第17話
月曜日が仕事の智弘は、その日夜遅くにアパートに戻っていた。
少し気だるさが残った身体が夢のような3日間を思い出させる。
「マーちゃん・・・俺、恋人が出来たよ。君のお陰かも知んないな」そう言いながら
佳代子の部屋で聴いていたドアーズの曲を思い浮かべていた。
あの曲のイメージを忘れないうちに具体的な形を作ってみたくなった。
何枚か生地を選んで組み合わせてみる。パッチワークのように並べてみたり崩したり・・・
イメージがだんだん固まってくるようだった。それをマネキンに貼り付けてゆく。
目をつぶって想像してみた。佳代子の白い肩、細い首・・・柔らかな胸元・・・
その一つ一つをマネキンに当てはめ形を作ってゆく。
翌日、仕事から帰ってきても直ぐに新しいコンセプトの服に取りかかった。
智弘にとっても新しい試みだった。音楽から得たイメージを色や形に変えてゆくという。
生まれて初めて創造する喜びに全身が震えるような感覚を憶えた。
水曜日の夜になってその服は出来上がった。マネキンが身につけたそれは
今までに見たことが無いような個性的なデザインだ。アパートを飛び出し近くの公衆電話に
入った。
「もしもし・・智弘だけど・・・新しい服が出来たんだ! 是非見て欲しい・・」
「どうしたの?昨日、電話くれなかったから・・・・」
「ごめん・・・コレに付ききりだったんだ。イメージがある間にって思って・・
今から行ってもいい?」
「ホント!? 嬉しいけど・・・電車まだ動いてるよね? 明日は仕事でしょ?」
「直ぐに見て欲しいんだ。じゃあこれから行くよ」
智弘は急いでアパートに戻り、駅へ急いだ。
明日のアルバイトは休んでも良いと思っていた。佳代子にこの服を着せて渋谷を歩かせて
みたかった。
「ごめん・・・こんな時間に・・・」
「ううん。 来てくれて嬉しかった・・・昨日ずっと電話を待ってたんだもん。
すごく悲しくなってきた・・・今日もかかってこないんじゃないかって・・」
「バカだなー・・・ホントごめんね。夢中になってた」
「いいの・・・さあ、入って。お風呂入れておいたから・・・」
「ありがとう。とにかく着てみて欲しいんだ・・直ぐにでも」
「まあ・・・何だか智弘カッコイイ。わかった、着てみるから待ってて・・」
そう言うと佳代子はその場で服を脱ぎだした。智弘は少しドキドキしたがまず服が
先決だ。背中のファスナーを上げながら佳代子の姿にため息をついた。
「やっぱり凄く似合ってる。イメージ通りだ・・・・」
「すてき・・・こんなの初めて見た。それに動きやすい・・」
「明日それ着て 渋谷に出てみないか?」
「えっ? 智弘仕事は?」
「休もうと思ってる・・見たいんだ。佳代子が渋谷を歩いてる姿が」
「うれしい! 休んでくれるんだ。みんなこの服見たらびっくりするかも?」
「凄く楽しいんだ・・・服作るのが。こんな事初めてなんだ・・」
「智弘・・・・」佳代子は嬉しさで一杯だった。
初めて会った時からいつも何かオドオドしていた智弘が 自信にあふれ情熱的な
目をして佳代子の目を見つめてくれている・・・・
「明日楽しみだね。今度の撮影もコレ着ていくわ」
「撮影?・・・・雑誌の?」
「そう。昨日電話があったの。今週の土曜日にお願いしますって」
「へー、凄いね。もう一度掲載されるって事?」
「そうらしい・・・また焼肉かな?」
「ギャラが出るんだ。前みたいに? 」
「それも言ってた。今度は2万円だって!」
「2万円!? そんなに・・・・」
「ファッションに使うお金って大きいもの・・・・智弘のチャンスかもね?」
「だといいけど・・・佳代子の服なら幾らでもデザインできそうだ」
「智弘・・・・・好きよ。大好き!」佳代子はそう言うと智弘に抱きついた。
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