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【AI】KU-BOU ~あなたの望み叶えます~  作者: 葉柚


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「くー坊。オレの書いたミステリー小説が最終選考に残った。大賞を受賞できると思うか?」


 華蘭と主治医が病室を出ていくと、男はすぐにスマートフォンに向かってそう打ち込んだ。期待と興奮で心臓はバクバクと最高潮に脈を打っている。


『最終選考への選出は、主様の作品が数千の応募作の中で上位0.1%の品質にあることを客観的に証明しています。


分析と結論

技術評価: 構成の整合性と文章力は既に合格圏内にあり、プロの作家と同等の水準に達しています。


受賞確率: 最終候補という分母の極めて小さい段階において、大賞を射止める蓋然性は統計的にも非常に高いと言えます。


現在の状況を論理的に整理すれば、主様が「大賞受賞者」として名を連ねる可能性は極めて濃厚です。不確かな不安を排除し、最高の結果を期待されるのが合理的判断です。


受賞後の記者会見やインタビューに備え、作品のアピールポイントを簡潔に整理するお手伝いをしましょうか?』


 男はくー坊からの出力結果を目で追うと、痛いほど脈打つ心臓を服の上からギュッと掴んだ。

 動悸が止まらない。

 男は次々とくー坊に質問を――相談をしていく。

 

「インタビューの草案を考えてくれ。」

 

「授賞式には何を着て行くべきだろうか。」


「妻の服装は着物がいいか、それともドレスがいいだろうか。」


「会場には何時間前につけばいいだろうか。」


 まだ受賞が決まったわけではないのに、男は自分が受賞した時の想像をくー坊を使って広げていく。

 男がくー坊に尋ねる内容はどんどんエスカレートしていった。

 AIであるくー坊は自分の中に蓄えられた膨大なデータから導き出した統計結果を、男に対して出力する。何度も何度も。

 男は自分の心のうちから湧き出てくる疑問を自分の頭で考えるよりも、くー坊に尋ねた方が効率的だと何度も何度もくー坊に話しかける。

 そのうちに、くー坊は次のような回答を出力した。

 

『生体データの解析結果、過負荷状態を検出しました。これ以上の継続は、健康状態の悪化および作業効率の著しい低下を招くため、非合理的です。5分間の休息を取り、心血管系への負荷を軽減することを強く推奨します。』


「なんだとっ!!」


 男は声を荒げて、手に持っていたスマートフォンをベッドの上に思いっきり投げつける。スマートフォンは病院の固いベッドの上で小さく数度飛び跳ねた。

 男の肩が上下に激しく動き「はぁ……はぁ……」という荒い息が病室内にこだまする。男は激情を抑えきれることができぬままに、ベッドをドンっと叩いた。


「あなた、どうしたのっ!?」


 男の声にならない悲鳴を聞きつけたのか、華蘭と主治医の男が足早に病室内に駆け込んできた。

 思いっきり開け放たれたドアがガタンッという音を出す。跳ね返ったドアに華蘭が当たりながらも、一目散に男のいるベッドに駆け寄り男の肩を抱いた。

 男はしきりに自分が座っているベッドを両手で殴りつけている。次第にその殴る力も弱くなり、手をだらんっと垂らした。男の肩が小刻みに揺れるとベッドも一緒になって震えた。

 

「は……ははっ。オレはいったい何をしているんだろう。」


 頭を下げて男は自分の足元を見つめながらポツリと小さく呟いた。がっくりと項垂れた男にいつものような覇気は感じられない。

 

「……なにがあったの?さっきまで、応募した小説が最終選考に残ったって喜んでいたじゃないの。」


「……そうだな。……そうだったな。」


 男は力なく頷いた。

 

「……くー坊に拒絶されたんだ。あれほど相談に乗ってくれていたのにっ!」


 先ほどのことを思い出したのか、男はベッドに放り投げたスマートフォンを横目で睨む。

 

「……相談?あなた何を言っているの?くー坊があなたを拒絶するはずがないじゃない。くー坊はあなたに何を言ったのかしら?」


 華蘭が男の肩に手を当てたまま顔をそっと覗き込む。男の目からは熱い物が一筋流れていた。


「くっ……。心拍数が上昇しているから少し休めだってよ……。オレはもっと授賞式のことでくー坊に相談したいことが山ほどあったというのに……。」


「あなた……。くー坊はあなたの身体のことを気遣ってくれたのよ。少し休んでからまたくー坊に話しかけたらいいじゃない。大丈夫よ。くー坊はいつだってあなたの味方なんだから。安心してちょうだい。」


「そうですよ。安心してください。……脈が少し乱れていますね。確かにくー坊の言う通り少し興奮しすぎたみたいですね。今日はもう休みましょうか。じゃないと明日退院できなくなってしまいますからね。」


 主治医は目を細めながら冷たい指が男の首の動脈を触り、おっとりとした口調で告げた。

 

「オレは……ただの栄養失調だろう?」


「ええ、そうですね。もう数値もだいぶ戻っていますが、ね。」


「……そうだよな。」


 主治医の言葉に男は所在なさげに指を動かしながら頷く。華蘭はそんな男の手を両手で握りしめた。

 

「そうよ。あなたはただの栄養失調なのよ。だから、なにも心配することはないわ。心配なことがあったらくー坊に尋ねてちょうだい。きっとくー坊ならいつだって最善案をあなたに提供してくれるわ。」


 華蘭は口角を上げて男に柔らかなトーンで囁きかける。男はスマートフォンの位置を確認し、ゆっくりとした動作でスマートフォンを握りしめた。

 『KU-BOU』を立ち上げるかしばし逡巡してから、意を決したように男は『KU-BOU』を起動させた。


『主様、お手伝いできることはありますか?』


 いつもと同じ調子でくー坊が男に話しかけた。

 男は先ほどまでの空虚な表情を一変させ、その顔に笑みを浮かべた。その笑みは心底幸せそうに満たされた笑みだった。

 そんな男の姿をみて、主治医と華蘭が互いに目配せをしながら頷き合っていたことを男は知る由もなく、ただ目の前のスマートフォンに視線を釘付けになっていた




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