▽第21話 それぞれが持つもの
王城に入った四人の行く先は謁見の間。
再びルゼン王とロミ大臣と顔を合わせる。
「よく戻ってきた、勇者イサム。ルデンバ村の一件はどうなった?」
「ルデンバ村は敵勢力に占領されていました。この敵勢力をルーシー、マレイア辺境伯と共に排除。ルデンバ村を解放し、苗床として囚われていた者を救出しました」
ルゼン王の問いに、ユウは状況を述べる。
そこにトレイルが付け加えて「ユウ殿は救世主です」と話し始める。
「ユウ殿がいなければ、我々姉妹は敵の戦力を産むだけの苗床として一生を過ごしていたでしょう。それどころか村民全ての苗床となり、他の村へ巣が拡大、第二防衛線は崩壊していたはずです」
トレイルは続けてルゼン王に語る。
「ルゼン王、ユウ殿はこの戦いを勝利に導く人物です。どうか彼の言葉に耳を貸し、助力をお願いします」
「アタクシからもお願いします、ルゼン王。ユウ様しか我々の勝ち筋はありません」
トレイルに続いてマカルタも進言する。
ルゼン王は二人の話を聞き入れ、コクリと首を縦に振った。
「私は元から勇者イサムに助力するつもりだよ。安心したまえ、ビス家の令嬢たちよ」
「ルゼン王、後は私が引き継ぎます」
「うむ。ロミ大臣、後は任せる」
ルゼン王は助力を示した。
そして助力のために、ロミ大臣がユウたちの前に出てくる。
「ここからは私が対応する。戦略会議室に来たまえ、案内する」
ロミ大臣の案内。執務室ではなく、戦略会議室に向かう。
王城内を歩いて数分。戦略会議室に向かう道中、ユウは細部に装飾が施されたフルプレートアーマーを着た人物──ジェズ侯爵を目にする。
その表情は兜に閉ざされて分からない。しかし兜の奧に潜む瞳はユウたちを見つめていた。
「ここだ。さぁ入りたまえ」
戦略会議室に到着。ユウたちはロミ大臣と共に戦略会議室に入っていく。
その時、カシャカシャと鎧の音を鳴らしてジェズ侯爵も戦略会議室に入ってきた。
「ジェズ侯爵」
「ロミ大臣。王都の騎士団を束ねる者として、私も同席してよろしいですかな?」
「構わんぞ」
「ありがとうございます」
飛び入りでジェズ侯爵も参加。
「では始める。勇者イサム、この戦争の中心となり得る君の意見を聞きたい」
それほど広くない戦略会議室の室内。ロミ大臣は中心のテーブルに地図を広げる。
ユウたちとロミ大臣、そこにジェズ侯爵を加えて戦略会議が始まった。
「まずは確認からしても?」
「なんだ、勇者イサム?」
始まって早々にユウは確認から入る。
「ポクニ公爵とリシタ伯爵は今どちらに?」
「二人は第一防衛線に転移した。ポクニ公爵はリシタ伯爵の護衛で、リシタ伯爵は現状をアルセイダ家に伝えるために出発したよ」
「なるほど」
ロミ大臣は現状を告げる。
リシタ伯爵とポクニ公爵は今ここにいなかった。
「ロミ大臣、これより我々は敵に対して攻勢に入ります。出来る限りの戦力を用意して頂けますか?」
確認を取った上で、ユウは攻勢に入ることを伝えた。
敵の戦力が整う前に早く攻勢に入る。出来なければ、攻勢に転じるのは難しくなる。
それはロミ大臣とて分かっていた。
「勝算は?」
だからロミ大臣は勝利出来るかを問う。
「あらゆる考慮を無視した場合、敵戦力の排除〝だけ〟なら俺一人でも可能です」
ユウは率直に答える。
「その言い方、後に残るのは焦土のみか?」
「はい」
つまり人命、土地、資産、全てを無視した戦い方ならユウ一人で充分ということ。
「え、それじゃあ本末転倒じゃね?」
「騎士として容認出来ない選択肢だな」
「守るべきものを破壊してまでなんて、アタクシたち騎士の本望じゃありませんわ」
もちろんルーシー、トレイル、マカルタが口々に告げるようにこの場の誰もが壊滅的な結果の勝利は望んでいない。
「質問を少し変えよう。このルセーレ王国、いや……大陸の全ての国が残ったままで我々が勝てる見込みは?」
ロミ大臣は考え得る最大限の勝利を出して、再び問う。
「敵は強い。口、肛門以外に触手を入れていないTSbの挙動から見るに、小規模でありながら手段を選んでいる余裕がある」
「完全な勝利はないということか……?」
「逆です。手段を選んでいるという隙を突けば、確実な勝利を掴むことが出来ます」
敵がブレイズと判明した今、手の内が分かりやすい状況になった。
それほど悲観せずに勝利を望める。
これにロミ大臣はもちろんのこと、ルーシーたちも喜ぶ。
しかしジェズ侯爵は違う。
「イサム殿、その勝利に到達するためにはどの程度兵力が必要なのだ?」
「解放した地点の確保、補給線の維持、伝令などの人員、戦闘隊員、あらゆる面を考慮して一万人ほどの兵力は必要です」
「初代魔王討伐の時と大体同じ数が必要な訳か」
ジェズ侯爵の現実的に問い、ユウは冷静に答えた。
今回の攻勢は初代魔王討伐時と同じ数万規模の兵力が必要である。これに対してジェズ侯爵は腕を組んで考え込んだ。
「ジェズ侯爵、君の管理下にある騎士団から割ける人員はどれくらいだ?」
二人の問答を聞いていたロミ大臣がジェズ侯爵に問う。
現在、王都ルクセフォンに常駐する騎士団の総数は二万人ほど。王都の防衛には充分な戦力だ。
「どうなんだ?」
ロミ大臣は再度問う。
これにジェズ侯爵は顎に手を当てて、ようやく口を開く。
「千人」
「千か。妥当だな」
ジェズ侯爵の言った数字にロミ大臣は納得する。
もちろんユウは王都騎士団の事情を知らない。
「なぜ妥当なのですか?」
もう少し兵力を割けるはずなのではないか?
