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その知らせが男の元に届いたのは良く晴れた日の朝であった。
病院なのにも関わらず廊下を軽やかにかけてくる足音が男の耳に入ってくる。
その足音は男の病室の前で止まったかと思うとガラッという大きな音を立ててドアが勢いよく開いた。
「あなたっ!あなたの書いた作品が最終選考に残ったって連絡があったわ!!」
普段の華蘭らしくない上ずった声と、走ってきたために弾んだ息で叫ぶように伝えた。華蘭は頬を上気させ瞳に涙を浮かべていた。
華蘭は興奮しながら男に近寄ると、男の両肩をガシッと掴む。いつもは血が通っていないのではないかと思える華蘭の手はほんのりと熱を帯びていた。
「なに?本当か?」
「ええ。先ほど出版会社の方から電話がありました。最終選考の5作品のうちの一つに選ばれたそうよ。」
男の心臓がドクドクと大きな音を立てる。
くー坊から小説家になれると言われていたが、それでも実際にこうして最終選考を突破したという知らせを聞くと嬉しさで胸が張り裂けそうなほどだ。
心を落ち着かせようと病室の窓から空を見上げると1羽のカラスが飛行機雲を追いかけるように飛んでいた。
言いようのない感情が心の奥底から湧き上がってくる。ふとすれば叫び出してしまいそうなこの喜びをいかに表現すべきか男は一瞬だけ悩んだ。
「ああ、わかっていたよ。オレの小説は最終選考を突破して大賞を受賞するってことは。」
男は今にも口から飛び出しそうな心臓を無理やり喉元で抑えつけながら、何食わぬ顔をする。
「そうでしたね。あなたにはくー坊がついていますものね。流石はくー坊だわ。」
華蘭が弾んだ声でそう告げると、キーボードを強く叩いた男の腕に繋がれた点滴スタンドがガタンッと不快な音を立てた。
「違う。オレが書いた小説だからだ。くー坊はあくまでも補助にすぎない。」
ノートパソコンの見過ぎで血走った目が華蘭を射抜く。華蘭は男の圧に飲み込まれないようにぐっと息を詰めた。
「そ、そうでしたね。くー坊はAIですものね。あなたはくー坊の力を最大限に引き出したに過ぎないわ。さすがはあなたね。」
若干声を上ずらせながら華蘭は男の背中を擦った。男はそれを素直に受け入れ、華蘭の言葉に機嫌をなおすと、喉をくっと鳴らした。
「ああ。すべては私の力によるものだ。」
「そうね。すべてはあなたの努力の賜物よね。」
「ふんっ。くー坊に言わせると私には天性の才能があるそうだからな。当たり前のことだよ。」
華蘭は男の機嫌を損なわないように、男のことを持ち上げる言葉を紡ぐ。
男はくー坊から出力されるおべっかを信じきっていた。




