第13話
「佳代子さん、起きて・・・・閉店だってさ。佳代子さん!ほら、起きてって!」
午前3時が近づき、それまで居た客達がチェックしだしていた。佳代子は1杯目の
ターキーを飲み干したあたりで意識が飛んでいたようである。
「なに?まだ飲み足りないわよー・・・・閉店なの?」
佳代子を担ぐようにして店を出た智弘は、通りでタクシーを捜した。
しかしこの時間になると走っている車などほとんど無い。
仕方無しに佳代子のマンションの方角に歩き出した。
「佳代子さん、大丈夫ですか?ちゃんと摑まってて下さい」
「君はいいヤツだねー。気に入った!ウチで飲みなおそう。イタリアのワインがあるから」
「何言ってるんですか・・・・しょうがないなぁ・・・」
フラフラと歩きながら30分近く掛けて佳代子のマンションに着いた。
「佳代子さん着きましたよ。僕はこれで帰りますから・・・大丈夫ですよね?」
「冷たい事言うなよー・・・何も取って食べようって訳じゃないんだから・・・
はい・・・これが鍵。開けて・・・・・」そう言うと智弘に鍵を渡した。
仕方なく佳代子を抱きかかえるようにリビングに連れて入った。佳代子をソファーに
寝かせると流し台で水を飲んだ。強いとはいえ佳代子が寝ている間に3杯ほどダブルで
頼んでいたので、智弘もそうとう酔っているはずである。自分だけなら当に寝ていても
不思議では無い量だった。
この時間に外に出ても寒いだけだ。とりあえず始発の時間まで佳代子のマンションで
時間を潰し帰れば良い。そう思い椅子に腰を下ろした。時計は4時前になっていた。
「智弘・・・寒い・・・」佳代子が何か言っている。
「どうしたんですか?何か言いましたよね?」
「こっちに来て・・・」
「なんです?水飲みます?」ソファーで寝そべっている佳代子の前に座り、顔を覗き
込にながら智弘は聞いた。
「寒い・・・・」そう言うと智弘の首に手を廻し、自分の方へ抱き寄せた。
「佳代子さん・・・・・」暫らくその状態で固まったように佳代子に重なっていた。
10分ほどそうしていると静かな寝息が聞こえてきた。智弘は自分のコートを
佳代子に掛けると、ソファーの前のじゅうたんにしゃがみ込んだ。
普段この佳代子という少女はどんな生活を送っているのだろう?
ああいった店にいつも行っているのだろうか?今夜の支払いは智弘がしていた。
二人分で6千円の出費だった。ライブチャージが含まれているのでそれほど高くは
無いが・・・智弘の所得では何度も行くなんて無理な話だ。
「気楽なもんだ・・・」そう呟きながら絨毯に寝転がった・・・・・
「おはよう!ご飯できたよ。ほら、起きて!」智弘の耳元で佳代子が言った。
「えっ?・・・・・・寝てたんだ・・・俺」寝ぼけ眼で佳代子の顔を見た。
「お腹空いたでしょ?昨日あんまり食べなかったもんね」
「ありがと・・・・・何時なの?」
「9時半だよ。お味噌汁冷めちゃう・・・食べよっ」
「・・・・・・そんなに寝てたんだ・・・」
テーブルには目玉焼きと味噌汁、それに野菜サラダが並べられていた。
「ごめんね。昨日の夜の事ほとんど覚えてない・・・・酔っ払ってたでしょ?」
「まあね・・・出来上がってたね」
「私・・・・お酒、弱いんだ・・・・ホントは」
「そうなんだ。よく飲み歩いてるのかなって思ってた」
「あの店は父の知り合いが経営してるから知ってただけ・・・何店舗かあるんだって」
「初めて行ったの?・・・・・そうだったんだ・・・・」
智弘はまたもや勘違いをしていた自分が、今度は少し可笑しくなった。
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