そう思って、ユウの疑問が食い込む。
「王都騎士団の戦闘教義だよ、勇者イサム」
「我ら王都騎士団の戦闘教義──名称はアサルト・アーマー。充実した装備で防御を固め、攻撃特化の魔法と戦術で敵を一気に排除するものだ」
「しかしこれは最終防衛線まで押し込まれた戦線を第二防衛線、第一防衛線にまで押し戻す攻撃特化の防御なのだ」
ユウの疑問の回答としてジェズ侯爵とロミ大臣は説明。
王都騎士団の戦闘教義──アサルト・アーマー。
この戦闘教義を端的に言えば、攻撃は最大の防御というものだ。
「なるほど。確かに千人で妥当ですね」
二人の説明を聞いたユウは〝千人で妥当〟という意味を理解した。
王都騎士団の戦闘教義──アサルト・アーマーは装備が万全で、充実しているからこそ発揮出来る。
つまり兵站への負担が大きい。コストの重い装備を常に万全にしている必要があり、補給が届きやすい国内でこそアサルト・アーマーは輝く。言葉通り攻撃特化の防御だ。
「この戦闘教義は兵站への負担が大きい。補給線が長距離へ伸びていくほどに我ら王都騎士団の戦い方は出来なくなる」
「だからジェズ侯爵が言うようにたった千人……少数なら兵站への負担が少ないと?」
「兵站への負担を軽くするだけではないよ、イサム殿。この千人は経験の浅い新人から選出するつもりだ」
「戦闘教義への固執は少ない訳ですか」
「訓練を積んだ者ほどパターン通りの行動に固執するものだからな。我ら王都騎士団では正しい行動でも、イサム殿の指揮下では邪魔となるだろう」
「ありがとうございます、ジェズ侯爵」
戦闘教義から来る兵站への負担。ユウの指揮に影響しない人選。騎士団の新人が実戦経験を積める機会。
あらゆる考慮から、ジェズ侯爵の騎士団から調達出来る戦力は千人の新人騎士と確定した。
「だが、たったの千人では数が足りなかろう」
「そこは我々ビス家にお任せあれ」
「足りない部分は我々ビス家の兵団が数を補いますわ」
そんなロミ大臣の心配に対して、トレイルとマカルタは待っていたかのように生き生きと横から口を出す。
そのテンションは高い。まるでジェズ侯爵の騎士団に対抗している。
「それに、こちらにはお母様が作り出した魔法──スキンプロテクトがございますわ!」
「マレイア辺境伯が普及させている例の防御魔法か」
「画期的な魔法だが、我ら王都騎士団の戦闘教義には合わんな」
マカルタの口から出たのはスキンプロテクトという防御魔法。
どういう魔法かは、トレイルはもちろんのことロミ大臣とジェズ侯爵も知っていた。
「どういう魔法なんだ?」
「よく質問してくれた、ユウ殿!」
ユウの質問に、トレイルは自慢気に答える。
マカルタの表情もまた自慢気。姉妹揃って自慢したいように、スキンプロテクトの説明を始める。
「簡単に言うと、素肌を鎧と同等の防御力にする魔法だ。今、我々姉妹はこのスキンプロテクトで守られている」
「つまりアタクシたち姉妹のように軽装備で戦場に挑めますのよ?」
「王都騎士団と違って兵站への負担だって少ないし、好きな服を着れる」
「この魔法さえあればドレス姿でも戦えますわよ!」
トレイルとマカルタの自信に満ちた説明。というよりは自信のある商品紹介に近い。
スキンプロテクトを使わせたいというのが見て取れる。
「ただし魔力の根源となる心臓から遠くなるほど防御力が落ちる」
「それ故に手、腕、脚の防御は必須。トレイルお姉様とアタクシの装備が模範解答ですわ」
そのまま説明を継続して注意事項を告げる。
マカルタが言った部位──手、腕、脚は防具による保護が必須。模範解答となるトレイルとマカルタはビキニアーマーだが、スキンプロテクトで守れない部位はしっかりと防具で保護されていた。
「すごいじゃん。アタシも使おうかな」
より高度な魔法である変身魔法を使うルーシーでさえ感心。スキンプロテクトはそれほどに画期的だった。
「身体強化とはまた違うんだな」
「うむ、似ているが違う。身体強化の魔法は文字通りの身体強化──つまり筋力や骨を魔法で補強するものだ」
「じゃあスキンプロテクトは肌を鎧と同等に硬質化するのか?」
「違う。スキンプロテクトは肌を強くするんだ」
「強くする……?」
