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『協力者を会得しました∇』
(この文字が出たと言う事は、ジョージさんは本当に脱出を手伝ってくれるのね)
協力者になるフリをして自分を嵌めるつもりだと考える事も出来るが、現れる文字に偽りが無い事を因習村説を否定する為に散々検証して理解していたルミナスはジョージが本当に脱出を手伝ってくれる協力者になったのだと受け入れる。
文字の横の∇を触って詳細を確認したのは山々だが、今はそんな場合では無いので後回しにして二人からお祭りに関する情報を収集する事を優先する。
「祈りを捧げる儀式って具体的にどんな事をするの?」
「すまない、それは村の中でもごく一部の人間しか知らないんだ」
「ごく一部?」
「ああ、長老の一族と村長一家……あと、サーシャだ」
「「サーシャさん(おばさん)?」」
思いもよらない人物の名前にジョンとルミナスは驚きの声を上げる。
「サーシャは儀式に必要な道具の管理や物資の調達を担当しているらしい」
「ああ、それで生贄を調達して管理していたのね」
「……すまない」
自身の皮肉に落ち込むジョージをルミナスは鼻で笑う。
ジョンの手前、追加で責めるつもりはないが罪悪感で落ち込む位なら最初からやらなければ良いのにと心中で吐き捨てる。
「サーシャさんから儀式の内容を聞き出す事って出来るかしら?」
「あいつは口が堅いからな、聞き出せるかは分からないがやってみよう」
「あと、村の人ってみんな生贄を捧げている事は知っているの?」
「ああ、儀式の内容は分からないが生贄を捧げた後は骨を含んだ肉片と生贄が着ていた服の切れ端が村の家に配られて、それを家の中心に当たる場所に埋めるのが習わしらしい」
「どうしてそこに埋めるの?」
「神の加護で災厄を逃れる事が出来るんだとか、実際に過去に埋めるのを怠った家が一家全員死んだ事があったらしく、絶対に埋める様にと口酸っぱく言われている」
ルミナスが見つけた手記には家長と息子が死んだと書かれており、ジョージの話とは少し違う。
「一家全員?ジョージおじさん、それっていつの話?」
「さあ?前にサーシャに聞いた話なんだが大分昔の話だそうだぞ」
「その事件の詳しい話をサーシャさんから聞けないかしら?」
「あたしが何だって?」
「「「!!」」」
不意に掛けられた声に慌てて振り返るとサーシャがドアを開けて入ってくる所だった。
何処まで話を聞かれたのか焦りながら何でも無い風を装ってルミナスは明るい声を出す。
「サーシャさん、おかえりなさい!お邪魔してます」
「ただいま、邪魔だなんていつでも来てくれて良いんだよって言ってるじゃないか!」
「うふふ、ありがとうございます。今日はお野菜の収穫を手伝ったらいっぱい貰えたのでお裾分けに来たんです」
「ああ、台所にあった野菜はそれかい。有難く頂くよ!それで、あたしに聞きたい事って?」
「ええ、雑談に怖い話をしていたんですけどジョージさんから昔お祭りでご利益のある物を大切にしなかったから一家全員が亡くなった事件があったってお話を聞いたんです。詳しくはサーシャさんが知っているっておっしゃったので教えて貰えないかなぁって」
「何だってそんな話を」
サーシャがジョージに視線を向けると彼は両手を上に挙げて目を逸らす。
その様子にヤレヤレと呆れながらサーシャもソファにいるジョージの横に座り「何から話そうかねぇ」と語り出した。
「あたしが産まれる何十年も前の話らしいんだけどね、この村のお祭りでは村長の一家がお祈りをするんだけど、その時に村の神様の加護を分けて貰って災いを遠ざけるお守りを神様から貰えるんだよ。それを家の中心に埋めると神様が家の人間を守ってくれるんだけど、ある時に他所の村からこの村の人間に嫁いで来た嫁さんが折角のお守りを埋めないで捨てちまったらしくてね!バチが当たったのか、それから暫くしてその家の人間みーんな獣に喰われちゃったらしいのよ!怖いわよねぇ」
「獣に……熊とか狼ですか?」
「さあ?ただ、死体はみんなバラバラに食い荒らされていたって話さ」
「怖いですね……」
「まあ、神様に敬意を払ってちゃんと信仰していれば神様がちゃんと見守ってくれるって話さ、さて!ルミナスちゃん、うちで晩御飯食べて行くだろう?手伝っておくれ」
「わあ、良いんですか?ご馳走になります!」
いつもと変わらないサーシャの様子に聞かれていなかった様だと胸を撫で下ろす。
ジョージにまだまだ聞きたい事はあったが運営側の人間だと分かったサーシャが居る時に出来る話ではない。
穏便に過ごす為にルミナスは部屋を出てサーシャを手伝い、夕飯を食べて家に帰る。
そしていつも通り監視が無くなってからクエスト報酬の受け取りをしている最中にジョージおじさんが協力者になった時の文字の事を思い出す。
(もう一回見たいんだけど、どうすればあれって出てくるんだろ?取り敢えずおじさんの名前を言ってみる?)
