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マヌカン  作者: ハイダウエイ
10/35

第10話

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挿絵(By みてみん)

アパートに戻って、智弘は金曜日に持っていく服を選んでいた。

「マーちゃんはどれが良いと思う?これは絶対にいいよなぁ・・・それと、こっちも・・」

智弘のデザインは、バッグやスカーフなどの小物までトータルでコーディネイトしている。

本当なら靴やアクセサリーまで自分でデザインしたかったが、さすがにそれだけの技術は

勿論、予算ももうかけられる状態ではなかった。週2日のアルバイト代など家賃と生活費で

ほとんど消えてしまう。

「何か他にも仕事を見つけないと・・・・」以前ならこんな事は考えなかっただろう。

マネキンを拾ってきて以来、少し前向きに生きている自分が何だか嬉しかった。


約束の日、智弘は待ち合わせの1時間近く前に駅に着いていた。

選んだ服は6着。それにハンドバッグが3つ、とかなりの荷物である。それを大きな

薄手の布で包み、麻紐で縛っている。パッと見、行商でもするかのような出で立ちだった。

駅の前の喫茶店でコーヒーを飲んでいると、駅から南沢佳代子が降りてくる姿が見えた。

彼女も30分近く早く到着したようである。急いで店を出て駅に向かった。

「早かったんですね? そこの喫茶店から姿が見えたんで・・・・」

「君こそ早いじゃない!スゴイ荷物ね・・・・それ、全部服なの?」

「そうです。とりあえず6着持ってきました。後は・・・・バッグとかベルト・・・・」

「そんなに・・・ごめんねー・・君の家に行った方が良かったね?・・・じゃあ

家に行こうか。 まずタクシーのトランクに載せましょっ」

駅前から佳代子のマンションまでならタクシーで5分もかからない。

佳代子は知らないが、先日智弘がつけた時は駅まで戻るのに15分ほど掛かっていた。

この荷物を持って歩くのは結構きつかったかもしれない、と智弘は思っていた。

「ここなの。私の家・・・」運転手に運賃を払いながら佳代子は智弘に笑いかけた。

タクシー代は360円だった。結構な金額である。

智弘の時給が丁度同じ額だ。とてもしょっちゅう乗れるものではない。

南沢佳代子のマンションはそれほど広くは無いが、最新式の設備が目を引いた。

玄関を入ると収納庫が壁にセットされていた。廊下を抜けリビングに入ると、10畳ほどの空間に食卓テーブルとソファーが置いてあり、テレビは20インチのタイプが

黒いテレビ台の上に乗っていた。

二重のカーテンを開けると、少し広めのバルコニーが大きな窓の外に見えた。

「すごい家ですねえ・・・・家賃・・・高そうだ・・・・」

「そうねー・・・借りたらきっと高いと思うわ。私ね・・・タダで住ませてもらってるの」

「えっ?タダなんですか!?スゴイ・・・・・」そう言いながら 彼女の生活が何と無く

分かるような気がしていた。 扉の向こうには多分大きなベッドが置かれ、時々愛人が

尋ねて来ては彼女をもてあそんでいるに違いない。そうでなければこれほどの部屋に

住むのは不可能だと思った。

「座って。今レモンティーを淹れるわ。タバコは?」

「吸わないです・・・・これ、ここで開けてもいいですか?」

持ってきた包みをリビングの床に置きながら智弘が言った。

「ハンガー持って来るね。ここに掛けてくれればいいから・・・」

そう言って佳代子がカーテンレールを指差す。

智弘が服を掛けている間に、サイドテーブルに紅茶とケーキが用意されていた。

ハンガーに掛かった服を見ながら佳代子は驚くように言った。

「すごいわ! これ、全部君が作ったの? 素敵・・・・・・バッグやベルトもお揃い

なんだぁ・・・ねえ・・・ちょっと着てみてもいいかしら?」

「もちろん。順番に着てみてください。サイズはピッタリのはずです」

「そんな事もわかっちゃうんだ! スゴイなー・・・・じゃあちょっと着てくるね」

そう言うと奥の部屋に入っていった。智弘はすかさず部屋の様子を見たが、そこには

大きなベッドなどは無く、6畳ほどの和室に仏壇が置いてあるだけであった。

この時智弘は、自分が何かとんでもない誤解をしているのではないかと後悔していた。

彼女の素振りや話し方など、どこにもスレた感じがしない。それどころか清楚な感じ

すらするのである。ひょっとすると彼女はお金持ちのお嬢さんなのでは?

そんな考えが浮かんでいた。

「どうかな?似合ってるかしら?・・・・」智弘の作ったワンピースを着た姿を見て

智弘は自分の心臓の音が聞こえてしまうのでは無いか、と思うほどときめいていた。

勿論、サイズはどこも手直しの必要も無いくらい彼女にフィットしている。

手足の長い彼女を最大限に生かす武器はスカート部の丈であり、膝上20cm程に仕上げた

それは誰も文句を付けれないほど彼女を美しく見せていた。

「すごく着やすいわ。この服・・・・軽いし・・暖かい」

「輸出用の最新の素材で作くたんです。それに・・・このバッグを合わせてみて・・・」

智弘が大きなリボンをデザインに取り入れた同色のバッグを手渡すと、佳代子はリビングに

掛けてある大きな姿見の前でポーズを取ってみせた。

「すごく似合ってますよ。きつい所は無いですか?」

「全然! 動きやすいし・・・・それに色が最高だわ。こんなの見たこと無い」

「じゃあ、次のも着てみて・・・」

その後、すべての服を着て大満足の佳代子が智弘に話しかけた。

「値段なんだけど・・・・私に払えるかしら・・・・これが一番欲しいんだけど・・・」

そう言いながら3番目に着たワンピースを指差した。

「これ・・・全部貴女にあげようと思って持ってきたんです」

「えっ? まさか! そんなの絶対ダメよ!ちゃんと払うから・・・だって素材も

最新だって言ってたじゃない。これなんか輸出用なんでしょ?」

「いいんです。生地は働いている染色工場でもらったものですし、作るのが楽しいだけで

売ったりした事ないんです。それに・・・この服を着れる人はそんなに居ないと思う・・」

智弘は本心でそう思っていた。最近外を歩くようになっていろんな人を見てきたが

マネキンとスタイルが同じ人間なんて未だに見たことがなかったのだ。

挿絵(By みてみん)



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