▽第7話 星空の下で寝静まる魔王城
焼肉というご馳走で賑わった夕食の後。
夕食を食べ終えて満足した魔物たちは寝静まっていた。無防備で愛らしい寝顔を晒し、静かな寝息を立てている。
「ほわぁ~」
「寝るか?」
「うん、眠くなってきちゃった!」
ルーシーがわざとらしいあくびを一つ。疲れたように目を擦って、全身から眠気を伝えてくる。
「あ、その前に防壁張らなくちゃ……防犯防犯っと!」
「すまない。ここの防壁、俺が破壊してしまっていたな」
「まぁまぁ、過ぎたことだから気にしてないよ」
ユウが初めてここを訪れた時に破壊した魔法防壁。
今は城の防御が無防備であり、眠たげなルーシーは魔法防壁の張り直しに取り掛かる。
「えぇっと……? 我の意思に頑強な防壁を以て応えよ、プロテクトウォール」
ルーシーを中心にして展開される魔法陣。
マナの波動と魔法のオーラを身に纏う、ユウの魔法とは違い、視覚的に魔法を使用していることがよく分かる。
「はい、これでオッケー」
「万全だな」
彼女が窓から外を見て告げる。
ユウも一緒に窓の外を見てみれば、薄っすらと見える魔法防壁が城を囲むように張ってあった。
城の防御は整えられた。これで全員が安心して眠ることが出来る。
「さーて、寝よっか」
「そうだな」
「あ、こっち。一緒に来て」
「了解」
ユウはルーシーの後を付いていく。
ところところで眠る魔物たちを踏まないように通路を歩いて、階段を何段も上がる。
着いた先は城の最上層。
二人は最上層に一つだけある部屋の扉の前に来た。
「ここがアタシの寝室。いや、もうアタシたちの寝室になるかな?」
「それは一緒に寝るということか?」
「そういうことぉ! さぁ来て!」
「あぁ」
寝室の扉を開き、入っていく。
室内はお姫様の部屋という印象が強い内装。
女性のルーシーには似合いの寝室だが、ユウには少し落ち着かない寝室だった。
「ユウ君、どう? 一緒に寝るにはいいでしょ?」
「そうだな、不満は……ないと思う」
「なにそれぇ、なんか含みがあるんだけど」
「こういう寝室は初めてで慣れないだけだ」
「あ、そういうやつ? まぁその内に慣れるよ♡」
言いつつルーシーはベッドに腰掛ける。
二人で寝るには充分な大きさのベッド。一緒に寝るのに不足はない。
「ともかく、まずはお着替えしようね」
「着替えか……」
ユウに着替えはない。
じゃあ、どうするか?
魔法を使って着替えることにした。
記憶から引き出し、自らの衣服を想像。魔法のオーラを纏う思考型魔法で、ユウは軍服姿からTシャツと短パンのラフな姿となる。
「おぉっ、ユウ君もそうやって着替えるんだ!」
「ルーシーも?」
「うん、よく見てな!」
彼女も同じく魔法で着替える。
ラフな姿となったユウはどうやるのかを見つめた。
「ドレスアップ!」
ベッドから立ったルーシーを中心にして展開される魔法陣。衣服が光り始める。
「マジックステップ、スリープナイト!」
「!?」
そして衣服の光が弾けると、ルーシーの姿が変わっていった。
その様子は着替えるというよりも変身。
衣服こそベビードール──セクシーランジェリーと呼称される分類に入るものだが、変身の仕方は完全に魔法少女であった。
「まるで魔法少女の変身だな」
「あ、分かる?」
変身が魔法少女なだけではない。ルーシーは魔法少女という存在を知っていた。
予想外のことに、ユウは「え?」と漏らす。
「この変身魔法、別世界から来た魔法少女のものなんだって! 別の大陸から渡ってきた本に書いてあった。キラキラしていてすごいでしょう?」
「あ、あぁ……」
別の大陸に異世界の魔法少女が存在している。
まさかの事実に、ユウは口を開けっぱなしで驚きを隠せない。
同時に懸念が広がる。その魔法少女も転移者ならば、自分だけがこの世界に転移して来たとは限らないと。
「もし俺の世界の軍が来ていたら……」
「なーに? 変身ヒロインを目の前にして考え事?」
「すまない。色々心配事があってな」
「もうユウ君ったら……今はアタシだけを見て、心配事は一旦置いておいてさ」
ルーシーは誘うようにユウの腕を引っ張り、引き寄せる。
物理的に距離を縮めて二人はベッドに座る。
「さぁ、一緒に寝よ」
そのままルーシーはベッドに横になる。
「そうだな。まだ脅威はない訳だし」
懸念を頭の中から放り出し、ユウもベッドに横になる。
そこから二人は一緒に一つのベッドに入った。
「えへへ……なんだか恥ずかしいね♡」
「俺に恥ずかしさはない。ただ人肌に触れながら寝るのは久しぶりだ……」
「ちょ、ちょっっ!?」
ユウはルーシーの温もりを求めて抱き寄せる。
ルーシーの予想を裏切る積極的な肌の触れ合い。顔を赤くしたルーシーの心音が、肌越しに伝わっていく。
「おやすみ、ルーシー」
「う、うん……お、おやすみね」
彼女の心音と温もりを感じながら目を閉じる。
ユウにとって母親、父親と一緒に寝た時以来の懐かしさ。
ルーシーの目も閉じられる時、魔王城は健やかな眠りに満ちていく。




