第33話
智弘に佳代子から連絡が入ったのは、それからさらに1週間が経ってからであった。
「もしもし、智弘?ごめんね、心配してたでしょ?」
「いったい何処に居るんだ?お父さんも心配して警察に捜索願を出した方がいいんじゃ
ないかっていってたとろだ。どうしたんだよ、いったい!」
「ごめんなさい・・・今、知り合いの別荘で暮らしているの。夫婦でペンションを
やってるの。そこでお世話になってるから・・・・心配しないで欲しいの」
「心配しないでって・・・・いつ会えるんだ?君の居ない生活なんて考えられないよ」
「もう少し・・・・もう少しだけ時間を頂戴・・・・・そうしたら必ず帰るから」
「わかったよ・・・連絡だけは時々でいいからしてくれるね」
「ええ。必ずする・・・・ごめんなさい我がまま言って・・・・」
電話を切った後、智弘は何故か佳代子が男と居るのではないかという気がしていた。
根拠は何も無かったが、ただ漠然とそんな感じがしたのである。
「彼は心配してただろ?まさか君が僕と一緒に居るなんて思わないだろうし」
「わからない・・・・もう帰らなくちゃいけない・・・そう思いながら身体がそれを
拒んでる。私・・・自分が壊れていくようで怖いの・・・・」
「大丈夫・・・ワインでも飲んで落ち着けば気分も良くなるよ」
そういうと山崎真也はラトゥールをグラスに注いだ。
軽井沢に来てから佳代子はいつも酒を飲んでいた。山崎の別荘ではラトゥールだし
板倉啓太のペンションでは啓太の作るカクテルを飲んでいる。
それほど酒が好きなわけではなかったが、佳代子自身も説明が出来ないほどそれらの
酒が欲しかった。
夜は決まってゲスト達が来ていた。2人の時もあれば5人の時も・・・・
当然のように如何わしい宴が始まり、佳代子とケイコの身体を男たちが貪る。
そんな生活が1ヶ月近く続いたある日、大変な事件が起こった。
山崎真也が覚せい剤所持の現行犯で逮捕されたのである。
京都の撮影現場に持ち込んでいたのを押さえられていた。
同じ現場に居た女優からの通報であった。その女優も山崎と関係があったが別れ話が
拗れ、腹いせで警察に密告したのである。
山崎は以前から警察にマークされており、交友関係なども事前に調べられていた。
勿論、軽井沢の別荘も家宅捜査の対象であり捜査の結果案の定大量の麻薬が発見された。
中でも驚くべきことに、ワインラックに並べられたワインから麻薬の成分が確認されて
いた。このニュースが全国放送されるや板倉啓太達は焦っていた。
いずれ自分たちにも捜査の手が伸びてくるのは目に見えている。
啓太が作るカクテルには麻薬がブレンドされていたのである。
夜の報道番組が山崎真也の逮捕を伝えた次の日、佳代子が目を覚ますとペンションに
2人の姿は無かった。