第32話
佳代子と連絡が取れなくなって1週間が過ぎていた。智弘は不安を覚えながらも
吉井の出す新店舗のための準備に追われていた。この店舗は完全な智弘のブランドで
売り出す予定をしている。商品アイテム200種をすべて任されていた。
勿論、これだけの商品をオリジナルで作り上げるのは不可能であるため、これまで
デザインした服の色使いや特徴を効果的に組み合わせた形で生産されていた。
簡易的なデザインではあるが、どれも最終的には智弘がチェックをし合格点に達した
物だけを商品化しているため、ブランドの戦力としては充分であった。
「佳代ちゃん・・・まだ連絡取れないの?」吉井が心配そうに話しかけてきた。
「ええ。お父さんのところにも何も連絡してないそうです。いったい何処に行ったんだか」
「まあ、世俗と離れて静かな温泉にでも行ってるんじゃないかな?そのうち落ち着いたら
きっと連絡してくるって」
「だといいんですけど・・・・・最近急がし過ぎてろくにかまってやれなかったから・・・」
「今度の店舗がオープンしたら暫く旅行にでも行ってきたら?工場の管理は新しく
入った田中がやってくれてるし、智弘が居なくても2ヶ月くらいは大丈夫だから」
「そうですね。そうしようと思います。吉井さんのお陰で貯金も結構出来ましたから」
「俺のお陰なんて!それはこっちの台詞だよ。まさか数ヶ月でこれほどの売り上げに
なるなんて想像もしていなかった。君たちのお陰だよ。それにしても佳代ちゃん
何処行ってるんだろうなー。友達とか知ってるの?」
「いや・・・あまり知らないんですよ・・・佳代子の事・・・」
「そうなのかぁ・・・でも、長い付き合いなんだろ?」
「ここ数ヶ月なんですよ・・・付き合いだして。この店の前で声をかけられて・・」
智弘はそれまでの経緯を吉井に話した。話しながら自分がまったく佳代子の事を
知らないことを改めて感じていた。
一目惚れしたのは智弘だった。しかし、その後はほとんど佳代子がリードしていた
といっても過言ではないだろう。佳代子の積極性が何処から来るのか不思議に感じた
事も何度かあった。勿論、処女では無かった。それは24歳という年齢を考えれば
当然であろう。ただ外見や仕草とは裏腹に、性に関してはどこか智弘の想像を超えた
次元で感じているようで、その部分だけは少ししこりの様に残っている。
最初のデートが「O嬢の物語」というのも、今から思えば予想外であった。
智弘は急に佳代子の過去を知りたくなってきていた。