表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の異世界戦記~その最強の実力は願った平和を求めるために~  作者: D-delta


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

▽第3話 勇者たちの帰還、魔王たちの理由

 帰還に一日と掛からず、王都ルクセフォンに到着。

 ユウたち一行は王都を取り囲む巨大な城壁の前に来る。


「おっ? 勇者様を連れた騎士団じゃねぇか!」

「門を開けろ、勇者の帰還だ!」


 衛兵が告げる。

 勇者がなにも言わずとも、城壁の門が開いた。

 門の先には何万人もの人で賑わう王都が見える。その王都の中心部にある一際大きい建物が王城である。


「行くぞ」

「待って、まだ心の準備が……」


 いよいよ王都、そして王城という時、ルーシーは緊張していた。


「怖いか?」

「だって今のアタシは……」

「怖いのなら俺だけを見ろ。俺が必ず守ってやる」

「う、うん」


 ユウは強い意志で手を差し伸べ、ルーシーはその手を取って心音を高鳴らせる。

 そうやって二人は手を繋いで馬車を降りた。


「だけどユウ君を巻き込んじゃうよ?」

「保身と敵意から来る狂気か、敵意の対象にされながらも平和を望む人物なら、俺は後者を選ぶ」

「みんなよりアタシを選ぶってこと?」

「あぁ、ルーシーの方がいい」

「そ、そう……」


 ルーシーの顔はたちまち赤くなる。

 恥ずかし気もなく告げる、ユウの言葉は彼女の緊張を別の感情に上書きしていく。


「行くぞ」

「分かった……!」


 二人は手を繋いだまま門へ行く。


「あれ、行方不明のルーシー殿だ!」

「まさかルーシー殿!?」

「ルーシー様、よくご無事で!」


 衛兵たちがユウと手を繋ぐルーシーを見るや、帰還を喜んだ。

 一人の歓喜から続々と衛兵たちが集まってくる。


「アハハ……戻ってきましたぁ~」


 行方不明だった勇者の帰還。

 事情を知らない衛兵たちは歓喜するが、現在魔王であるルーシーは気まずかった。


「さすがは勇者様です! 行方不明だったルーシー様を連れて帰ってくるなんて!」

「別に大したことはしていない。それよりも王城に用がある、通してくれ」

「あ、了解です! みんな下がれ、勇者様とルーシー様をお通ししろ!」


 衛兵たちに道を開けさせ、ユウはルーシーと共に衛兵たちの歓喜の中を進む。

 門の先、二人は都市へと入る。


「勇者様だ!」

「勇者様ぁ!」


 衛兵たちに続いて今度は市民たちの歓迎の声。

 大人から子供まで声を上げて、ユウの帰還を喜び──


「あの人、ルーシー様じゃない?」

「ホントだ! ルーシー様、生きてたんだ!」

「ちょっと、勇者様と手を繋いでいるわよ!」

「あら~」


 そんなユウの帰還以上に、市民はルーシーの帰還を喜んだ。

 二人の勇者の帰還で進む先はお祭り騒ぎ。

 ユウとルーシーは賑やかな中を進んで、王城に向かう。


  ※


 王城。謁見の間。

 ルセーレ王国の王──玉座に座る老齢のルゼン王は目を見開く。


「おぉ……! 勇者ルーシー、よくぞ帰還した!」


 行方不明だった前任の勇者、ルーシーの帰還。

 ルゼン王も大いに喜ぶ。


「ルゼン王、お話があります」

「よろしい! 述べてみよ!」


 上機嫌なルゼン王。

 しかしユウから話を聞くと、ルゼン王の表情は不安に変わった。


「勇者が魔王にだと……?」


 勇者のルーシーが、今は魔王になっていること。

 魔王も魔物も既に無害であること。

 魔王及び魔物の討伐依頼の破棄。

 ユウはその全てを話した。


「裏切ったのか、勇者ルーシー!」


 しかし理解を得られる前に不信が勝った。

 ルゼン王の横にいる、老齢の太った男──ロミ大臣が怒声を上げる。


「ち、違うの! これは魔物を大人しくさせるために魔王を継承しただけで!」

「危険だ、こんなところに魔王などと!」


 ルーシーがどれだけ言ってもロミ大臣に聞く耳はない。

 ロミ大臣の「近衛兵!」という一声で、即座に近衛兵たちはルーシーとユウを囲んだ。


「待て、ロミ大臣」

