▽第5話 二人の魔王は魔王城で……
今回はスキンシップ回&お風呂回
そこまでスケベではないです
王城の庭園でお茶会をしてから数時間後。
すっかり日が落ちて、星たちの輝きが夜空に現れる時間帯。
「みんな、ただいまー!」
「マオウサマ、オカエリ!」
「オカエリ! オカエリ!」
ユウとルーシーは堂々と村を通って魔王城に帰還。
ぞろぞろと可愛くて無害な魔物たちが出迎えに来て、ルーシーの下へ集まる。
ぷにぷに! ぷるぷるるん♪ ぷにょんぷにょん♡
飛んで跳ねて、魔物たちはルーシーを囲んで帰還を喜ぶ。
「賑やかだな」
ルーシーと魔物たちの賑やかな姿。
しかしユウを見た魔物は怖がって警戒している。
「ユウ君もこっちにおいで!」
「俺はその子たちを怖がらせている。初対面があれだったからな」
「なーに言ってんのぉ! 接しなかったら怖がったままだよ?」
「それはそうだが……」
魔物たちを怖がらせていることを恐れ、外野の人間として距離を置いたところから傍観する。そんなユウをルーシーが強く引っ張ってくれる。
「ほーら、おいで!」
ルーシーが差し伸べてくる手。
ユウは自分の中にある恐れをしまい込んで前に踏み出し、ルーシーの手を取るように輪の中に入った。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
魔物たちは手を繋いだユウとルーシーをじっと見つめる。その様子はまだ警戒中。
「アタシたちがこうやれば、みんなも段々慣れてくるから」
そう言ってルーシーはユウに抱き付いた。
突然の抱き付きにユウの反応は薄いながらも困惑。魔物とではなく、ルーシーと触れ合うとは思っていなかった。
「これで慣れてくれるのか?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
ユウに抱き付いて、うっとりしたルーシーの返事は単純。
「ユウ君、抱きしめて」
「え?」
「抱きしめて」
「了解」
困惑しながらも、ユウはルーシーを抱きしめた。
抱き合う二人。
周りの魔物たちは呆然と抱き合う二人の様子を見つめる。
「ユウ君、今日はありがとね。アタシを守ってくれたし、みんなに魔王がもう危険じゃないことも伝えてくれた。本当にありがとう」
ユウの頬にルーシーの唇が触れる。
それは感謝のキス。同時に異性へのキス。
「俺は自己の判断でやりたいことをやったに過ぎない」
「えぇ……もっと反応あっても良くなーい?」
しかしルーシーのキスに、ユウは全く動じない。
それどころか頭に「?」を生やすレベルであった。
「ユウ君って、クール系?」
「俺の体温は涼しくない」
「そっちのクールじゃないんだよねぇ」
ユウはよく分からずに首を傾げる。
「てか、ひょっとして鈍感系も入ってる?」
「よく分からないが、ブレイズには〝鈍感〟だと何回も言われた覚えがある」
「ブレイズ?」
ユウの口から出た名前。ルーシーは知らない名前。
「軍学校で四年間、共に生活した俺の友達だ。下半身麻痺で車イスに乗っている」
「ふぅーん、そんな長い付き合いの友達からのお墨付きアリかぁ」
友人の話を聞いたルーシーは一旦離れて、顎に手をやる。そして考える。
すると十秒程度の思考の後、ルーシーの両手がユウの頬に触れた。
「もにゅもにゅー!」
「ほれはひったいにゃんだ」
ルーシーはユウの頬を揉んだ。ただ揉むだけじゃない。愛犬をメチャクチャに撫で回すようにユウの頬を揉みまくった。
もちろんユウはまともに言葉を話せなくなる。
「わぁ、意外とユウ君のほっぺもっちもち!」
「るーひぃー?」
「もう少し揉ませて」
「ひょうかい……」
無防備にあうあう声を出すユウ。気が済むまで頬を揉みまくるルーシー。
その内にユウの頬からルーシーの手が離れる。
「えへ、気分はどう?」
「たくさん揉まれてしまった、という気分だ」
異性の手に触られても、どれだけメチャクチャに揉まれても、ユウは恥ずかしがることも怒ることもしない。表情すらピクリとも変わらなかった。
「これはかなりの筋金入りじゃん?」
びっくりするほどユウは鈍感で人間的感情が薄い。まるで戦うためにいるだけの機械であった。
これにはルーシーのみならず、周りで見ていた魔物たちすらも呆れた表情をした。
「うぅーん……よし」
ユウがあまりに鈍感なのに対して再び考え込んだルーシーはピンッと、なにか思い付いた様子を見せた。