小声で「ジョージおじさん」と呟くが何の反応も無い。
どうしようか考え、文字にあった「協力者」と言う言葉を呟いてみるといつもの文字が現れる。
『協力者一覧∇』
いつも通り∇の部分に触れた。
『協力者一覧
・ジョージ∇』
続けてジョージの横の∇に触れる。
『ジョージ
サーシャの夫。
お祭りで重要な役割を担うサーシャからお祭りに関する情報を引き出してくれる。
見た目に反して気が弱く、サーシャの尻に引かれている。
進行度によって行動選択が変わる。
現在地:自宅∇』
∇を押すと地図が現れた。
そこには青い点が一つ表示されている。
これが多分ジョージなのだろうとルミナスは当たりを付ける。
(それはそうと、進行度って何かしら?文字的に進んだ度合いだと思うけど、この進みって何?)
初めて見る単語に首を傾げるが、文字を触っても意味を教えてくれる事は無かった。
色々触ってみて他には何の情報も得られないと判断したルミナスは今日見つけた手帳を元の場所に戻す作業をしてから寝るのだった。
次の日、ジョージとジョンが狩って来た鹿を捌く手伝いにやってきたルミナスは周囲に監視と視線が無いかを確認して昨日出来なかった話の続きをする。
「村長が当日の朝に長老が占って開催時刻を決めるって言っていたけど、本当なの?」
「そうらしい、俺達も当日何時からやるのかを知らないんだ。まあ、遅くても大体夕方頃には始めているらしい」
「うーん、出来ればお祭りが始まる前に脱出したいから何時に始まるのか知りたいのよね」
「多分、無理だと思うよ」
剥いだ皮をなめしながら言ったジョンの言葉にルミナスは眉を寄せて続きを促す。
「ルミナスが言っていた視線が監視目的なら祭りまで続くだろうし、長老や村長が生贄に固執しているのなら絶対に逃がさない為に日に日に強くなる事はあっても弱くなる事は無いと思う」
「ええー……」
「だから、逃げ出すとしたら儀式の直前が良いと思う」
「でもそれってどう言う儀式でどう言う流れで何処でやるのかって情報が無いと無理じゃない?ジョン、私が大人しく生贄になれば自分は死ななくて済むし簡単だからって適当な事言ってない?」
「ルミナスが死ぬかも知れない事をする訳が無いだろう?!」
「……へぇ?」
ジョンの様子ににやりとルミナスは口角を上げる。
「ジョン、声がでかいぞ」
「ごめん、おじさん」
「それで、そう言い出すって事は何か手立てはあるのか?」
「うん、それでさ「あ!ルミねえ、こんな所に居た!」
ジョンの言葉を遮る様に声が掛けられた。
振り返ると村の子供達が作業場を覗いている。
鹿の血で汚れた手を洗い、ルミナスは子供達の元へ行く。
「どうしたの?」
「あのね!じいちゃんがルミねえを探してたの!」
「じいちゃん?」
「村長しゃん!」
「終わったら遊んで!」
「あそぼー」
「かくれんぼしたい!」
「えー!俺は鬼ごっこがいい!!」
「やー!」
「じゃあ、終わったら両方やりましょうか!」
「「「「「「やったー!」」」」」」
「じゃあちょっと行ってきますね」
作業場の二人に手を振り、子供達に連れられて村長の家へと向かう。
道すがらに子供達と雑談をしていると、一人の子供がルミナスのスカートを引っ張った。
「どうしたの?」
「ルミねえ、お祭りが終わったらいなくなっちゃうって本当?」
「え?」
「お母さん達がゆってたの」
「そうなの?」
ルミナスからの問いかけに、こくりと頷く。
(それって完全に生贄にされる事を話してるよねぇ)
嫌な事知っちゃったなと考えていると下から不安げに見上げられている事に気付き、しゃがんでその頬を両手でモチモチしながらルミナスは笑いかける。
「私は村のみんなにいじめられない限り、この村からいなくならないよ」
「ほんと?」
「本当、本当。だから仲良くしてね?」
「うん!」
「ルミねえを虐める奴がいたら俺が守ってやるからな!」
「あたしもー」
「ぼくもー」