「聞く耳は持ちませぬ! 潜在的脅威である魔王は即刻処理すべきです!」


 二人に向けられる剣の切っ先。


「待って! 聞いてよ!」


 ルーシーがなにを言っても近衛兵たちが下がることはない。

 魔王は危険視されている。

 それが無害だろうと、彼らの目に映る魔王は敵。殺すのが最優先だった。


「ルゼン王、兵の剣を下ろさせてください。矛先を向けるのは彼女の言葉を聞いてからでも遅くないです」

「勇者殿……! 魔王に味方するのなら、勇者とて殺害対象だぞ?」


 ルゼン王が「ロミ大臣」と制しても聞く耳はなく、敵意を抑えない。

 相手はルーシーの殺害を確定した。

 ユウはルーシーの前に出て、守るという意思表示をする。


「そうか、勇者殿。ならば仕方ない」

「ロミ大臣!」


 もはや一戦交えるところまで来た。


「やれ、近衛兵! その二人を排除しろ!」


 振り上げられた剣の刃。向けられた切っ先。

 二人を殺そうと近衛兵が迫ってくる。


「やらせはしない」


 近衛兵に対しての迎撃。

 魔法のオーラを纏い、思考型の風魔法を選択。

 ユウとルーシーを中心に突風を引き起こして近衛兵たちを吹き飛ばした。


「なんと!」

「無詠唱で魔法だと!?」


 詠唱の過程がない思考型魔法。

 この場の全員が驚く。


「ユウ君、今の魔法……!」

「俺の世界の魔法だ。もちろん今の風だけが全てじゃない。この王都も、この国も、全て容易に焼くことが出来る」


 状況に流されて無詠唱の転移を認識出来なかったルーシーでさえも、今度はハッキリ無詠唱の魔法を認識して驚いた。


「容易になど、そんなこと不可能だ!」

「実際にやってみせても構いません、ロミ大臣。このまま交戦を維持するなら、ですが」


 全員のリアクションから察すれば、この世界では詠唱する魔法が一般的。

 ユウはそのことを理解して思考型の炎魔法を使用。あたかも未知の脅威と知らしめるように火の粉を部屋全体に散らし、自らの魔法を脅しに使った。


「しかし魔王は!」

「ロミ大臣、あなたの一存だけで国が滅んでしまっても良いのですか?」

「くっ……!」


 これでユウは未知の脅威と化した。相手は脅しに対して下手な手出しが出来なくなる。


「ロミ大臣、もういい」

「目の前に魔王がいるんですぞ、ルゼン王! 我々を苦しめた魔王という存在が……我々の若かりし頃を覚えているのであれば分かりますでしょう!」

「初代魔王は既に死んだのだ。次の魔王が必ずしも敵ということはなかろう」

「……分かりました」


 ユウの脅しとルゼン王の説得。国の存亡と王への背信。

 ロミ大臣は自らの一存で逆らわず、ルーシーの殺害をやめることにした。


「近衛兵は下がりたまえ」

「ありがとうございます、ルゼン王」

「さて、二人の勇者よ。話の続きをしよう」

「はい」


 戦いから話し合いに転じる。

 そこからルーシーは「実は……」と魔王である事情を話し始めた。


 平和を求めた二代目魔王──初代魔王の娘が後継ぎを探していたこと。

 二代目魔王が平和を望んでいることを知ったルーシーが魔王を継承したこと。

 魔王を継いだことで魔物の制御が可能となり、魔物の凶暴さを徹底的になくしたこと。


 ルーシーは全てを話す。


「そういうことだったのか、勇者ルーシー」


 そして理解を得られた。

 これで魔王と魔物に脅威はないものとして、ルゼン王は討伐依頼を破棄。

 魔王のルーシーとルセーレ王国が対立することなく、平和的な解決となった。


「では、これで本当に脅威はなくなったという訳か」


 平和への確信。ルゼン王は再び機嫌を良くする。


「我々は長らく魔王と魔物に恐怖してきた。しかしその恐怖は今日で消えた。平和だ。これからは平和に共存していこう、諸君」


 ルゼン王の言葉にて、その場は締めくくられる。

 これで用は済んだ。脅威もなくなった。


「さて二人の勇者よ、この後にお茶でもどうかね?」

「はーい! 行きまーす!」

「お誘い感謝します。俺もお受けします」


 ルゼン王の誘い。

 ユウとルーシーは誘いに乗り、平和の一歩へ踏み出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