「どうした?」
「一緒にお風呂入ろう」
「男女分けせずに?」
「うん! ユウ君と一緒に、ね?」
お風呂となれば肌を触れ合うことになる。
鈍感で朴念仁みたいなユウでも反応するかもしれない。ついでにムフフな展開があって良い感じに恋人関係になってくれるかもしれない。
そう考えたルーシーはお風呂タイムにすることにした。
まさに色恋の欲望丸出し。ユウと魔物たちの関係改善そっちのけになり、恋愛感情が歯止めなく暴走していく。
「さ、こっち! みんなもおいでぇ!」
そこから先は大浴場。
魔王城の広さに見合って大浴場はだだっ広く、二人だけなら寂しい広さをそこかしこにいる魔物たちの賑わいが埋めている。
「ユウくぅーん?」
そんな大浴場にルーシーが裸体で来た。タオルで隠すことなく、漂う湯けむりの中で持ち前のスタイルの良さを晒している。
「ここだ」
「ひゃっ!?」
ユウも同じく裸体。ルーシーの背後から声を掛けて大浴場に来た。
振り返ったルーシーがユウの裸体を見れば、次に出す言葉は「うぉ!」の一言。
彼女の目の前には度重なる訓練で鍛えられた軍人の体──戦うことに特化した筋肉質な男の体があった。
「うぉぉぉ~~……」
思わず見惚れてしまう見事に鍛えられた体。
そのままルーシーの視線が下に行けば「うぉ!?」と、また声を上げた。
「魚?」
「いや、ち〇ぽこときん〇ま!」
「なるほど」
男の股の間にぶら下がる物体。ルーシーはそこに指を差し、ユウは理解する。
「そこがどうした?」
「お父さんのと同じ! そんでデカい!」
「オナジ!」
「オヤジ!」
「デカーイ!」
「〇ン〇ン!」
ルーシーの反応に釣られて、魔物たちも反応。
その場の視線が全てユウの下半身に集まる。
「男だからな。男性器はほとんどの男性に標準で付いている」
「へぇー」
そうして新たな知識がルーシーの頭に根付く。
しかしこんな勉強じみた展開を彼女は求めていない。もっと情熱的で、二人の激情が官能的に絡み合うものを求めていた。
「ねぇ、ユウ君」
「なんだ?」
「アタシの体、洗ってくれるぅ?」
だからルーシーは媚びた声で、自らの望む展開になるように仕掛ける。
「ルーシーは健常者だろう。手足の機能は正常なのに、俺の手が必要か?」
「いやぁ……必要っていうか、お願いというか、そのぉ……」
仕掛けたが、ユウから正論をぶつけられた。
じゃあ、どうするか?
ルーシーは「とにかくユウ君に洗ってほしいの!」と欲望を正直に告げた。
「所望としているということか。分かった」
「え、オッケーって感じ?」
「あぁ、やろう」
ルーシーの欲望。求められていることを理解したユウはあっさり了承した。
彼女の望んでいる展開が今ここで来た。
「やったぁ! あ、これ石鹸ね!」
石鹸を渡したルーシーは湯船に入り行く。
つまりお湯で満たされた湯船の中で、彼女の体を洗うということ。
ユウには馴染みのない洗い方だった。
「やってみせよう」
それでも渡された石鹸を片手に、ユウは彼女が待つ湯船へと入る。
「やるぞ、ルーシー」
「いつでもいいよ」
湯船のお湯で石鹸を濡らす。泡立てて、ヌルヌルになる両手。
ユウの両手がルーシーの体に触れる。
「あん♡」
「大丈夫か?」
「大丈夫♡ゾクッ♡って、気分ノッてきただけだから」
「?」
「いいから、続けて♡」
「了解」
そのままルーシーの体に石鹸の付いた手を滑らせる。
「ねぇ、ユウ君」
「なんだ?」
「アタシ、犬じゃないんよねぇ」
「知っている」
彼女は喜ばない。
まさに飼い主に洗われるペットの如く、ルーシーの全身はあっという間にもこもこの泡まみれになっていた。
「うーんとさぁ、もうちょっとこう、あるじゃん? 男女の大人な雰囲気で、ゆったりした二人だけの特別な時間的な」
「分からない。俺のところでは数分で済ませていたから」
「は? 入浴をたったの数分?」
「あぁ、数分だ」
あまりにも短い入浴時間。
ルーシーには異常に見えても、ユウの感覚ではこの短さが普通だった。
「だから数分で終わらせる」
「わわっ!」
ユウは宣言通りに数分の間でルーシーの体を洗い、あっという間に終わる。
「は、速かった……クソォォォォ!」
「?」
あまりに早く終わってしまった。
もこもこの泡から解放されたルーシーは湯船に浸かり、その後ろでユウは自分の体を高速で洗う。
そうやってお風呂タイムは過ぎていった。




