第15話
喫茶店で1時間ほどインタビューを受けている間に、雑誌社からスタッフがやってきた。
撮影は数箇所で行われ、その都度周りに人垣が出来ていた。智弘はその様子を見ている
だけだったが、ギャラリーの中に居たお陰でその評判も聞くことが出来た。
「なにあの子?モデルかな・・・」
「どこかのメーカーのモデルよ。たぶん・・・」
「あー、あの服欲しいなぁ。どこのブランドかしら?」
「パルコに売ってるんじゃない?」
「後で行ってみましょう。それにしてもキレイな子ね・・・・」
話を聞きながら可笑しくなってきた。まさかそれを作ったのは俺だ、なんて信じない
だろう。
それにあのワンピースは佳代子が着るから良いんで、君達が着て似合うとは限らない。
そう言ってやりたかった。撮影は2時間ほどかかり、二人が解放されたのは4時を少し
まわった頃だった。
「あー、疲れちゃった。ごめんね。待っててもらって」
「おつかれ。何だか輝いてたね。みんなキレイだって言ってたよ」
「ねえ、何か食べに行こうよ。ほら、これ貰っちゃった」
そう言って封筒からお金を出した。1万円札が入っていた。
「凄い・・・・そんなに貰えるんだ。良いアルバイトだなぁ・・・」
「バカね。いつも貰えるとは限らないじゃない? あっ、でも来週も空いて無いかって
聞いてたわね、あの記者。別の服を着てきて欲しいとか・・・」
「連絡先教えたの?」
「ええ。 自宅の電話番号を教えたわ」
「いいなぁ・・・電話があるんだ」
「えー!?・・・智弘、電話付けてないの?じゃあ会いたい時どうすれば良いのよー」
「ごめん・・・時々電話するよ。こっちから・・・・」
「わかった。じゃあ毎日電話してよ。朝と夕方」
「そんなに?監視されてるみたいだなぁー」そう言いながら智弘は笑っていた。
急激に接近した二人はまるで恋人同士のような会話を楽しんでいた。
まだお互いの事はほとんどわかっていなかったが、流行の言葉で言えばフィーリングが
ピッタリだったのかもしれない。
その夜は謝礼金で焼肉を食べる事にし、渋谷で最近オープンしたばかりの店に入った。
ビールを飲み久しぶりに牛肉を堪能した。二人で思いっきり食べたが5千円ほどだった。
「ねえ、今晩ウチに泊まっていかない? もっと話がしたいの・・・」
「いいけど・・・親は心配しないの?お父さん」
「大丈夫よ。わたしの事は分かってくれてるし、それに私だってもう24歳だもん・・」
「そうだよなぁ・・・24歳って言えば大人なんだよな・・・俺はフラフラと遊んでる
けど、みんな頑張って働いてる」そう言って周りを見渡した。
仕事帰りのサラリーマンやOL達が大勢居た。彼らはよく喋り大声で笑っていた。
安いアパートで、この年にもなってマネキン人形に話しかけてる自分が小さく見えた。
「ねえ、本気でファッションの世界に入ってみたら? 智弘なら絶対成功すると思う。
今日だってこの服のお陰でこんなに美味しい物食べれたんだし」
「それは、佳代子さんがキレイだからでしょ?」
「バカねー。だったらとっくに雑誌に載ってるって。この服を着て歩いたから声を
かけられたんだよ。自信を持ちなよ!」
佳代子に励まされていると、何か自分にも出来るんじゃ無いかという気持ちになってくる。
渋谷の焼肉屋を出て、二人がマンションに戻ったのは10時半頃だった。
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