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第15話:初配信の裏側で

 良い物であれば、いつかは必ず認められる。


 世の中にはそんなナイーブな考えもあるらしいが、俺の考え方は違う。

 タイムリープ前の人生で、俺はそれを骨身に染みて理解させられていた。

 才能のある人間が、誰にも知られずに消えていくのを何度も見てきた。


 どれだけ素晴らしいものだとしても、人目につかなければそれは存在していないのと同じだ。

 ダイヤモンドの原石も、泥の中に埋まっていればただの石ころと変わらない。

 誰かが見つけ、磨き、その価値を衆目に晒して初めて、それは輝きを放つ。


 そして現代社会は、情報という名の泥で満ち溢れている。

 文字通り星の数ほどのコンテンツが毎日生み出され、そして人知れずに消えていく。

 そんな激流の中で、ただ待っているだけの者に光が当たることはない。


 この二度目の人生で、俺は本来なら埋もれていくはずだった橘瑠奈という原石を見つけた。

 だから、今度はそれを磨き、人々の衆目が集まる場所へと効果的な形で送り込む必要がある。


 つまりは宣伝。マーケティングだ。

 コンテンツの人気とは、それが本来持つ魅力とマーケティングの両輪で成り立つ。

 

 で、具体的にはどうすればいいかって?

 簡単だ。そのコンテンツに興味のある人間がいる場所に適切な導線を置いてやればいい。


 例えば、SNSを使った方法。

 これは現代マーケティングの基本中の基本戦略だ。

 手軽かつ無料で利用でき、特定のキーワードやタグを仕込むだけで潜在的な顧客にリーチできる。

 ただ、それも元の影響力……つまりフォロワー数が少ない人間がしたところで効果は知れている。


 橘の配信者としてのアカウントは、この日のために作ったばかりでフォロワーは全員が身内。

 そんなアカウントで拡散したところで、拡散力はゼロに等しい。

 運良くバズれば劇的な効果を得られるかもしれないが、それは宝くじが当たるのを期待するようなものだ。


 じゃあ、無難にターゲッティング広告やリスティング広告でも出稿するか?

 いや、そんな予算は無いし、そもそも1回の配信のためとしてはコスパが悪すぎる。

 もっと、低コストで出来て、かつ確実に興味を持つ人間に効率よく届けたい。


 そんな詐欺を疑うような理想的な方法があるのかって?


 あるんだな、それが。

 今この瞬間に限っては、橘瑠奈に大きな興味を持つ絶好の潜在的顧客がわんさか集まっている場所が。


 そう、ゲーム内で橘が属する『シルヴァリア王国』と敵対する『ドラグノヴァ帝国』。

 その勢力チャットだ。


 俺は未希から取り返したゲーム機で、新たなアカウントを作って帝国の勢力チャットを監視していた。

 領土戦中の今、そこでは主に各プレイヤーによる戦況報告が行われている。

 そして、もっとも頻出する単語が『ルナ』の二文字だった。


『ルナが止まらない』

『ルナが強すぎる』

『ルナとかいう化物をどうにしかしてくれ』


 その存在は今、この場においては世界中の誰よりも関心を集めている。


『ルナの身内向けの配信見つけた』


 チャットへと入力した文言に、配信サイトでのIDを添えて送信する。

 普通ならこんな宣伝チャットは無視されるだけだろう。


『次! 次、どこ!? 敵はどこにいる!?』


 だが、今はサーバー1位のプレイヤーの大暴れによって領土戦は混迷を極めている。

 どちらが有利で、どちらが不利なのかすら分からない究極のカオス。

 帝国側からすれば、神出鬼没の災害に蹂躙されているようなものだ。


 そんな状況を生み出している原因が、リアルタイムで一挙手一投足を配信していると知ればどうする?

 多少のモラル違反、いわゆるゴースティング行為(※敵の配信を見て位置情報を探るスパイ行為)に手を染めても動向を知りたいと思うはずだ。


『いたぁああああッッ! ぶっ殺せぇええええ!』


 配信画面で絶叫しながら暴れまわっている橘。

 その下には、配信者が持つパワーを表す『同時接続者数』の数字が表示されている。


 現在の数字は23人。

 半数以上が身内で、まだ無名も無名。

 吹けば飛ぶような零細配信に過ぎない。


 俺の書き込んだ宣伝は、混沌としたチャットのログに一瞬で流れ去っていった。

 もう一度打ち込みたい衝動をグッと堪える。

 連続しての宣伝でスパムだと認識されるのが最悪だ。


 さっきの1回で、なるべく多くの関心を引けたことを祈るしかない。

 初回配信の成否を担う策の行方を、緊張の中で見守っていると――


 23が、35となり、次の瞬間には50を超えた。


 よしっ、食いついた!

