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第十二話 宿屋② 

 翌日、ジョージはアーサーよりも早く目が覚めた。窓の外を見てみると、大通りに面した外はまだ薄暗く、人っ子一人いない。

 ジョージがぼんやりと外を眺めていると、一台の馬車が急いだ様子で走り去った。

(この前の俺みたいなやつがいる……)

 窓のそばには同じような茶色の小鳥が二羽やってきて、仲睦まじく羽繕いを始めた。兄弟なのか恋人なのか、はたまた友人同士なのか。ジョージは野鳥に詳しくないので、動作を見ても分からない。一匹が鳴き出すと、もう片方が長い返事をした。その美しいソプラノが、朝靄の中に溶けていく。

(今度は野鳥をテーマに作品を作ろうか)

 ジョージが寝ぼけた頭で考えていると、眩しさを感じて顔をあげた。

 太陽が、宝石のように輝きながら顔を出していた。

(いい夜明けだな)

 ジョージは思わず目を細めた。その瞬間、小鳥が羽音を立てて、空へ飛んで行った。朝の冷たい空気が部屋に流れ込む。

 ジョージは思いっきり背伸びをして、頭をすっきりさせた。


 アーサーを見ると、まだ眠っていた。

(仕事のある朝だったら、とっくの昔に起きているだろうに……。疲れがたまっているのだろうか)

 アーサーのそばに行って、顔を覗き込んでいた。ジョージの大胆な行動に対して、アーサーが起きる気配が全くない。

 ジョージはこれはチャンスとばかり、久しぶりにアーサーの顔を観察した。

(相変わらずモテそうな顔をしている……。正直言って、うらやましいぞ)

 今度、人物画のモデルを頼んでみようかな、とジョージは思った。

(でも、野郎じゃあなぁ……)

 ジョージの絵のモデルは可憐な女の子が多かったので、少し躊躇した。

(ち、違うそうじゃない)

 ジョージは頭を切り替えて、アーサーを強く揺すった。

「起きて、アーサー」

「……無理」

「起きてくれ、朝だよ」

「もう少しだけ」

「オリバーを迎えに行かなくちゃ」

 アーサーは布団の中でモゾモゾして、なかなか起きない。

ジョージは仕方がないので、紅茶をいれて待つことにした。

 いつも紅茶はカーソンに用意してもらっているジョージは自分でできるか不安だったが、見よう見まねでやってみたら案外うまくできた。

 ふわりとした茶葉の香りに心を和ませていると、ジョージは自然に鼻歌を歌っていた。

 カバンに入れていたスケッチブックを取り出すと、さっき見かけた野鳥を描き始めた。スラスラと思い通りにペンが進む。

(ふはは!! なかなかいい出来だぞ。さすが俺、絶好調だ!! さてと、次はアーサーの絵でも描こうかな)

 そう思って、スケッチブックのページをめくろうとした、その瞬間。

「相変わらず上手だな」

 頭の上から、低い声が降ってきた。

「び、びっくりした! いきなり声をかけないでくれよ」

 驚いた拍子にペンを床に落としたジョージを見て、そんな大袈裟な、とアーサーはあきれた様子だった。

「あれ、もう着替えたの?」

 ジョージはアーサーの服を見て言った。

「そういうお前はなぜ寝間着なんだ」

 アーサーは首を傾げた。

「どうしてだろう」

 ジョージは紅茶をすすった。

「……」

 アーサーがジトっとした目で俺を見つめた。

(何かやばい雰囲気……?? でも、俺、のんびり屋さんだし)

 アーサーがジョージをまるでごみを見るような目つきで見つめている。

「分かった! すぐに着替えるよ」

 ジョージはまだ暖かい紅茶を一気に飲み干すと、急いで着替えた。カバンにスケッチブックやらペンやらを詰めている横でアーサーはこう言った。

「これはつけなくていいのか?」

 サイドテーブルに置いていたペンダントを指さした。

「あぶねぇ、忘れるところだった、ありがとう」

 ジョージは急いでそのペンダントを首から下げた。

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