ユウの指摘にトレイルの説明が挟まり、そこから肌を強くするという曖昧な表現が出てくる。
ユウのみならずルーシーも「?」と首を傾げた。
「文字通りの意味合いだ。実際に感触を試してみるといい」
トレイルはそう言って、自身の短剣をユウに差し出した。
「この胸に短剣を刺してみろ」
「本気か?」
「本気だ。驚くぞぉ?」
ユウは短剣を受け取る。
トレイル自らが指定した刺す場所は豊満な胸の谷間、胸のド真ん中。心臓だ。
「襲うつもりで来たまえ」
トレイルには絶対の自信がある。とはいえ、仲間を傷付ける行為。
相手から同意を得ていて、スキンプロテクトの防御性能を試すにしても、ユウの中に少しの迷いが生まれる。
「やはりユウ殿は優しいな。ほら、来るんだ」
ユウの手を取る、トレイルの手。すらりとした異性の手が、ユウの手を胸の谷間へ持っていく。
短剣の切っ先がトレイルの胸に近付く。
「……やるからな?」
「いいぞ」
触れる異性の手。ほんのりと頬を赤く染めるトレイル。
相手を殺してしまうかもしれない自らの手。いつも以上に真剣な面持ちのユウ。
短剣の切っ先がトレイルの胸に触れる。
「……っ!」
ゆっくり慎重に、殺してしまわないように短剣を刺していく。
「ん?」
しかし刺さらない。
普通なら肌を簡単に貫通して刃が進んでいるはず。それなのに刃は、切っ先は、肌の表面で止まっていた。
「!?」
ユウは驚いた。
切っ先は確かに肌に当たっている。ユウが手加減し過ぎていることはなく、短剣の切っ先はトレイルの胸の肌に沈んでいる。
スキンプロテクトで守られた肌に鎧のような硬さはない。だが、貫通しなかった。
「血の一滴すら出てこないのか」
「もっと押してみるかい?」
トレイルの挑発的な提案。ユウはこくりと首を縦に振る。
次は全力の両手。もう片方の手も使って短剣をグッと押し込む。
「両手でやっとか」
両手の全力で刺して、ようやく短剣がトレイルの肌に1mmほど刺さった。
胸から極少量の血が出てくる。
「すごいだろ、ユウ殿?」
「確かに画期的な魔法だ。身体強化込みなら命は取れそうだが──」
「逆に言えば、平凡な攻撃では命を奪えないということだ」
「そうだな」
スキンプロテクトの防御性能は確認し終えた。
すぐに思考型の治療魔法でトレイルに与えたほんの少しの傷を治療。短剣をトレイルに返す。
「しかしこれほどの防御魔法……普及させているらしいが、常時発動型で魔力は大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫ですわ、ユウ様。常時発動するのを前提に魔力消費量は少なくされていますのよ」
ユウの質問に今度はマカルタが自信満々に答える。
魔力消費量が少なく、鎧の代用に出来る。心臓から離れるほど防御力が落ちるという欠点は防具で補える。
致命的な欠点はない。まさに画期的。
「画期的なのに、売春婦と大差ないハレンチな格好をしてしまうとはな。マレイア辺境伯はつくづく斜め上なことを考える」
「なんですって?」
「これは失礼」
ジェズ侯爵が話に割り込んでくる。しかもトレイルとマカルタの格好に否定的。
嘲笑のない、攻撃的で鋭い口振りが二人の精神に刺しに行く。
「この素肌を晒した格好は、この身でスキンプロテクトの性能を国民に示すためのものなんですわよ!」
「やはりマレイア辺境伯の娘だな。寸分の乙女心もない」
「なっ! それはどういう意味でおっしゃっているのです?」
「ジェズ侯爵、それ以上は侮辱として受け取りますぞ?」
話は口論に発展。ジェズ侯爵とマカルタの口論にトレイルも参戦して次第にヒートアップしていく。
「三人共、そこまでだ。今は味方と喧嘩をしている場合ではない」
「もちろん分かっています」
「フンッですわ!」
「…………」
ロミ大臣からの注意にジェズ侯爵は口を慎み、トレイルとマカルタもそれ以上口論は続けない。
内輪揉めは避けられた。
「はぁ……ともあれ王都騎士団から千人。残りは他から調達ということで良いな?」
「それで構いません」
ロミ大臣の確認に、ユウは答える。
まず王都騎士団から千人の新人騎士を戦力調達することが確定した。
「次は我々ビス家の兵団から……」
それぞれが持つものを見せて、戦略会議は続く。




