▽第6話 夕食
入浴という名の作業と化した、お風呂タイムから数十分後。
ユウとルーシー、魔物たちは大浴場から玉座がある魔王の間へと戻っていた。
「そんで、ユウ君はこれからどうするの? もう討伐依頼ないし、住むところもなさそうだけど」
「まずは野宿か、滞在出来る場所を探す」
「野宿はさすがのユウ君でも大変じゃない? だからさ──」
「大丈夫だ。陸海空、宇宙空間の中でも野宿は経験済みだからな」
ユウの常軌を逸した野宿の経験。
ルーシーは思わず「は?」と声を出した。陸と海はともかく、空より高いところで野宿なんて聞いたことがなかった。
「では、また会お──」
「ちょっと待てぃ!」
野宿する気で魔王城を立ち去ろうとしたユウを、ルーシーは服を引っ張って引き留める。
「どうした?」
「どうしたもこうしたも、ここに住みなよ。野宿なんて面倒なことしないでさぁ」
「いいのか?」
「いいよ。今のアタシはユウ君のおかげで怖い魔王として身を潜めなくていいし、そろそろ魔物以外の誰かとも暮らしたいな……って思ってたから」
ユウには住む場所がない。
住む場所の提供は好都合だった。
「分かった。これからよろしく頼む」
「やったぁー! よろしくねぇ!」
結果、二人は共に住むことになった。
「さーて、夕食にしよう!」
「そうだな。腹が減ってきた」
「じゃあ早速夕食を取りに行こっか!」
「どこに?」
「お庭に食べ物を取りによ!」
「なるほど、同行しよう」
二人は夕食を取りに敷地内の庭園に移動。
そこでユウが目にするのは果物を実らせた木々や植物に満ち溢れている庭園の光景。
手入れはされていないが、食べ物には困らなくて良さそうな場所であった。
「んっ?」
そんな光景の中に異質なものを発見。
ユウは目を凝らし、近付く。
「肉?」
近付いて目に映るのは色鮮やかな赤身の肉。殺した動物から取れるはずの肉が花の形をして生えていた。
明らかに目を疑う光景。眉間にしわを寄せながら一度目を閉じ、もう一度植物を見る。
「肉だ」
現実に花の形をした肉が生えていた。
夢でも見間違いでもなかった。
「あ、それは食虫植物の肉花だよ」
「肉花……食えるのか?」
「食える。大体動物のお肉と同じで、生のままはあんまり美味しくない。それとたまに食われた虫が入ってたりする」
「まぁ焼いて調味料を加えれば食えそうだな。取っておこう」
ルーシーの解説を聞き、ユウは肉花を摘む。
実際に肉の部分を触ってみれば、ちゃんと肉の感触も手に伝わってくる。
「やはり肉だな。不思議な植物だ」
「ユウ君、リンゴ食える?」
「食える」
「オッケー!」
肉花以外は聞き馴染みがあり、見たことのある食べ物ばかり。
ユウは安心してルーシーと共に食える物、食べられる分を取っていく。
「これくらいでいいかな。ユウ君、そっちは?」
「これだけあれば充分だ」
「よっしゃ、戻ろう!」
「うむ」
両手に抱えた食べ物。
それなりの量の肉花と野菜、たくさんの果物を持って城の中へ戻った。
「こっちこっち!」
そこからは夕食の時間。
ルーシーに導かれ、食堂へと到着。
食堂はそこまで広くなく、しかしたくさん食べ物を置けるだろう長テーブルと十人は座れるだろう座席があった。
大浴場と同じく一人でいるには寂しい空間である。
「ゴハン! ゴハン!」
魔物たちも夕食に集まって来た。
二人は食堂の長テーブルにここまで両手に抱えてきた食べ物を置く。
「さぁご飯だ!」
「ゴハーン!!」
ルーシーはリンゴを高らかに上げた。
彼女がご飯を告げると、魔物たちは大喜びで大はしゃぎ。待ち切れないと言わんばかりに長テーブルに置かれた果物や野菜を次々取って食べていく。
「台所はあるか?」
「厨房のこと? そっちにあるよ」
「助かる」
ユウは肉花を持って食堂に隣接している厨房に移動。
設備は揃っているが、包丁を始めとした料理器具はなにもない状態であった。
「なにしゅる気なの?」
「肉花を焼いてみる」
リンゴをかじりながらルーシーが後を付いてくる。
そんな背後からの問いに答えながら、ユウは思考型魔法の物質生成でフライパンとまな板、箸を作る。
「ほへぇー、見てていい?」
「いいぞ」
「うぃ」
まな板の上に置かれる肉花。まずは焼く前の下準備。
ルーシーに見守られながら肉花の花としての形を崩し、肉の部分を一つ一つ平たくして虫がいないかを見ていく。
「大丈夫だな」
幸いなことに虫は入っていない。
次は焼く行程。少しの時間を要して、全ての肉が焼ける。
フライパンで焼けた肉花から食欲をそそる香りが立つ。
「美味そう……!」
ルーシーがよだれを垂らす横で、ユウは自身の記憶を頼りに思考型魔法の物質生成で塩を作った。
「ブレイズみたいに上手じゃないが、こんなものだろう」
焼いた肉花に塩を振りかけて味付け。
フライパンから物質生成で作った皿に焼いた肉花を移す。
塩で味付けされたシンプルな焼肉の完成である。
「アタシたちも食べていい!?」
「もちろんだ」
「やったぁー!」
ルーシーが横で見つめる中、ユウはそれなりの量の焼肉を乗せた皿を食堂へと運んでいく。
嗅覚だけで美味しいと分かる香り。
厨房から食堂へと香りが漂い、魔物たちは香りの出元を見る。その目に映るのは慕う存在のルーシーと警戒対象のユウ、そして皿に乗った焼肉だ。
「ウマイ!」
「ニオイ!」
「お待たせ、みんな! これ食べてみよう!」
食堂に戻ってきた二人。長テーブルに置かれる焼肉。
ルーシーと魔物たちは目を輝かせ、次々に取って食べていく。
「にょー、んまい!」
「ニョォォォォォォォォ!」
「ウマイ!」
脳に響き、美味いと脳の深くから訴えかける味。
ルーシーも魔物たちも大喜び。
このまま全て食べられる前にユウも一枚食べた。
「うん、よく出来たな」
充分な美味しさ。美味いと思える味の情報が口から脳に広がる。
次も食べたくなる美味しさ。
ユウがもう一枚頂く頃には最後の一枚。そんな最後の一枚を取って食らい、皿から焼肉が消えた。
焼肉というご馳走で夕食は賑やかになっていく。
もう少し平和な回が続きます




