▽第4話 王城での茶会
人類と魔王の対立的な関係。その関係を平和的に解消した。
そして今は庭園の中、二人の勇者とルゼン王は三段式のケーキスタンドと紅茶を乗せたテーブルを囲んでいた。
「どうぞ、気にせず好きな物を食べたまえ」
「やったぁ! 早速頂きます!」
早速ルーシーはケーキスタンドの一番上のいちごタルトを手にして、マナーを気にすることもなく無邪気に食べていく。
それに対してユウは湯気の立つ紅茶の水面を一瞬だけ覗き、すぐにルゼン王の顔へ視線を送った。
「毒は入っておらんよ。その代わりにミルクと砂糖が入っている」
「助かります。実は甘い方が好きなので」
「なるほど。味を気にしていたか」
出された好意は頂く。その気持ちはあっても、ユウの舌はまだ子供だった。
ルゼン王はそんなユウの若さに微笑む。
「そういえば名前を聞いていなかったな、勇者殿」
「俺は──」
「あ、王様! ユウ君はイサム・ユウって言うんですよ!」
ユウが言う前にルーシーがユウの名を告げる。
ルゼン王は「ほう」とユウの名前を珍しく思った。
彼の日本人の名前は、この異世界ではやはり珍しいものであった。
「勇者イサム・ユウ、呼び方の好みはあるかね?」
「なんと呼んでもらっても構いません」
「では勇者イサムと呼ばせてもらおうか」
「はい」
会話の一区切りにルゼン王は紅茶を一口飲む。
ユウも紅茶を飲む。
そよ風で冷まされた飲みやすい熱量。冷めすぎず、温かさを残した紅茶が喉を通る。
口の中に広がる、程よく甘く上品な味わい。
ゴクリゴクリと一気に飲み干す。
「味はどうかね、勇者イサム?」
「あまり紅茶は飲んだことないですが、良い味です」
「だろう? 茶葉は国内で栽培したものを使用している。自慢の味わいだよ」
自慢であることを告げ、ルゼン王はカップ内の紅茶を飲み干した。
「ホントだ! 美味い!」
ルーシーのなにも考えていない直感的な感想。そのカップ内の紅茶は一気に飲み干されていた。
「良い飲みっぷりであるな」
「えへへー」
「おかわりもあるぞ」
ルゼン王はメイドたちに合図を送り、全員のカップに紅茶のおかわりを入れていく。
「ロミ大臣については、君たちに悪いことをしたな。しかし分かってやってくれ。初代魔王が仕掛けてきた戦争は残虐と非道を極め、凄惨なものだったんだ」
紅茶が飲めない間に、ルゼン王は次の話に切り替える。
「初代魔王という存在は当時を知る全員のトラウマ、そして今の世代には恐怖の対象として伝わっている。ロミ大臣が魔王という存在に過剰に反応するのも、そういうことだ」
「だからあそまでルーシーを敵視して……」
その口から出る話は初代魔王との戦争、初代魔王を恐れる理由。
「彼はこの国を想ってくれている。さっきは君たちに危害を加えようとしたが、悪い人間ではない。まぁ国防にもっと力を入れた方が良いと常日頃うるさいがね」
付け加えるようにルゼン王は愚痴を言い放って笑う。
その様子から、王と大臣の間に深刻な対立関係はなかった。
つまり今のところは内戦の危険がない。
平和を望むユウにとってはありがたいことであった。
「さて、暗い話はここまでだ」
そう言うと、ルゼン王はケーキスタンドの一番下の段からサンドイッチを取って口に運んだ。
「次は勇者イサム、君の話を聞かせてくれ。まだ詳しく聞いていなかったからな」
「はい」
そこから先はユウの話。
もちろんルゼン王の質問に対しても情報を取捨選択。
出身、軍人であること、ルーシーに話したことと同じことを話す。
しかし情報を隠してもルゼン王の方から追及してくる。
「詠唱なしで放った君の魔法、あれはどういう原理なのだ?」
そんなシンプルな質問がユウに更なる情報開示を強いる。
質問に答えた時の影響、出し渋った時に与える不信感、どれが最もリスクの高いことか。
「……思考するんです」
「思考?」
「はい」
ユウは考えた末に不信感を与えてしまうよりも質問に答えることにした。
「脳内にこれから起こす現象を想像し、体内のマナを消費して現実化する。そういう魔法です」
「なにそれ、ユウ君! それって思ったこと全部魔法として垂れ流せるやつじゃん!」
「しかし勇者イサム、マナとはなんだ?」
ルーシーが驚いている横でルゼン王から更に質問が来る。
それが意味するところは、この世界にはマナがないということ。
「マナは体内生成される生体物質で、魔法を使うための源です」
「ほう、我々の〝魔力〟のようなものか」
マナの代わりに、この世界には魔力というものが存在する。
「そっちの魔力というのは?」
「アタシたちの体に宿る魔法を使うための力って感じ?」
「魔力は誰の心臓にも宿る。魔法使いたちの言葉を借りるなら、生命エネルギーというものらしい」
ルーシーとルゼン王が魔力を説明。
その性質はマナと似て非なるもの。
魔力はこの世界の誰しもが持つもの。心臓に宿る生命エネルギー。
「生命エネルギー……」
それに対してマナは適合者となった者のみが持つもの。体内で生成される生体物質であり、体液や血液にも含まれる。
「しかしマナねぇ……アタシたちもマナの適合者になれたりする?」
「適合に特別な力はいらない。肉体と魂のマナの適合率、マナに適合した肉体と魂の組み合わせ次第で誰でも適合者になれる可能性はある」
質問したルーシーでさえもマナの適合者となれる可能性を持つ。
「ふむ、適合者となれば君と同じ魔法が使えるのかな?」
「はい。しかし訓練は必要になります」
そしてマナの適合者となれば、訓練を積む必要があれど詠唱なしの思考型魔法も使えるようになる。
「訓練だけでか……革命的だな。この話をロミ大臣や魔法使いに聞かせたら、即座にマナの享受を求められるだろう」
「同時に戦争の要因になります」
「うむ。君もよく分かっている」
ルーシーが頭に「?」を浮かべる一方で、ユウとルゼン王は懸念を抱いた。
マナと思考型魔法が導入された場合、新しい戦術、新しい戦略が可能になる。
そうなればマナの適合者を強力な武力にしてしまい、他国への侵略や内戦のハードルを下げてしまうのは目に見えていた。
「我々にマナは過ぎた力だ。この話は秘匿させてもらう」
「了解しました」
「勇者ルーシーも他言無用で頼みたい」
「はーい」
ルーシーがパクパクと食べている横で、マナの情報は秘匿されることになった。
そうしてお茶会は日が沈む前まで続く。
んー、自作のタイトルにセンスがない気がする……みんなはどう思う?




