第34話
南澤佳代子の巻き込まれた事件は、ちょっとした社会問題に発展していた。
連日テレビで覚せい剤と芸能人について特集が組まれ、佳代子の名前も実名で報道され
ている。
世間的には、アイドルとその恋人の転落というタイトルが視聴率を獲得する為の最善の
方法であった。佳代子が智宏と付き合っていた事など、彼らにとってはどちらでもいい
事だったのかもしれない。
TVでは覚せい剤使用に関する報道のみであったが、始末が悪いのは3流芸能スキャンダル雑誌で、毎夜行われた乱交パーティーの模様を、取材半分創作半分でかなり卑猥に書いて
いた。勿論、世間もそんな事は重々承知しているが、その過激さを求め発行部数も
うなぎ登りだった。
智宏は佳代子の事情聴取が終わった日、佳代子を山口県に連れてきていた。
ここには吉井の親戚の使っていない別荘があった。かなり古い家だが暫く身を隠すには
もってこいの場所だ。佳代子は肩まであった髪をショートカットにしていた。
報道されているファッション雑誌に掲載された容姿とは、全然違うほど幼さの残る
顔立ちのため、村の連中も今世間を沸かせている山崎真也のお相手がこんな田舎に居る
とはまったく気がついていない様子であった。
「智宏・・・・色々心配かけてごめんなさい・・・私、自分が何をしているのか分かって
無かったのかもしれない。あなたを裏切って快楽に溺れていた・・・」
「もういいよ。その話は・・・・今は忘れる事だよ。警察も今回は起訴しないと
言ってくれているんだ。君は被害者なんだから・・・」
「でも、あなたを裏切ったのは事実だわ・・・・」
「でも、戻ってくるんだろ? またやり直そうよ。今度は離さないから」
「智宏・・・・・・ごめんなさい・・・」
佳代子は泣きながら智宏の胸にすがっていた。
取材のせいで一時的にノイローゼになっていたとはいえ、自分にとって一番大切な
人を裏切り、快楽の世界に浸っていた自分を消してしまいたいと思っていた。
智宏は原宿の事務所を吉井に任せ、山口県にミシンや簡単な設備だけを持ってきていた。
ここでは午前中に2時間と午後から4時間だけ仕事をし、後は佳代子と食事の用意をしたり
近くの海に二人で釣りに行ったりしていた。
暮らし始めて最初の1週間ほどは、佳代子に麻薬による軽い禁断症状が出ていた。
夜になると咽が渇くのか何度も水を飲み、その都度智宏の身体を求めた。
智宏は最後までいく事をせずに、佳代子の欲求に答えてやった。
その症状も今では一晩に7~8回から1~2回に落ちついてきている。
「智宏、もう私に飽きてきたでしょ?毎日毎日何度も欲情するから・・・」
「エッチな佳代子も好きだよ。僕だって佳代子のように何度だって出来るなら
ずっと愛し合っていたいと思う・・・・」
「私を嫌いにならないでね。あなたの事しか考えないから」
「嫌いになんかならないよ。佳代子が居れば何も要らない・・・だからここに居るんだ」
「ありがとう・・・・・あっ!智宏、 糸、引いてるよ!」
「おうっ!!これは大きいかも? 今晩のおかずは鯛かぁ?」
「頑張って! お刺身食べたーい。あっ、見えた!ホントに鯛よ」
「よし、佳代子アミだ!そこにあるから・・・・そうそう! よっしゃ!」
「うわー・・・・おっきい! なんていう鯛かしら?」
「コブダイだよ。買えばかなり高いんだ。帰りに日本酒買って帰ろう。うー重いなー」
「車で来て良かったねー。智宏スゴーイ!」
ここに来てから佳代子はよく笑う。いろいろな事を経験したお陰で、何か引っかかって
いた物が外れたように・・・
智宏はこの幸せな時間がずっと続けばいいと心から思っていた。