそこ点が取れて、遊ぶときは遊んでる。うらやましいっちゃあ、うらやましい。
「ねえねえ、高校入ったら何する。」
「部活、インターハイに出たい。」
美羽は運動が好きだもの。
「バイト、ファミレスでやりたいんだよね。でさあ、渋谷でショッピングするんだあ。」
莉奈は今でも服をたくさん持っている。
「うーんと、ハイスペックな彼ぴ作る。」
「由香ならでけるかも、可愛もんね。去年さあ、先輩から告られてたよねえ。」
みんなリア充目指してる、いやその振りをしている。
「優里亜はどうなん?」
「どうって?」
「ほらほら高校でさあ。」
「ああ、まずは入学出来たらってところ。」
「でもさあ、高校で彼ぴとか作らない?」
美羽はこういうの好きなんだよね。
「うーん、分かんないなあ。」
「やっぱ、優里亜はクール美女だよね。」
このままだと、浮いちゃうかな。
「あっ、でもコミケには行きたいかな。」
「ええ、意外!」
美羽たちとはあんまし、漫画の話しないもんなあ。しまったか、あんま自分さらけ出したくないし。
「そっかあ、みんなやりたいこと違うよね。私はファッション一筋だなあ。」
莉奈がそう言ってからは、また話題が変わった。助かった。女子グループは、コロコロ話題が転がる。この流れにうまく乗るか乗らないかで、扱われ方が変わる。三年の今浮いちまったら、たまんないからね。
帰りの会が終わると、みんな部活に行く。三年生最後の試合が目の前だもの。吹奏楽部の人たちは、秋の文化祭が最後だから、運動部より大変だな。
「山里さん。」
いきなりだよ、隣の席の立花だ。普段から大人しく目立たない。悪い奴じゃないけど、みんなが話しかけない男子だ。
「なに?」
「あの、山里さんってコミケ行きたいんですか?」
なんだこいつ、うちらの話聞いてたんか。
「なんでだよ?」
「いや、あの、僕コミケ何度か行ってて。中一の頃から高校のお姉さんに連れられて。」
「そうなん。」
反応しちまった。でも女子グループじゃないからいいか。
「夏コミって暑くて大変なんだろ?」
「うん、長い列並ぶんだよ。でも、みんな気にしてない。」
「けっこう行ってるの?」
「春コミ、夏コミ、冬コミ、みんな行ったことあるよ。今年の春コミは一人で行けた。」
「ふーん。」
って、なんで立花と会話してんだよ。
「じゃあ、部活あるから。」
あんまし長く話すと、周りから言われるから、適当に切った。でもあいつあんなに話す奴なんだ。
みんな午後練、熱が入っている。それなりに青春したいんだ、負けても勝っても。でも少しだけでも上位に行きたい。市大会参加だけじゃあ終りたくないんだ。
「みんな行くぞ。」
「甲陽ファイト!」
円陣組んで気合。なんか儀式みたいだ。
「試合頑張らなきゃ。」
「市大会から、せめて県央大会まで行きたいよねえ。」
私もなんかワクワクしてきた。好きで入った部活じゃないけど、みんな一年から一緒だし、それなりに友達もできたからな。これはこれでいいよね。
家に向かう途中思い出した。そうだ、今日はヤングパンチの発売日だ。まだ売ってるはず、駅前のスーパーの書籍売り場に行こう。
推しのマンガがあるんだよね。メジャーじゃないけど、好きなんだよな。
書籍売り場のある3階に向かった。雑誌類は入り口近くにある。
あった、ヤングパンチ。
「あれ?」
手を伸ばしたら、もう一人雑誌に手を伸ばした奴がいる。
「あれ、山里さんだ。これ読んでるの?」
ゲッ、立花だ。漫画好きってますます知られてしまう。
「ま、まあね。」
「そうなんだ、僕は連載中の『鏡の中の隠れ里』が好きなんだ。」
なんで好みが同じなんだ。こんなところ美羽たちに見られたら、半日で尾ひれどころか翼やら角がついて広まっちゃう。
「それアタシも読んでるけど。」
まずい、答えてしまった。学校じゃアニメの話などできないから、思わず言っちまったじゃん。
「ほんと?うれしいなあ。このマンガの良さが分かる人がクラスにいたなんて。」
そんなに喜ぶなよ。
「僕ね、去年の冬コミで作者の秋みちる先生から、直筆の絵とサインもらったんだよ。」
「ええ!すごいじゃん。」
いかん、好奇心が抑えられん。立花、ただもんじゃないな。
「浩紀、何してんの?」
後ろに制服を着た女の子、やけに親しげだな。立花の知り合いか、そこそこ可愛いし、胸がでかい。立花の彼女か?いや制服は甲陽総合高校のだ。もしかして年上好き?
