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第27話:株式会社RE:FINE

「かんぱ~い!」


 3つのグラスが、ファミレスの照明の下で音を立てて触れ合う。

 私のオレンジジュースに、財前くんのウーロン茶、そして、柊さんのアイスコーヒー。

 内容物はそれぞれ違えど、今日は3人が力を合わせて得た成果――チャンネル登録者数3万人達成のお祝いで集まっていた。


「改めまして……チャンネル登録者3万人突破! おめでと~! ありがと~!」


 コップを置いて、私はパチパチと周りの迷惑にならない程度の拍手をする。


 玲那とのいざこざが解決してから早三日が経った。

 財前くんの脅しがよく効いたのか、彼女はあれから全く私に絡んで来なくなった。

 時折、廊下や昇降口ですれ違っても向こうから避けるように逃げていく。

 私の心身に、ようやくの平穏が訪れた。


「なんか今日はやけにテンションたけーな」

「だって、3万人だよ? 3万人! すごくない!?」


 おかげで乱れていた私のメンタルも回復して、配信稼業は絶好調。

 開設からわずか2週間と少しで、登録者3万人の大台を突破した。

 それには地道な活動の成果もあるけど、一番大きかったのは切り抜き動画の拡散。

 

 そう、私が大号泣して『配信者として食べていく』とお母さんに宣言してしまったあの動画。

 あれがSNSで大いにバズり、チャンネル登録者数は今も鰻登り。

 本当は今日も1万人突破記念だったはずが、あっという間に1つの節目を大きく超えてしまった。


「まっ、すごいっちゃあすごいけどこのくらいで満足してもらったら困る。1万人はあくまで最初の節目。目標は100万人だ」

「え? 100万人でいいの? たったの」

「お前も言うようになったなぁ」


 財前くんが『ふっ』と笑い、染み入るような口調で言う。


「……で、なんでそこに私まで呼ばれてるわけ?」


 私も食事に手をつけようとしたところで、隣に座っていた柊さんが言った。


「それはもちろん……柊さんもチームルナのメンバーだし」

「勝手に入れるな。絵を描いただけで、そんなのに入った覚えはないんだけど」

「とか言いながらさっきはノリよく乾杯してたじゃねーか」

「あ、あれは橘瑠奈がグラスを差し出してきたから仕方なくであって……わ、私の意思じゃないし……」

「てかお前、なんでいちいち人のことをフルネームで呼ぶんだ? オタク特有のキャラ作りか?」

「きゃ、キャラ作りって言うなし!」


 この典型的なツンデレっぽいところもキャラ作りなのかなー……と思いながらハンバーグを一口食べる。


「まあ、食え食え。どうせ、全部経費になるからな」

「経費?」


 学生的にはあまり聞き覚えのない言葉に首を傾げる。


「ああ、そのことも今日話すつもりだったんだった」


 財前くんはそう言うと、ズボンのポケットからスマホを取り出した。

 続けて、それを私たちの方に向けてテーブルの上に置く。


「なにこれ……『株式会社RE:FINE』……?」


 画面には聞いたことのない会社のホームページらしきものが表示されていた。

 トップページには、『世界が知らない新たな輝きをREFINEする』と書かれている。

 なんともキザったいキャッチコピーだけど、どことなく自分の境遇と重なる。


「俺が立ち上げた会社」

「へぇ~……財前くんが……って、ええっ!? 財前くん、会社作ったの!?」

「おう。まだ事業規模は小さいとはいえ、将来を見据えるなら法人があった方がいいしな。コーポレートサイトも名刺代わりに使えるし。善は急げってやつだ」


 ご飯を食べながら軽く言ってるけど、会社というだけで話の規模が一気に大きくなった気がする。


「で、でもいいのかな……学校とかで問題になったり……」

「大丈夫だろ。校則に起業すんなとは書いてなかったし」

「それは多分、想定してなかっただけじゃないかな……」


 ……と言いつつも、その本気度と行動力の高さには素直に歓心する。


 ううん、これだけじゃない。

 自分も同じ目線の高さになってみて改めて思い返すと、彼は最初からそうだった。

 最初からずっと本気で、ずっと全力で取り組んできた。

 私が私のことを信じれなかった時も彼だけは本気で私の価値を信じてくれていた。

 だから、私はそんな彼のことを……。


「へぇ~……なかなかしっかり……って、あーーーっ!!」


 画面をスクロールしていた柊さんが、隣で大声を上げた。


「な、何!? どうしたの?」

「所属タレントの『Vtuber"星橙ルナ"』はともかく、『イラストレーター"Iroha"』ってこれ、私じゃねーか! おいこら! なに勝手に人を所属させてんの!?」

「まあまあ、落ち着け。未来の大人気Vtuberである星橙ルナのキャラデザを担当したってことで、お前もこれから忙しくなるだろ? そこで俺が橘と合わせてマネージメントしてやるって言ってんだからありがたく受け取れよ」

「勝手なことすんな! てか、私はイラストレーターじゃなくて漫画家だし!」


 周りの迷惑も顧みずに口論している二人を微笑ましく見守る。

 一度失い、再び取り戻した二度目の青春。

 もう二度と、この手から落とさないようにしっかりと握りしめる。

 暫定目標はチャンネル登録者100万人……そして、総資産100億円の女。

 さあ、私がやるべきたった一つの配信(こと)をしよう。

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