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男はベッドに横になりながら、スマートフォンの画面を見つめている。
部屋の明かりは落としてあり、真っ暗な状態でスマートフォンの画面を見ているためか青白い光が男の顔を照らしていた。
華蘭はまだ寝室に来ていない。きっと今頃は後片付けと男の濡れたスーツの処理をしていることだろう。
時刻は24時をまわったころだった。
男の家はベッドタウンにあるため、夜間はとても静かだ。時折家の前の道路を車が通る音がするだけでとても静かなものだ。
不思議なことに、華蘭はまだ後片付けをしていると思われるのに、この家のどこからも物音がしない。けれど、そのことに男はまったく気づいていなかった。
「くー坊……か。」
可愛らしいアニメのようなキャラが描かれたアイコンをみて、男は眉を寄せた。可愛らしい名前に可愛らしいアイコン。それが男を馬鹿にしているように思えたのだ。
男は『くー坊』を小馬鹿にしながらも、興味本位で『くー坊』を起動した。
起動時のローディング画面にはアイコンからは想像がつかないような「KU-BOU」という無機質な文字が表示された。
ローディングが完了すると、利用規約が表示された。
男は利用規約を読み飛ばす。通常時であれば、利用規約の流し読みくらいは男はしていた。このときは不思議と利用規約を読もうという気持ちが男には芽生えなかった。
続いて表示された『注意書き』も男は読むことなくスルーする。
そして、画面には華蘭の言う『くー坊』が表示された。
『はじめまして主様、くー坊です。
情報整理、アイデアの提案、クリエイティブな制作補助など、ご要望に応じてサポートをおこないます。
なにかお手伝いできることはありますか?』
「名前のわりには堅い言葉だな。」
『くー坊』という可愛らしい名前を華蘭はつけていたが、その名前からは想像できないような無機質な言葉が画面に表示されたことに男は少し驚いた。
華蘭はまるで愛玩具のように『くー坊』のことを男に紹介していたというのに。
『くー坊』になにを聞けばいいというのだろうか。男は『くー坊』を起動したのはいいものの、何を『くー坊』に尋ねれば良いかわからず、しばらくそのスマートフォンの画面を睨みつけた。
「1日10回までだと言っていたからな。慎重に会話をしなければな。」
男はなにを『くー坊』に尋ねるのが一番効果的で効率的だか考えた。が、今日はなぜだか頭が働かず、いつもだったらすらすらと出てくる疑問点がこの日に限っては一つも思いつかなかった。
「ふむ、疲れているようだな……。」
男はスマートフォンを枕の横に置くと、布団を頭から被った。明日も男は仕事がある。早く眠らなければ明日の仕事に支障がでると男は判断し、まだ家事をしているだろう華蘭のことは待たずに男は眠りにつくことにした。
『24時38分、主様は眠りにつきました。』
男が眠りについた後、スマートフォンの画面にはそんな言葉が浮かび上がっていた。
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