ルミナスは抱き着いてくる子供達に癒されながら「こんなに良い子達が育ったら生贄文化に染まるのかー」と遠い目になった。
そのままみんなで引っ付きながら村長の家に行き、村の広場で待っていると約束して子供達を手を振って見送る。
「随分と懐かれたのう」
「あ、村長さんこんにちは」
「はい、こんにちは。急に呼び出して悪かったのう、茶を出すから中に入っておくれ」
「はーい、お邪魔しまーす」
居間へと案内され、出された茶を啜る。
「あ、そうだ。お借りした本なんですが家に置いてきちゃいました、今から取って来た方が良いですか?」
「返すのはいつでも構わんよ。ルミナスちゃんの都合の良い時にでも持ってきておくれ」
「分かりました!それで、今日はどうして私が呼ばれたんですか?」
「ああ、ちょっと村の祭りの事で問題が発生してのう」
「問題?」
「ルミナスちゃんに任せるとなったお役目なんじゃが、それをジョンにした方が良いと言う意見が出てのう」
「え!」
「ルミナスちゃんのままの方が良い者とジョンに戻すべきと言う者とで意見が割れて決まらんのじゃ」
「ほうほう」
(これは、私が生贄ルートから外れるパターンでは?!やっぱり村の人達の好感度を上げる事によって生存ルートが開かれたんだ!)
思いも寄らなかった流れにルミナスの期待が高まる。
「そんな訳で長老に相談した結果、二人で一緒に儀式に参加して貰う事になったでな、そのつもりで頼むぞい」
「え、二人……?」
予想外過ぎる村長の言葉に固まるルミナスの姿に村長もうんうんと頷く。
「驚くのも無理は無い、じゃが長老が占った結果そうなったからのう。名誉あるお役目じゃし、ルミナスちゃんも儀式の事を不安にしておったから二人でやるとなれば心強いじゃろう?」
「え、ええ、それは、もう」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「ジョンにも伝えておくから」と村長の家からお暇したルミナスは暫く歩いて、膝から崩れ落ちた。
(なんでそうなる!!!ここはどう考えても私を生贄から外すパターンでしょうが!?)
悔しさのあまり地面を拳で叩く。
(いやいや、落ち着け、私は出来る女、そう、クールな女なのよ、落ち着きなさいルミナス)
ふうっと息を吐きながら立ち上がり、額を拭う。
何はともあれ村長の話が本当ならルミナスとジョンは運命共同体になった、であれば彼もジョージも死ぬ物狂いで脱出を手伝うだろう。
これで絶対的な味方になったと考えれば悪くない、そう良い方に考える事にする。
気持ちを切り替えたルミナスは取り敢えず子供達との約束を果たす為に広場へと向かった。
「え?帰った?」
「そうなのよぉ、子供達の相手をしようとしてくれてたんだろう?あの子らも気まぐれだからねぇ」
「そうなんですね、じゃあ、また今度遊ぶのを楽しみにしてます」
「ああ、あの子らも喜ぶよ。そうだ、ここに来たついでにちょいと手伝ってくれないかい?」
「良いですよ!」
子供達が居なかったので代わりに村人の手伝いをする事になった。
冬に向けて縄を綯うのを手伝う。
「この縄はお祭りで使ったりするんですか?」
「これは冬に釣った魚を干したりするのに使う縄だよ。まあ、確かに祭りでもしめ縄とか使うし、広場の囲いにも使うね。儀式にも使うんじゃなかったかな?まあ、儀式でどう使うのかは知らないんだけどね」
「しめ縄って東方の国の文化ですよね?この地域で聞くのは初めてです」
「そうなのかい?昔から使われているんだけどねぇ」
(しめ縄が効果あるタイプの神様なのね)
思わぬ情報に心中でガッツポーズを作る。
昔に呼んだ本に東方の国の話があり、しめ縄と呼ばれる物は神様の要る場所と俗世を分ける為の物で魔除けや結界としての意味があるらしい。
緊急時の安全場として使えるかも知れないと考えたルミナスはしめ縄の編み方を聞いてみる。
「ん?普通の縄と同じ綯い方だよ。ただ、普通の縄を作る時とは逆に左回りに作るのが大事らしい」
「綯い方が違うんですね」
