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『緊急クエスト:因習村からの脱出∇』
突如現れた緊急クエストに書かれた文字に「なるほどねっ」と納得すると共にルミナスの背中を脂汗が流れる。
(因習村……?因習村ってあの因習村?)
震える指で文字の端にある∇に触れた。
『因習村からの脱出
この村では二十年に一度生贄を捧げて豊穣を祈る儀式が行われている。
そんな儀式の生贄に選ばれてしまった貴女。
無事にこの村から脱出しよう!
クエスト報酬:姿隠しのローブ』
知りとう無かったそんな事。
夢ならばどれほど良かったでしょう、まるで嘘みたいなクエスト詳細にルミナスの背中を流れる脂汗が止まらない。
姿隠しのローブ?詳細は分からないけれども姿を隠してくれるローブなら今すぐに与えて欲しい。
(『脱出しよう!』じゃないのよ!!前回の緊急クエストのせいでこんな事になっているんじゃない!!)
ジョンを助けなければこの村に来なかったし、この村に来なかったらこんな事態に巻き込まれていない。
(おのれジョン……!命を助けた恩人にこんな仕打ちをするなんて……!!)
ルミナスの胸の内にジョンへの怒りがメラメラと湧いてくる。
どう言う思考回路をしていたら命の恩人を生贄に捧げようなんて思えるのか、因習村の人間の論理感はどうなっているのか。
(いや、普通の論理感がある人間だったら因習村は産まれていないか)
その結論に至ったルミナスからスンっと表情が抜け落ちた。
因習村、それはその名の通り因習と言う古いしきたりが根強く残っている村の事。
そのしきたりはそれぞれの村によって違う物でこの村に根付いている因習は生贄文化でその生贄はルミナスらしい、最悪過ぎる。
お祭りは一週間後、それまでに何とか逃げ出さないといけない。
「えーん、何でこんな事に……」
ルミナスがテーブルに突っ伏して嘆いているといつもの視線を感じた。
視線の意味を理解したら腹が立って来たルミナスはいつもは無視する視線だが、憂さ晴らしに今日は驚かせてやろうと立ち上がる。
「あら、虫だわ」
そう呟いて視線を向けてくる方向へとずんずんと歩み寄り、多分ここから覗いているかなっと感じた場所の少し上を手の平で勢い良く叩いた。
「お、仕留めた」
視線が外れたのを感じ、パンパンと手を払う演技をしながら壁から離れる。
少しだけスッキリしたルミナスは気を取り直してこの日から脱出の為の物資を集め始めた。
買っても怪しまれない物を村の店で購入し、クエストを熟してクエスト報酬を集める。
ここでの生活で色々試して分かったのだが、クエストの内容事に報酬は固定されているようだ。
なので脱出を決意した日からは普段はやらないクエストや初めて見るクエストを優先して熟してみる事にした。
持て余していた謎の煙玉の使い道と意図が分かり、いつもとは違うクエストを熟せば煙玉以外の何か脱出に役立つアイテムを入手できるかもしれないと考えたルミナスはいつもよりも積極的に村人達のお手伝いを名乗り出る。
「手伝ってくれるのは助かるけんども、今日は随分張り切っておんね」
「うふふ、ほら、お祭りが近いじゃないですかぁ?皆さんともっと仲良くなれたらお祭りももっと楽しくなるだろうなぁって思ったんです!だから、皆さんと仲良くなる為にもっと頑張ろうと思って!」
「……ほうか」
野菜の収穫を手伝っていた村の老人が不自然に視線を逸らすのをルミナスは見逃さなかった。
人間誰しも自分に笑顔で近付き、愛想を振りまいて自分の手伝いをしてくれる存在を無下に扱おうとは考えるのは難しいに違いない。
こうして愛想を振りまいて好感度を上げて行けば生贄エンドから逃れる道が開かれる可能性だってある。
小さな事からコツコツと愛想を振りまいていけば死亡エンドを免れる事が出来る。
射殺エンドを回避した過去の実績からそう信じてクエストを熟して愛想を振りまきながら祭りの情報を集めていく。
「お祭りはねぇ、この土地の神様に豊穣のお祈りをするお祭りなのよぉ。どんな風にお祈りするのかって?……当日になったら分かるよぉ」
「祭り当日にどんな事をするか?そりゃぁ、アレだ、村の中を練り歩いた後にイケ……あー、捧げ物を用意して儀式するんだ。どんな儀式か?さあ?」
「儀式の後に何をするのかって?村のみんなで美味い物食べて広場でドンちゃん騒ぎだな。広場には大きな焚火が用意されててその周りでみんなで騒ぐんだ」
「お祭りのご馳走?ああ、屋台とかは出ないんだけどみんなで一家で一皿大鍋で料理を持ち寄って宴をするよ、え?私は何を持ち寄れば良いかって?……ルミナスちゃんは準備しなくても良いよ、お祈りの手伝いをするんだろ?」
「祭りの由来?うちの村の神様のお話は昔から言い伝えられているから、詳しい話を知りたかったら村長に聞いてみると良い」
(みんなしてお祭りの詳細暈かしてくるじゃん!イケって絶対、生贄のイケでしょ!?んでもってその生贄って絶対私の事じゃん?!)
