第8話
:
少女に会えぬまま2週間が過ぎていた。
智弘はバイトの日以外、吉祥寺駅周辺を彷徨っている。ショーウインドに飾られた流行のファッションに自然に目に止まり、時には店に入って服地を触り縫い方を見たりした。
もちろん店員が「プレゼントですか?」などと言いながら近づけば、直ぐに外へ
飛び出していたのだが・・・・・
それでも、ほんの数週間前ならこんなに人の多い場所に来る事は無かったであろうし
ましてやブティックに入るなど考えもしなかった行為だ。
2週間も探していると「あの子はたまたま通りがかっただけだったのかな?」
と考えるようになっていた。智弘は帰りにホットドッグを買い住宅街の公園で少し早い
夕食を摂っていた。さすがに2月中旬の夕方ともなればかなり寒い。
コートの襟を立て、家から持ってきた水筒のお茶を飲んでいると高級車が前の道路で
停まった。
中には男女が乗っているらしく暫らく動か無い様子である。
2分ほどして助手席のドアが開き、ミニスカートを履いた女性が降りた。
智弘は一瞬ぎょっとした。先日見た少女である。遠目ではっきりとは分からなかったが
かなり濃い化粧をしており、明らかに水商売の女性と思えるファッションをしていた。
少女を降ろすと、黒塗りの高級車は猛スピードで走り去った。
急いで少女の後を追いかける。10分ほど後をつけているとモダンなマンションに入って
行った。住宅街には珍しい4階建ての鉄筋で、レンガ風のタイルの外壁が美しかった。
少女が建物に入って暫らくして、2階の端の部屋の明かりが燈った。
智弘はすぐさま階段を上がり部屋の番号を確かめた。204号室が彼女の部屋だ。
表札は出ていない。階段下の郵便受けにも名前は無かった。
いけない事とは思いながら、鍵のかかっていない郵便受けを覗いてみると、封筒や
ハガキが何枚か無造作に突っ込まれている。その中の一つを手に取ると彼女の名前が
書いてあった。差出人は市役所のようだ。
「南沢佳代子・・・・これが名前か・・・」
智弘はドキドキしながら封筒を元に戻し、急いでその場を離れた。駅に着いてもまだ
鼓動が早い。
「なあ・・マーちゃん。今日彼女を見かけたよ・・・・多分ホステスか何かだろう。
一所懸命探したけど・・・俺とは住む世界が違う人みたいだ。きっと色んな男に
抱かれているんだろう。 人は見かけによらないもんだ」
昨夜仕上げた一着は、彼女を思い出しながら縫っていた。
その服をマネキンに着せてみた。ボディラインにピタリと吸い付くように、その服は
自己主張をしていた。
「・・・・・マーちゃんにピッタリだ・・・あの娘には似合わない」
そう言いながら久しぶりにビールを煽った。