第16話
「ねえお風呂入れたから先に入ってよ。はい、これ父の下着とパジャマだけど・・・
それと・・・・髭剃りにタオル」少し恥ずかしそうにしながら佳代子が言った。
「ありがとう・・・まさか君の部屋でお風呂に入るなんて思ってもいなかったよ」
智弘は不思議な感じがしていた。知り合ってまだ数日。厳密には昨日まともに話した
関係のはずなのに、佳代子とはずっと昔から知り合いだったような、そんな錯覚すら
覚えていたのである。佳代子の家の風呂はかなり大きく、智弘のアパートとは比べ物に
ならない。湯船に浸かりながら、さっき佳代子が言っていた言葉を思い出していた。
「本気でファッションの仕事をする、かあ・・・」もし、今よりもっと稼げるのなら
佳代子に愛を告白することだって出来るかもしれない。そう思っていた。
それはつまり、今の自分にはその資格すら無いという事でもあるのだ。
風呂から上がると、リビングにビールが用意してあった。
「これ飲んで寛いでいてね」
佳代子が風呂に入っている間、かかっているレコードのジャケットを見ていた。
輸入盤のため全て英語で書かれていたが、何と無く読めた。
DOORSと書かれたLPは初めて聴くタイプの音楽だった。
特にThe End という曲は幻想的な感じがして、目を瞑っているといろんな色が見える
ようだった。こんな曲を聴きながら服を作ったなら、面白い物が出来そうな気がする。
30分ほどし、バスルームから佳代子が戻ってきて智弘の横に座った。
リンスのいい匂いがした。
「私もビール飲もっと。楽しかったね。なんだか昔から一緒に居るみたい・・・」
「同じ事思ってた・・・・自然な感じっていうか・・・」
「わかった! 私の事を女として見てないんでしょ?ヒドーイ」
「そうじゃないよ。初めて見たときから綺麗だなぁって思ってたから」
「ドキドキする?」
「しない・・・・何でだろ?」
「ドキドキしないんだ・・・・じゃあ、こうしても?」
そう言うと佳代子が突然唇を重ねてきた。ドキドキはしなかった。
自然に彼女を抱きしめ、時間が止まったように長い時間そうしていた。
「智弘。私・・・智弘のことが好き・・・」
明け方寒さで目を覚ますと、佳代子と同じ毛布に包まっていた。
彼女の白い肩が眩しいほど美しい。そっと唇を当てると佳代子が目を覚ました。
「少し寒いね・・・もっとピッタリ寄り添ってて・・・」
「あんまりキレイな背中だから見とれてた」
「ばかっ。・・・・恥ずかしい事言わないで」
時計は5時半を少し廻っている。
二人は甘い夜の続きを再び奏でようとしていた・・・
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