ワンチャンあの謎の文字に書かれていた事が間違っている可能性が無いかなと考えていたルミナスは調べれば調べる程に因習村っぽい要素が出てくる現状に頭を抱えたくなった。
(閉鎖的な筈なのに余所者を招いて親切に持て成す村、招いた余所者を村から出さない様な監視体制、詳細を明かされない村の伝統の儀式、それに招かれる余所者、村に昔から言い伝えられている神様のお話!どう考えても因習村!要素が!強い!!)
これでお話を題材にした童歌があれば役満だ。
脱出手段を考える為にクエストを熟しつつ怪しまれない程度にお祭りが楽しみで仕方が無い感を出しながら聞き込みをしているが、浅い情報しか集まらない。
この村から脱出をするのであればお祭りがどう言う流れで進行するのか、何を使うのか、何処で誰が何をするのかを知りたかったのだが詳細が全く分からない。
ルミナスもお祭りで神様へと祈りを捧げる時の神事の補佐を頼みたいと言われて参加の予定なのだが、迎えに行くから着替えて家で待っててとしか言われておらず、何時頃迎えに来るのか、祈りの補佐と言われても自分は何をすれば良いのか、何処で祈りを捧げるのかも説明されていない。
聞いても「大丈夫、言われた通りにすれば良いから」としか言われないのだ。
何もだいじょばない。
(って言うか普通に何時頃に迎えに来るかだけでも教えてくれても良くない?お昼を過ぎるのかどうかでご飯をどうするかとか変わってくるじゃん?!そうだ、その手で行こう!)
妙案を思い付いたルミナスは村長の所へ行き、お祭りの詳細を聞いてみる事にした。
「何時に迎えに来るのかを知りたい、とな?」
「はい、せめてお昼を過ぎるんかどうかだけでも知りたくて。お昼を過ぎるのならお昼ご飯を作っておかなければいけないので……」
「ふーむ……何時から儀式が始まるかは村の長老がその日の朝に占って決まるもんでな、儂らも当日になるまで知らんのじゃ」
「そんなパターンあるんですか」
「そんな訳で悪いのぅ、昼を過ぎるようじゃったらうちのに飯を持って行く様に頼んでおくでの、お主はドンと構えてくれれば良い」
「……私、神事の補佐の役目をジョン君から奪ったみたいになったので、失敗したく無いんです」
「奪っただなんて誰も思っておらんよ、気にせんで良い」
しょんぼりと眉を下げて落ち込む様子を見せるルミナスの肩をポンポンと叩いて村長が慰める。
そう、本来ならば恐らく生贄になるのであろう神事の補佐と言う役目はジョンの物だった。
ルミナスがこの村に来て初めてお祭りの開催を伝えられた際、サーシャが『ジョン、丁度良いからあんたのお役目をルミナスちゃんに譲ったらどうだい?祭りの手伝いをすればそれだけ村の連中と関わる事になるから早く村に馴染めるし、お祈りのお役目を熟せば村の人らから一目置かれる様になる。これから村で過ごすのに最適じゃないかい?』と提案され、まさかそんな裏が有るとは思っていなかったルミナスはその提案を受け入れたのだ。
思い返してみるとジョンもジョージもサーシャの提案に乗り気では無かった。
一目置かれるような名誉ある役目なのであればぽっと出の自分がやるべきでは無いと一度は辞退したルミナスをサーシャが説得し、折れる形でルミナスがその役目を引き受ける事になったのだが、今にして思えばあの提案を受け入れるべきでは無かった。
(いや、待って。ジョンとジョージおじさんが役目の変更に乗り気では無かったって事は二人は私を生贄にするのを反対していたって事になるのでは……?)
