▽第23話 元勇者
時間は巻き戻る。
ユウとルーシーがトレイルとマカルタを連れて王城へ戻る頃。
第一城壁都市ルキセディアにて。
「あれ、ここは?」
「ここはルキセディアに駐在する魔法教団の施設だ」
ポクニ公爵の転移魔法で王城からルキセディアに転移。二人はダブレメラズ魔法教団の施設内に設置された転移陣の上にいた。
「到着したんですね。ありがとうございます、ポクニ様!」
「うむ。礼は受け取るよ」
「じゃあ僕の家に来ませんか? 家に現状を報告するついでに、お礼しますよ!」
「いや、やはり礼は気持ちだけ受け取っておこう」
リシタ伯爵からお礼を受け取る気満々のポクニ公爵であったが、リシタ伯爵の家──アルセイダ家からのお礼となると拒否感が働いた。
その理由はアルセイダ家の悪癖にある。
「気持ちだけなんてそんな、ポクニ様なら家族みんなが喜んでお礼をしますよ」
「むうぅ……礼は食い物か魔法書にしてほしいのだが?」
「そんなもったいない。僕を可愛くしてくれたように、僕の家族がポクニ様も可愛くしてくれますよ!」
「ええい! 女系の貴族め、ワシを着せ替え人形にするつもりだな!」
「くふふ、バレちゃいましたね」
アルセイダ家の悪癖とは、他人を着せ替え人形にすることである。
お礼という口実で着せ替え人形にしようとしたのがバレて、リシタ伯爵はニヤァと悪い顔を表に出す。
「全く……まぁ、魔法教団の当主として少しはアルセイダ家に顔を出すか」
「ホントですか!」
「い、言っておくが、なにも着ないからな?」
「はい! 分かってます!」
リシタ伯爵の満面の笑み。
ポクニ公爵は「本当かぁ?」と半信半疑でいる。
「じゃあ一緒に行きましょっ!」
「……あぁ」
乗り気なリシタ伯爵と乗り気でないポクニ公爵は移動。すれ違う度に頭を下げる教団の魔法使いたちの間を抜けて、ダブレメラズ魔法教団の施設を出る。
外にあるのは街の光景。国外から人が来るのもあって街は忙しさを見せている。
そして城壁に目を向ければ、一つの長大な城壁がどこまでも続いていた。
「いつ見ても壮大だな」
ポクニ公爵は言葉を漏らす。
この長大な城壁が第一防衛線。ルセーレ王国を守る壁であり、この城壁に沿って防衛拠点としても機能する城壁都市が点在する。
「魔王軍の熾烈な侵攻がありましたからね。ポクニ様なら知っているでしょう?」
「あぁ……この地で魔物の大群と激戦を繰り広げたのは今でも覚えている。戦後に作られた、この長い城壁が大袈裟でないこともよく分かっている」
昔の記憶。ポクニ公爵はそれとなく思い出す。
十万差のある絶望的な物量差の戦い。質で勝る精鋭の勇者隊と量で勝る魔王軍が繰り広げた激戦。
その戦いの経験から、この長大な城壁が作られた。
「まぁ昔話は昔話だ。今は君の家──アルセイダ城塞に向かおう」
「はい!」
そしてこの長大な城壁を管理するのは代々当主が女性で、家系の七割が女性である女系貴族のアルセイダ家。
二人はルキセディア内にある城塞──アルセイダ家の城塞へ向かう。
※
「おかえりなさいませ、リシタ様」
「ポクニ公爵様、ようこそいらっしゃいました」
二人はアルセイダ城塞へ到着。ミニスカートのメイドたちが出迎える。が、実際はミニスカートのメイドの格好をした衛兵である。その証明として剣と盾で武装している。
そんなメイド姿の衛兵たちに「いつもお出迎えありがとう!」とリシタ伯爵は目一杯の笑顔で労った。
「かわいい」
その一言をメイド姿の衛兵たちが次々に口から漏らす。中には男の声もあり、女装した男も混ざっていた。
「悪癖だなぁ……」
ポクニ公爵は呟く。
城塞の城門からしてアルセイダ家の趣味と悪癖が全開であった。
見ていれば性癖がねじれる気がして、ポクニ公爵は視線を長大な城壁へ移す。
「……?」
すると視界の中に違和感が現れる。
それまで城壁の上空にはなにもなかった。だけれど、今はなにかがいる。なにかが城壁の上空を飛んでいる。
「まさか……」
そこから連想するのはスウォーム・ワイバーン。
つまり敵が攻めて来ているのではないか?
疑問を抱けば、すぐ答えが来る。
「ポクニ様! ポクニ様ーっ!」
ポクニ公爵の名を呼ぶのは魔法教団の魔法使い。息を切らして表情をこわばらせながら全力で走ってきている。
ポクニ公爵を始めとして、その場の全員が走ってくる魔法使いに気付く。
「あれ、教団の方?」
「ポクニ公爵様、あの方も客人で?」
そしてポクニ公爵はこの時点で察した。敵が来たのだと。
「敵か?」
「そうです! 竜が、竜がここに来ています!」
確認すると察した通りの結果だった。
敵、スウォーム・ワイバーンがこのルキセディアに来ていた。
敵が来たとなってリシタ伯爵とメイド姿の衛兵たちにも緊張が走る。
「敵ですって!?」
「リシタ様は城の中へ!」
「ポクニ公爵様も教団の方を連れて中へ!」
メイド姿の衛兵たちが避難を促す。
リシタ伯爵はメイド姿の衛兵たちに言われるままに城塞へ避難しようとするが、ポクニ公爵は長大な城壁に視線を向けたままで避難しない。
「ポクニ様、あなたも僕たちの城へ!」
「ワシは迎撃に行く。リシタ伯爵は城へ避難していなさい」
「そんな……死んだら終わりなんですよ!?」
「行かねば、元勇者の名折れだ」
ポクニ公爵は、元勇者のポクニは迎撃に行く決断をリシタ伯爵に言い渡す。
アルセイダ城塞とリシタ伯爵たちに背を向けたまま、教団の魔法使いと共に迎撃に踏み出していく。
「待って!」
リシタ伯爵の呼び止めに、ポクニ公爵と教団の魔法使いは足を止めて振り向く。
「僕も行きます!」
なにを言うかと思えば、リシタ伯爵は同行を告げた。
これにポクニ公爵は「危険だぞ」と警告で返事する。
「僕はアルセイダ家の人間です! 助力は無理かもしれないですが、戦いは見届けさせてください!」
「分かった。ただし安全な場所にいるように」
「はい!」
そうやってリシタ伯爵は城壁への同行を決めた。
「リシタ様、危険です! 本当に行かれるのですか?」
「僕は行く。ここで別れて、ポクニ様と会うのが最後だったら嫌だから」
自分の目の届かないところで死んでほしくない。助けられるなら助けたい。
そういう優しさでリシタ伯爵はポクニ公爵と共に行く。