「浩紀が女の子と買い物、へえ。」
そう言いながら私の方をちらっと見るとニヤッとした。
「もう、私という人がいるのにぃ。」
女子高生は、立花にべたべたしてきた。立花に腕を絡めるし、こっち見てまたニヤッ。何この女!
「ここスーパーですよ、何やって。」
と言いかけたら立花。
「お姉ちゃん、やめてよ。山里さんとは偶然会ったんだから。」
えっ?お姉ちゃん?
「はあい、高校生のお姉ちゃんでえす。初めましてえ。」
はあ、そういうことか、って私からかわれてんじゃん!
「あら、私のこと彼女とか思った?ww。」
「もうお姉ちゃんたら。山里さんは『鏡の中の隠れ里』のフアンなんだよ。」
「あらあ、そうなの私もよ。」
ああ、なんでここで盛り上がるわけ。とりあえず誤解?も解けたが。
「僕ね、来年お姉ちゃんと同じ高校受けたいなあって。」
お前、お姉ちゃん子かい。
帰り際、お姉ちゃんからアドレス交換しないかと言われ交換してしまった。強引だ、かなり強引だ。なんでこの女子高生が、立花の姉ちゃんなんだってなもんだ。
翌日学校に行くと、立花と目が合った。ニコッとされた。はずい、昨日のことは誰にも言わないでおこう。
すぐに終業式の日になったが、バスケ部は1時に再登校して、その後は5時までみっちり練習。熱いけどあと少しだし、私も後悔したくない。
正門をくぐると、立花に会った。
「こんにちは、山里さんはバスケでしたね。中体連頑張ってくださいね。」
女の子ぽい仕草は、お姉ちゃんに大部可愛がられて育った証拠だな。
「ありがと、立花は何で登校?」
「ぼくパソコン部なんだ、一応ね。で、夏休みに後輩の面倒見に来たんだ。」
そうかこいつ、パソコン部なんだ。
「僕もこれで引退。あとは夏期講習行って、八月にまた夏コミ行くんだ。冬コミは受験直前だし、とても行けないしね。」
「クソ暑いのに、よく行く気出るね。」
「うん、でも秋みちる先生にお会いしたいんだ。お姉ちゃんが個人的にSNSでつながってて、また新しい色紙でサインくれるって言ってたから。」
なんて、おいしい話なんだ!行きてえ。その日は部活の練習に熱が入った。どうしよう夏コミ初体験するか、うーむどうすっか。
休憩時間になると、さすが普段ほどではないが、恋バナタイム。
「ねえ優里亜、立花と親しいの?」
「ええ!何それ、初耳。」
「いつからそんな関係?」
やめてくれえ。
「なんでそんな話に何のよお!」
「だってさっき校門のところで立花と話してたじゃん。」
「いやそれは。」
その場は、お姉ちゃんと知り合いだからとごまかしておいた。
その晩、お姉ちゃんから無料通話。
「夏コミ行かない?夏期講習もその日は休みだよね。で、ついでにさあ浩紀と無料通話でつながってくんない?」
お姉ちゃんからの友達追加で、立花とアドレス交換する羽目になった。ぷっ、何よこのアイコンは。立花らしい子が『鏡の中の隠れ里』のヒーローの格好をしているアバターじゃん。ん?これ、あいつが作ったのか、うめえなあ、あいつますますただもんじゃない。
試合当日、今日は調子がいい。
「ベスト8入ったぞ。」
午前中勝ち進んだ。これで進路には書いてもらえる記録になったか。
「県央大会に行くには1位入賞しなきゃ。」
そこから県大会、関東ブロック、全国って行くけど、さすがにそれは無理だよなあ。
「でも3位に入ったら、うちの中学では、5年ぶりなんだって。」
内申も市内で3位のメンバーって書いてもらえれば、なおいい。みんな熱気が違う。