ふとその考えに至ったルミナスはもしかしたら二人が脱出の手掛かりになるかもと光明を見出す。
後で二人の元を訪ねる事を決め、今は取り敢えず協力を得られなかった時の事も考えて脱出を確実に成功させる為にも村長からお祭りの詳しい情報を少しでも聞き出さないといけない。
村長に聞いても当日の開始時間は分からない上に儀式の詳細を教えてくれる気もなさそうなので、それならばと由来を聞いてみる。
「祭りの由来とな?そんな物を知ってどうするんじゃい?」
「自分が住む事になる村の伝統ですし、ちゃんと知っておきたいじゃないですかぁ。みなさんに聞いたら村長さんに聞いてみると良いっておっしゃってたのでお話して欲しいなあって、後は純粋に趣味ですね。私、神話とか童話とかの昔話が好きなんです」
「ふむ……こっちに来なさい」
村長に手招きされると家の奥の方へと通される。
もしかして気付かれたかと内心で身構えたルミナスだったが、案内された部屋にある本棚から古い一冊の本を村長が取り出して渡して来た事で杞憂だったかと胸を撫でおろす。
「この村の伝奇の様な物じゃ、うちの村の神様に纏わる絵本で昔から村の子供達にも読み聞かせておるんじゃよ」
「へぇー」
「時間があれば子供らにするみたいに話してあげられるんじゃが、今日はこれから用事があっての、これを貸すから読んでみると良い」
「わぁ!ありがとうございます!」
本を胸元に抱えて笑顔で礼を告げると村長は嬉しそうに相好を崩してうんうんと頷いた。
「村の外から来た人間がうちの神様に興味を持った事なんぞ無いもんで、ルミナスちゃんがこうして来てくれるのは嬉しいのう」
「えー、そうなんですかぁ?みなさんが大事にしてるのなら自分も大事にしたいって普通は考えると思うんですけどねー?」
「そうなんじゃよ!儂らの村の事も知ろうとせんで余計な口出しをする輩のなんと無礼な事か!!んんっゴホンッ!……ああ、そうじゃ、それと本の内容の他にも伝奇になぞらえた歌もあるでのぅ、子供らにでも教えて貰うと良い」
(役満じゃねぇか!!)
心の中での叫びが漏れそうになりながらもルミナスは何とか笑顔で礼を告げ、用事があると言う村長に見送られる。
帰宅後、監視の視線が無い事を確認し、早速中身へ目を通す事にした。
ジョンとジョージを説得して仲間になって貰う手立てを考える為にも少しでも情報はあった方が良い。
それに、こう言った村に伝わる童歌や童話には手掛かりが隠されているのが典型なのだ。
『むかしむかし、あるところに一人の神様がいました。
神様は森の中で一人寂しく暮らしていましたが、ある時森で迷った旅人と出会います。
寂しかった神様が旅人に話し掛けると二人は仲良くなり、神様が一人ぼっちな事を知った旅人はこう言いました。
「それなら僕と一緒に暮らそう!」
そうして二人は一緒に森の中で暮らす事になりました。
その内に優しい神様の話を聞いて旅人の他にも人が集まってきて、そうして森の中で一つの村ができました。
独りぼっちだった神様は大喜び。
そんなある時、村を大きな病が襲います。
一人また一人と倒れて食べる物も無くなり、皆がお腹を空かせて泣いていました。
そんな皆を見てかつて旅人だった人は神様に何とかできないかとお願いをします。
すると神様はかつて旅人だった友人にこう言いました。
「では、今ある食べ物をみんながお腹いっぱいになるまで増やしてあげよう」と。
それを聞いて旅人は大喜び。
早速みんなに言いに行きます。
でも、食べる物はみんな食べてしまった後で誰に聞いても増やせる食べ物が見つからなくて困ってしまいました。
「どうしよう」
悩んだ旅人は良い事を思い付きます。
「私を増やして貰えば良いんだ!」
そうして神様にお願いをした旅人のお陰で村のみんなはお腹いっぱいになって幸せになったのでした。
めでたしめでたし』




