▽第22話 味方の内に潜む政争
本当に久しぶりの更新…なんやかんや今月は忙しかった
「私が管理する王家直属兵団からも百人ほど出そう」
「では、不足分は我々ビス家の兵団から出す形にしましょう」
「ビス家の兵力は全部でざっと十万もありますもの。お任せくださいですわ」
ジェズ侯爵の王都騎士団に続いて、ロミ大臣が管理する兵団──王城に配置された数千人規模の王家直属兵団からも戦力供与が決まった。
残りはマレイア辺境伯が率いる大規模兵団から戦力を調達することになる。
「そういえばルーシー殿は魔王なのだろう? 魔物は使えないのか?」
「いやぁ、実は継承した魔王の力で魔物たち全員無害にしちゃってさ……戦いには向いてないんだよね」
「なるほど。だから最近は魔物の活動が活発じゃなかったのか」
トレイルとルーシーの問答。
それぞれが持つ戦力の確認、攻勢に出す戦力を決める戦略会議は続く。
そんな中、ジェズ侯爵はユウの肩に手を重たく置いた。
「イサム殿、少し良いか?」
「なんですか?」
「君が戦場へ出る前に個人的な話をしておきたい」
「……分かりました」
ユウに向けられた、ジェズ侯爵の個人的な用件。
用件を持ち掛けてきたジェズ侯爵の声色に紳士らしさはない。まるで意味ありげな様子。
「ロミ大臣、イサム殿に個人的な話があります。イサム殿と共に席を外しても?」
「構わんが……変なことは考えるなよ」
「もちろん分かっています」
言うことを言って、ジェズ侯爵はユウと共に戦略会議室の外へ出る。
戦略会議室の扉は閉まる。
ジェズ侯爵とユウ以外の人間を戦略会議室の中へ置いていき、二人は使用人や衛兵とすれ違いながら廊下をしばらく歩く。
「ここでいいだろう」
戦略会議室から聞き耳を立てられても聞こえない距離。二人以外の誰もいない廊下。
そこでジェズ侯爵は兜を外し、隠された顔を表に晒す。
その素顔は恐ろしく美形。それでいて壮年ならではの色気がある顔立ちで、髪の色はマカルタと同じ金髪だった。
「ジェズ侯爵、話とは?」
「マレイア辺境伯のことだ。君に対して彼女がなにを言ったか知りたい」
互いに互いの整った顔を見合い、二人は話し始める。
「個人的用件とは、それですか」
「嫉妬とか下らないことではない。あの女傑の危険性を今一度知りたいだけだ」
「危険性……」
「君ほどの英傑だ。マレイア辺境伯に甘い声色で誘惑されなかったか?」
ユウはマレイア辺境伯の言動を思い出す。
女の部分を丸出しにしていた性的誘惑。ビス家の一員になる新しい関係への誘い。政治的な話を一度挟んで、ユウの子供を作りたいことを言っていた。
「俺にはよく分かりませんが、家族になってほしいとか子供が欲しいとか色々言っていました」
「やはりか」
「??」
ユウの言ったことにジェズ侯爵は心当たりがある様子。
なぜ心当たりがあるのか、ジェズ侯爵は「実は……」と答え始める。
「マレイア辺境伯の誘惑は私もされたことがあるんだ」
「ジェズ侯爵も?」
「私だけじゃない。ルゼン王にも誘惑を働いていた。先に彼女の怖さを知っていた私が追い返したがな」
ジェズ侯爵にも、ルゼン王にも、マレイア辺境伯は性的誘惑をしていた。
それはつまり他の貴族や王家に取り入ろうとしていたということ。ユウと会う以前からルセーレ王国の次期政権を狙っていた事実が見えてくる。
「あのスケベな格好も相まって、彼女が単なる色欲狂いかと思うだろう? それは違う。彼女は怖い女だよ」
「マレイア辺境伯が権力の拡大と次期政権を狙っているからですか?」
「君も聞いているのだな、彼女がルゼン王亡き後に政権を握る話を……」
「はい」
そしてジェズ侯爵もまたユウと同じ話を聞いていた。
「国のため、国民のために政権を握るとは聞いています」
「彼女の言葉に噓はない。ただし彼女は手段を選ばない」
「それはどういう意味で?」
「国のため、国民のために誰彼構わず犠牲に出来る女ということだ」
ジェズ侯爵はマレイア辺境伯のことをよく知っている。
だからこそ続けて言う。
「彼女……マレイア辺境伯は危険だ。君も道具にされるぞ?」
そしてユウへの忠告。
まるで道具にされた経験があると言わんばかりの口振りで、ジェズ侯爵は告げた。
ここまで聞くと気になる。なぜマレイア辺境伯を危険視するのか、マレイア辺境伯の背景になにがあるのか。
「なにがあったか具体的なことを聞いても?」
「……いいだろう。我々の背景を聞いてもらった方が忠告として機能しそうだ」
ジェズ侯爵の表情が変わる。真剣な面持ちで、更に忠告を与えんと目つきが鋭くなる。