 予想通りの展開に、心の中でガッツポーズを取った。

 釣れた。俺の撒いた餌に、敵という名の最高の見込み客たちが、食らいついてきた。


 入口を作り、人を集めることには成功した。

 だが、本当の勝負はここからだ。

 次はそうして集まった人間を、どれだけ留めておけるか。

 どれだけ「ファン」に変えられるか。

 入ってくる人の数と留めておく力の掛け算によってコンテンツの人気は導き出される。

 

『短剣持ちがステルスで来てるからフラッシュ焚いて!』


 ジワジワと数字が伸び続けている中、橘はまだその変化に全く気づいていない。

 カチャカチャカチカチとデバイスの音を激しく鳴り響かせ、夢中でゲームをしている。


『痛い痛い痛い! やられるー! 回復してー!』


 その間にも同時接続数のカウントは着実に増え続けている。

 ただ、チャットの方で新規に発言しているユーザーがまだほとんどいない。


 チャットの盛り上がりは、配信の人気を数字以上に演出できる重要な要素だ。

 逆にどれだけ数字が増えても、チャットが閑散としていれば配信そのものの活気がないように見える。

 敵対勢力の連中がスパイしにきているのだから当然といえば当然だが、ここまで様子見が多いのは少し誤算だった。


 橘に連絡して、何か積極的にアクションを起こさせるべきだろうか。

 いや、ダメだ。

 色々と振り切れて、本来のパフォーマンスを発揮できているのに俺が余計なことを言って元に戻れば台無しだ。

 ここは橘の能力に賭けるしかないと、配信画面を見守っていると――

 

『あー! やられたー! 復活したらもっかい集合ね。今度は東門から……ひにぇぇえええ!?』


 何かに気づいた橘が、ものすごく変な奇声を上げた。


『な、なな、なんでこんなに人増えてるの!? ど、どこから来たの!?』


 画面上の同時接続数を表す数字は、いつの間にか三桁を超えていた。

 まだ多いという程ではないが、それでも配信開始の五倍に及ぶ数字は当事者を驚かせるには十分だった。

 そして、そのあまりに素っ頓狂な声が、静観を決め込んでいた視聴者たちの堰を切った。


【くっそ情けない声出てて草】

【配信開いたらいきなり珍獣の鳴き声聞こえてきたんだけど】

【初見、帝国から来ますた】

【ルナって女だったんだ。ネカマだと思ってたわ】


 一斉に投下されるコメントの弾幕。

 そのほとんどが、初めてチャットに書き込んでいるユーザーIDだった。

 

『ね、ネカマ!? ちゃうわい! てか、帝国ってどういうこと! 敵でしょ!? 敵が配信見るとかズルじゃん! それって……なんて言うんだっけ……えっと……ほら、なんかお化け的なやつ!!』


【ゴースティングな】

【お化け的なやつで草】

【言いたいことは分かるけど語彙力貧弱すぎて笑う】


 反応が返ってくると分かったからか、まるで面白いおもちゃを見つけたようにチャットが加速していく。

 いじられ、面白がられ、でもそれは確実に人心を掴んでいる証だった。


 配信の空気は決定的に変わった。

 視聴者たちは理解したのだ。

 この配信者は、いじっても面白いし、褒めても面白いエンターテイナーであると。


『う、うるさい! とにかく今から殺しに行くからそこで待ってろ!』


【ごめんて】

【許して】

【声かわいいのに言ってることはめちゃくちゃ物騒で草生える】


『……今、声かわいいって言ってくれたやつだけは殺すのを最後にしてあげる』


【声かわいい!】

【声がかわいすぎて耳が溶けた】

【ルナ・ヴィクトーリア! ルナ・ヴィクトーリア!】


 一転して称賛の声で溢れたチャットに、橘の喋る声が止まる。

 画面の向こうでは顔を真っ赤にして、唇を引き結んでる姿が幻視できた。

 羞恥と緊張、そして今は自分の声と言葉で大勢の人を動かす楽しさを感じているに違いない。


 もう俺の出る幕はなさそうだ。

 途中まで入力していたチャットの内容を消して、その場で大きく安堵の息を吐き出す。


 その後も同時接続数は更に膨れ上がり、最終的には400近い数字を叩き出した。

 こうして、橘瑠奈の初配信は想像を超える大成功を以て幕を下ろした。

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