表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マヌカン  作者: ハイダウエイ
9/35

第9話

ここをクリックするとyoutubeのURLが出ます

挿絵(By みてみん)

この2週間ほどアパートでじっとしていることが無かったせいか、智弘の引きこもり生活

にも少し変化が現われていた。さすがに銀座や渋谷に出向くことは無いのだが、比較的

人の多い場所でもそれほど圧迫感を感じなくなっており、センスの良いブティックや

アクセサリーショップにも入ることが出来るようになっていた。少し人が集まりだして

いた原宿などにも、時々出かけた。当時の原宿といえば、まだどちらかといえば住宅街であったが、少しずつではあるが小さなブティックなども出来始めていた。

後にラフォーレ原宿が出来る頃にはファッションのメッカになってゆくのだが・・・

智弘もこの創世記の原宿をよく歩いていた。この日も最近オープンした小さなブティックのディスプレイを何と無く見ていた。デザインこそまあまあだが、色使いがなんとも言えず

10分程立ち止まっていた。

「素敵な色使いねー・・・・・・」急に後ろで女性の声がした。

慌てて振り返ると、なんとあの少女が立っていたのだ。今日はあのホステスさながらの

ドレスではなく、灰色のコートにグレーのタートルネックのセーター、それにチェックの

膝下のスカートという着こなしだった。

「このお店、最近オープンしたんですね?知らなかったわ。久しぶりに原宿に来た

から・・」

少女は親しげに智弘に話しかけてきた。

「あっ・・・あの、以前貴女を見ました。吉祥寺の駅の近くで・・・・」

自分でもなぜこんなことを言ったのか不思議だった。彼女に何かアピールでもしたい

のだろうか? 水商売の女性なんだぜ? こんな貧乏なプー太郎と話すことなんか無い

だろう・・・・智弘の心の中に色んな考えが浮かんでは消えた。

「私・・・吉祥寺に住んでるんです。じゃあ偶然出会ったのを憶えていてくれてたん

ですね?うれしい・・・」

心の中では、貴女を捜して2週間も彷徨った挙句、貴女の家も名前も職業も知りました。

そんな言葉が次から次に出ていた。

なぜこんな清純そうな子がホステスをしているんだろう?智弘は不思議でならなかった。

「あの・・・・・洋服とか・・・好きなんですか?」

また何を聞いてるんだ?そんなこと聞いてどうする?自分の馬鹿さ加減に腹が立ってくる。

「そりゃ・・・女の子なら誰だって興味があるわ。少しでもキレイに見せたいでしょ?

自分のこと。でも、好きな洋服は高いのよねー。これだって・・・8000円も・・」

「この色使いはキレイだけど・・・・貴女には似合わないと思います」

「えっ? それはどういうこと?」

「すっ・・・すいません! 以前見たとき身体にフィットした服着てったでしょ?

 貴女のスタイルなら・・・この服だと重くなりすぎると思う・・・」

「君はデザイナーか何かなの?」

「・・・・・違うけど・・・・」

「じゃあ聞くけど、私ならどんな服が似合うと思う?」

「そ・・・それは・・・・」

「たとえば・・渋谷のザグとか・・・新宿のメリーズなんかは?好きなんだけど・・・」

「ザグは知ってますが・・・素材が悪いんじゃ?・・・」

「へー・・・詳しいんだね?どこか知らない?お洒落で私に似合ってて・・・値段は

あまり高くないほうがいいんだけど・・・・」

「あの・・・・僕が作った服・・・着てみますか?」

智弘は自分で言ってびっくりしていた。俺にこんなことを言う勇気?があったのか?

確かに先日作った服は彼女をイメージしたさ。しかしそれは清楚な彼女の印象から

浮かんだデザインだ。ホステスの化粧をした彼女には似合わないだろう?

そう思いながら少女を見ると、今日はほとんど化粧をしていなかった。唇は少し

濡れたように光っているが、多分リップクリームか何かだろう。どっちが本当の彼女

なんだろう?そんなことを考えていた。

「君のデザインした服? へー・・・やっぱりデザイナーさんじゃない! 素敵ねー。

ねえねえ・・是非見せてよ。 お店があるの? それとも自宅で作ってるの?」

「自分のアパートで作ってます・・・・プロじゃないですから・・・」

「そうなんだぁ・・・見たいなぁ・・・ねえ、ちゃんとお金払うから! もちろん

気に入ったらの話だけどね。 ねえ、いいでしょ?」

「・・・・・いいですけど・・・」

「うれしい! 今度いつ会える? 早く着てみたい。ねえ、今週の金曜日空いて無い

かしら?」

「金曜日は空いてますけど・・・・どこで渡せばいいですか?」

「じゃあ吉祥寺駅に11時で!私の家に招待するわ。あなた・・・悪そうな人じゃ

無さそうだし」

「わかりました・・・11時に駅に行きます」

「ホントよ!約束。 じゃあ、私仕事あるから・・行くわね・・・私、佳代子。君は?」

「智弘・・・横内智弘。じゃあ・・・・今度」

佳代子が去った後も暫らくその場にボーっとしていた。

あれほどホステスだの何だのと思っていたのに、声をかけられ実際に話した印象は

想像していた少女のままだ。

「金曜日・・・・・11時かあ・・・・・」

少女を思い出しながら急にドキドキしだしていた。

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