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第十五話 ジョージの屋敷②

 馬小屋には六頭の馬がいた。

 世話係のメアリーは馬用のブラシを右手に持ち、一番手前にいる馬の毛並みを整えようとしていた。

 ジョージは右手を挙げて、彼女に声をかけた。

「おはよう、メアリー」

 彼女は豊かなブロンドを、帽子の中にきっちりとしまい込んでいた。

「急に悪いな。二頭借りたいんだ」

「……どこまで行かれるんですか?」

 メアリーは小さな声でそっと呟くように言った。

「それは内緒だよ」

「もしかして、お一人で行かれるんですか?」

 メアリーは遠慮がちに言った。

「きょ、今日は一人じゃないぞ!!! ……友人と一緒さ」

 ジョージは友達がいないことを暗にツッコまれた気がし、それを否定したくて即座に答えた。

「友人? あぁ」

 メアリーは、向こうにいる二人を見つけたようだ。

「アーサーさんですか……」

 彼女はくりくりとした大きな目をスッと細めた。メアリーは目が普通の人より悪いので、何かをよく見ようとすると目を細めることがある。

「……アーサーさんの隣の人は誰です?」

「メアリー、そんなに聞かないでくれよ。俺はもう子供じゃないんだぜ」

「……分かりました」

 メアリーはしぶしぶといった様子で了承した。そして何か言おうと口を開けたが、なぜかすぐに口を閉ざしてしまった。彼女の真っ直ぐな視線が馬小屋の入り口に注がれていて、ジョージはどうしたんだろうと訝しんだ。

「メアリー、どうした」

 するとジョージの背後から、聞きなれた低い声が聞こえてきた。

「おい、ジョージ」

(げ!!! ルーカスだ)

 声の主を見ると、ジョージの兄、ルーカスが腕組みをしてそこに立っていた。入り口の気の柱に寄りかかって、涼しげな目元でジョージのことを睨んでいた。

「お前、こんなところで何をしている?」

「……兄さんには関係ないだろう?」

 ジョージはそっぽを向いた。ルーカスは馬小屋の外にいる二人をチラリとみると鼻で笑った。

「お前、まだアイツとつるんでいるのか?」

 その目はとても冷ややかだった。

()()()()()()とは、早く縁を切れと言っただろう」

 ジョージの返事を聞くこともなく、ルーカスはメアリーのほうを向いた。

「急遽カンバス邸に行くことになった、すぐに準備してくれ」

「……分かりました」

  ルーカスは馬小屋から足早に去っていった。それを見送ると、メアリーが口を開いた。

「直接私に言いに来るなんて、珍しいですね。いつもはカーソンが来るのに」

「……俺に嫌味を言いに来たんじゃないか?」

「いや、きっと、帰ってきた坊ちゃんの様子を見に来たんですよ」

(そうだろうか……)

 ジョージとルーカスは仲が悪い。昔は仲良かったのだが、成長するにつれてお互いの立場がだんだんと明確になり、すれ違って行ってしまったのだ。

「では、二頭準備しておきますので、お二人を呼んできてください」

「……分かった、ありがとう」

 ジョージは礼を言うと、アーサーとオリバーを呼びに行った。


〇●〇


 正門から一本道を挟んだ向かい側で、二人はジョージを待っていた。

「お待たせ」

 そうジョージが声をかけると、二人が顔をあげた。

(なんか、雰囲気悪くないか……??)

 ジョージは何があったのか聞こうと思ったが、アーサーがそれを遮った。

「大丈夫だったか? 兄貴が入っていくのが見えたぞ」

「うん、正直あまりいい気分じゃないけど、平気だよ」

「そうか、なら良かった」

 良かった、という言葉とは反対に、アーサーの眉間には濃いしわが刻まれている。

「アーサーも大丈夫か?」

「ん? あぁ」

 アーサーは眉間を揉みながら答えた。

(だ、大丈夫だろうか……)

 二人の間に流れる不穏な雰囲気に圧倒されながらも、ジョージは二人を馬小屋へと案内した。

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