結局準決勝で敗退、3位は確定だった。
「私たちよくやったよね。」
ちょっと残念な悔しい気持ちもあるけど、でも満足かな。
「明日から、毎日夏期講習だあ。」
「そっちの方がつらくね?」
友達と写真撮ったり、打ち上げでファミレス行ったり、次を託す言葉を後輩に伝えたりして、そこそこ青春した。美羽の付き合いで入った部活だけど、いい思い出になった。
夜、お姉ちゃんから通話。
「3位おめでとう!」
何この写真、今日の試合じゃん。私がシュートしてるとこ、お姉ちゃん来てたんだ。
「お姉ちゃん来てたんですか?」
「浩紀も一緒だよ。それ浩紀が一眼のズームで撮ったんだよ。恥ずかしいからお姉ちゃん送ってって。」
立花計れねえ、何者かってなもんだ。
夏期講習はマジ辛い。部活で体を動かすことに慣れていたから、座学はきつく感じる。そんでも周りが真剣だから、私のような子でも、だんだんその気になって来た。あと一週間だ、でコミケ。
お母さんには、コミケ行くと話してある。甲陽総合の先輩に誘われたってことにした。あの高校は母親も勧めている、だから心配しないだろうって、私もやるなあ。
コミケの会場まで向かった、開始前にすでに長蛇の列。熱い中、ゆっくり進んで行く。暑さ半端ねえ。中に入ったら真っ先に、秋みちる先生のブースだ。
その後は興奮しっぱなしだった。秋みちる先生の直筆イラストにサイン、おまけに一緒に写メ。なんて幸福なんだ!
グッズも沢山買った。来場者はみんなコミケの袋持ってる。
「へえ、優里亜がこんなにアニメとか好きとは思わなかったな。」
お姉ちゃんが、驚いたような顔してた。
「コミケは高校に入ったら行こうと思ってたんで。取敢えずできちゃったから、高校で何するかなあ。」
「甲陽総合に来たら。デザインとかコミック制作も選択できるよ、私も受講してる。放課後はアニメ研究会の仲間と、同人誌作ってるし。」
そっか、そういう方向もあるか。総合高校は、何とか私の受験範囲だよなあ。夏期講習の最終試験でも、志望校圏内だったし。
グッズ抱えて電車に乗るのも大変だ。でも嫌じゃない。
家の近くの駅で下車した。お姉ちゃんと立花も一緒だ。
「お姉ちゃん、今日はありがとうございました。立花もありがとね。」
「あら私も立花だよ。」
お姉ちゃんはニヤッとした。
「浩紀とか浩ちゃんとか、浩紀君とかがいいんじゃないへへ。」
「僕はどれでもいいよ。」
なんでお前は受容的なんだ。
「じゃあ、浩紀で。」
「山里さんて呼び方はかまわないよね?」
浩紀は相変わらずの童顔スマイル。
「いいよ。」
しゃあねえだろう。
ふと前を見ると、やばあ。道路の反対側にバスケ部の連中だ。美羽と目が合った。
えって顔。尾ひれや羽どころか、ロケット推進機がついちまう。
美羽は私たちの持ってるグッズの袋見て、指さしている。バレたな、一緒にコミケ行ったの。
「へへえ。」
と愛想笑い、で袋を少し上げて見せびらかした。みんな、ははあって顔してうなずいている。まっいいか、あと半年もねえもんな。
二学期が始まっても、周りはなんも言ってこない。みんな進路に集中してる、恋バナどころじゃなくなったのだろう。
先生から志望校を書く用紙が渡された。甲陽総合高等学校と書いちゃった。
思春期の友達関係を、本当の自分を探している女の子とくしくも共通点があった普段は目立たないクラスメイトとのささやかな交流を描きました。
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