「まず彼女は元々ビス家の人間ではない。元は平民、傭兵を兼業にした冒険者だ」
そしてジェズ侯爵の口から明かされる、マレイア辺境伯の素性。
「元々ビス家は尊大な振る舞いで村々を支配し、村民を奴隷のように扱う貴族だった。だからルゼン王とは意見が合わず、いつしか反乱を企てるようになってな……我々は彼女を雇い、ビス家に嫁入りさせて乗っ取らせたのだ」
続いて、マレイア辺境伯の背景が明かされていく。
「だが、我々が思うよりも彼女のやり方は徹底的だった。反乱を主導したビス家当主の排除のみならず家族、血縁者、ビス家の下で働く人間、ビス家当主を肯定する者全てを皆殺しにした」
そうやってマレイアはビス家の乗っ取りを完遂した。
家族がマレイア、トレイル、マカルタの三人しかいないのは元々のビス家の人間を皆殺しにしたから。村人たちから信頼されているのはビス家の支配から解放したから。
背景が明かされると理由も見えてくる。
「まさしく根切り。この所業に貴族たちはマレイアを、私の元婚約者を恐れた」
「婚約者?」
「私は彼女の所業を知って尚、あの色気に魅了されて婚約をした。子供まで作ってな」
「子供、まさか……」
「トレイルとマカルタだ」
トレイルとマカルタはマレイア辺境伯とジェズ侯爵の子供。マカルタとジェズ侯爵の髪色が同じなのは親子だからという背景が浮き上がる。
「私は幸せだった。だけど、マレイアが私の家──セグメンタ家の当主になりたいと言った瞬間から幸せは恐怖に変わった。ビス家のように皆殺しの上で乗っ取られる……とな」
次に語るのはジェズ侯爵が抱く恐怖とマレイア辺境伯に抱く危険性。
「結局、私はセグメンタ家に近付くための道具にされていた。だから婚約は破棄、まだ赤子だったトレイルとマカルタは私が父親と知らずにビス家の人間になった」
ジェズ侯爵は話を続ける。
「怖くて逃げた、腰抜けの男と笑って構わん。ただ私だけの破滅ならともかく、私に人生を与えてくれた家族まで破滅させる訳にいかんのだ」
口角を上げてジェズ侯爵は自らを笑い、口角を下げた真剣な表情で家族を大事に想う。
それをユウは笑わない。
神人類宇宙統一連盟軍に所属していた頃、家族を粛清の対象にさせないために軍の命令に従い続けた経験から、ジェズ侯爵の気持ちは理解出来た。
「少し余計なことも話してしまったが、これで私の忠告の意味が分かるだろう」
「はい、大体は……」
「よろしい。君は彼女の色気にやられないだろうが、私の娘でもあるトレイルとマカルタを使うこともあり得る」
「気を付けます」
「トレイルとマカルタは君を気に入っている。そういった人の感情もマレイアは利用しようとすることを頭に入れておいてくれ」
「はい」
ジェズ侯爵からの一連の忠告とアドバイス。
「……話が長くなったな、そろそろ──」
「ユウ君! ジェズさん!」
ルーシーの大声が響く。ジェズ侯爵の続く言葉を遮り、ルーシーが急ぎで走り寄ってくる。
かなり急を要する様子だ。
「魔法教団の人が来たんだけど、第一防衛線がヤバいって! ポクニさんがやられたらしいから早く行こっ!」
状況が動いた。
敵──ブレイズの次の一手は第一防衛線への攻撃。それによってポクニ公爵が負けた。
「ジェズ侯爵」
「うむ、戦力の用意は急ぐ。第一防衛線の一件が終わり次第、戻って来てくれ」
「ありがとうございます」
魔法教団の当主で、元勇者のポクニ公爵を負かすほどの強力な戦力。生体兵器による数の暴力か、もしくはブレイズが直接出てきたか。
どちらにしても敵の侵攻を防ぐために急がねばならない。
「行くぞ、ルーシー」
「うん!」
ユウはルーシーと共に、状況を確認しに戦略会議室へ一度戻る。
「勇者様!」
戦略会議室に戻ると、報告に来ていた魔法教団の魔法使いが一番に声を掛けてくる。その様子はかなり慌てている。
「大変です! 第一防衛線が攻撃を受け、我ら教団のポクニ様が……!」
「話は聞いている。すぐに現場に移動しよう」
「ありがとうございます、勇者様! 早速、転移に取り掛かります!」
手っ取り早く話を終えて、魔法使いは片手に持っている魔法書を開く。
「ルーシー、トレイル、マカルタ、行けるな?」
「もちろん!」
「あぁ、いつでも行けるぞ」
「アタクシも大丈夫ですわ」
行けるかどうか、ユウの確認に三人は応える。
士気は充分にある。
「教団の方、こっちはいつでも行ける。転移を頼む」
「はい!」
魔法使いは魔法書に書かれた転移魔法を唱える。
転移先は戦場となっている第一防衛線──第一城壁都市ルキセディア。
魔法使いの転移魔法により、ユウたちは第一城壁都市ルキセディアに向かう。