「いつもとは逆だから意外と難しいんだよ、やってみるかい?」
差し出された藁を使って綯ってみるが、確かにいつもとは逆の手順になるせいか集中してやっていかないと直ぐに解けてしまう。
「むぅ、これは結構頭を使いますね」
「わっはははは!だろう?」
「ちょっと悔しいのでこれ貰っても良いですか?家でもやってみたいです」
「良いよ良いよ!持って行きな!」
自然を装って藁を分けて貰えたルミナスはその日の夜に早速しめ縄を完成させて革袋の中に収納する。
そしていつも通りクエスト報酬を受け取り終わり、さて寝ようかとベッドに横になるが直ぐに小さく玄関のドアをノックする音で瞼を開く。
蠟燭に火を点け、用心の為に火掻き棒を手にドアを薄っすら開けるとジョンが居た。
「ジョン?どうしたの?」
「ジョージおじさんがサーシャおばさんから聞き出した話を君に伝えたかったらしいんだけど、ここに来れないから代わりに僕が伝えに来たんだ。入っても良いかい?」
「ええ」
ジョンを招き入れて火掻き棒を暖炉に戻してから早速、彼が聞き出した情報を共有する。
「おばさんから聞き出した話によると儀式の場所は森の奥にある泉でやるらしい」
「へぇ、泉があるのね」
「そこが妙なんだ、僕が知る限りではこの森に泉は存在しない」
「え?」
「おじさんと一緒に森に猟にずっと出ていたし、この近辺の森には熟知しているつもりだ。それなのに泉なんて見た事が無いし、僕だけじゃなくおじさんも泉を見た事が無いって言ってた。おばさんに聞いても『神様が普段隠していてお祭りの時にだけ現れる泉なんだよ』って泉に関する情報は出てこなかったみたい」
「存在しない泉で儀式をやるって物凄く怪しいじゃない」
「神様って言う人知を超えた存在が相手なら説得力はあるよね。それでその泉に祈りと生贄を捧げるらしい」
「存在しない湖へ移動となるとその道すがら逃げるのはリスクが高そうね」
「そうだね、逃げるとしたら祭りの日の早朝しかないと思う。昼に話そうとしていたんだけど、祭りの日は朝から祭りの準備で動く人が多いみたいなんだ。子供達以外みんな何かしらの役割があって忙しみたいで、逆に監視が緩むと思う」
「じゃあ、逃げるタイミングは早朝ね。逃げ道はあるの?」
「ある、村の中に涸れた古井戸に抜け道があるんだ。多分、僕以外知らないんじゃないかな?」
「そんな所、良く知ってるわね?」
「村を探検するのが小さい頃の趣味だったからね。それと儀式なんだけど、僕も参加する事になったのは聞いてる?」
「ええ、今日村長さんから聞いたわ」
「これで僕らは運命共同体になった。絶対に二人で無事に脱出しよう」
「ええ、もちろん」
差し出された手をガッシリと掴んでルミナスは頷いた。
そうして怪しまれない様に気を付けながらコツコツと物資と情報を集め、脱出の準備をしてお祭りを前日に控えた夜。
早朝の脱出に向けて早めに就寝準備をしていたルミナスだったが、玄関をノックする音に気が付いた。
「はーい」
革袋を谷間に隠し、念の為に火掻き棒を持ちながら玄関を開けるとサーシャが居た。
こんな時間にどうしたのだろうと首を傾げるルミナスに申し訳なさそうにサーシャが言う。
「こんな時間にごめんね、寝る所だったのかい?」
「ええ、明日に備えて寝ようかなって。どうしたんですか?」
「悪いんだけど、これから村長の家に来てもらえるかい?ちょっと明日のお祭りに関しての話があるらしくってね」
「分かりました!寝巻から着替えるのでサーシャさんは中で待ってて下さい」
「悪いねぇ」
サーシャを招き入れ、暖炉に火掻き棒を戻して着替える為に部屋の奥へと向かう。
そんなルミナスの背にサーシャが再度「悪いねぇ」と声を掛ける。
「いえいえ、お気になさらず」
「これも明日の祭りの為なんだ、恨まないでおくれ」
「え?」
思っていたよりも近くで聞こえたサーシャの声に振り返ろうとしたルミナスの頭を衝撃が襲い、ルミナスの意識は闇へと落ちた。




