▽第19話 降り来る再会
日差しが照らす空。
暗い地下の巣から一気に光景が変わり、ユウの視界は眩しくなる。
「ユウ君!」
ルーシーの声。
次第に外の明るさに慣れ、走り寄ってくるルーシーの姿が視界に映った。
「ルーシー」
「なんかドデカい音と土煙がすごかったけど、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。たった今、駆除を終わらせてきたところだ」
「じゃあこれで終わり?」
「いや、まだ屋敷の地下に触手の死骸が残っている。それを処理したら終わりだ」
陥没した部分のTSbは土砂に埋まった。後は屋敷の地下に残る死骸の処理だけ。
もちろん死骸が再び動き出すことはない。単純に衛生上の問題で処理が必要だった。
「そっちの状況は?」
「状況? 触手来なかったし、バッチグーだよ」
「良かった、無事で」
「アタシがいるもん! なにがやって来ても返り討ちなんだから!」
「頼りにしてる」
「フフン♪」
ルーシーは得意げな笑顔でいて、相変わらず元気が良い。その元気の良さに引っ張られるようにユウも口角を上げた。
そのまま視線を周りに向けると、全員無事な様子だった。
「勇者イサム!」
呼び声。マレイア辺境伯が走り寄ってくる。
「巣の触手は?」
「殲滅しました。巣の大半は陥没により埋められ、屋敷の地下に死骸が残るだけです」
「村は占領から解放されたという訳ですわね」
「地下の死骸の処理など、手伝いますか?」
「それなら処理の指導をお願いします」
「了解しました」
後始末を開始。
マレイア辺境伯の指揮の下で人員が集まり、ユウの指導の下で地下に残ったままの死骸を処理。総出で長さ200m以上のTSbの死骸を屋外へと出し、全部集めたところで焼却した。
死骸の処理は完了。一時間ほどを要した。
「おっ! ユウ君、終わった?」
「今、終わったところだ」
処理を終えて村から戻ると、ルーシーがお出迎え。
そのままルーシーと共に足を進める。
「で、次は助けた人の様子見?」
「そんなところだ」
「ホント優しいね」
「優しいつもりはない。俺は自分のやりたいことをやっているだけだ」
「ふぅーん……アタシ、そういうの好きだよ」
「俺もお前が好きだ、ルーシー」
「ちょーっ!? きゅ、急に口説かないでよ……」
「ん?」
「あ、えっと、なんでもない。今のは聞き流して」
「分かった」
平然とした顔で自覚がないユウと頬を赤くするルーシー。
二人が話しながら向かう先は休息中のマカルタとトレイル、三人の冒険者たちがいる場所。
「あ、勇者様」
ユウとルーシーに気付いた、マカルタの呼び声。それを皮切りにユウとルーシーに視線が集まる。
「こんなところになにか用件かしら?」
「様子を見に来ました」
「別にアタクシたちはなんともありませんわよ。ねぇ、トレイルお姉様?」
「あ、あぁ、なんともないぞ?」
ユウに対して高飛車に応じるマカルタと顔を背けるトレイル。
マカルタは普通だが、トレイルの反応は怪しい。勘を鋭くしたルーシーの目がトレイルを観察する。
「トレイルだっけ、あの人……なんか気にならない?」
コソコソとルーシーはユウに耳打ちする。
「別に気にならない」
「マジ?」
「あぁ、マジだ」
「うーん、ユウ君に聞いたのが間違いだったかなぁ」
「んぅ?」
顔を背けてはチラリとユウを見る、トレイルの恥ずかし気な怪しい様子。
ユウは危険性を基準に気にしなかった。対して、ルーシーはトレイルに恋心が潜んでいると察してから気になって仕方なかった。
「ともあれ……苗床にされた後の影響を確認したいのですが、よろしいですか?」
「分かりましたわ。好きなだけ診てくださいまし?」
「えぇ!? あ、いや、構わんぞ」
マカルタは余裕のある反応だが、トレイルの方はやはり怪しい。
これには「じー」と声に出すほど、ルーシーはトレイルを訝しく見た。
「まず簡単な質問から始めます。今回の苗床で、口と肛門の他に触手を入れられた部位はありますか?」
「アタクシはありませんわ。口と肛門、それだけです」
ユウの質問にマカルタは答える。
続いてトレイルも「わ、我も右に同じく」と答えた。
「その、お口とお尻の穴以外は特に……」
「私も同じく……」
「ぼ、僕も……」
三人の冒険者たちも質問に答えた。
聞く限りでは口と肛門以外に触手を入れられていない様子。
そこでユウは「性器への挿入は?」と更に踏み込んで質問をした。
「ちょっ、ユウ君!?」
「な、ないですわよ! そんなこと!」
「そ、そうだぞ! そんなエッチなことある訳ないだろ!」
「エッチ!」
「ドスケベ!」
氷魔法を使わずとも場が凍り付くような質問。それに対しての罵声と否定。
女性陣は騒ぐが、ユウに質問と確認以上のものはない。平然とした顔のまま、マカルタを始めとした各々の反応から性器にTSbの子種が仕込まれていないことを把握していく。
「となると敵は──」
「空! なにか来るぞぉ!」
「竜だ!」
空に指を差した兵士の大声。ユウの言葉を遮り、何者かの襲来を告げた。
戦いの気配。一気に緊張が走る。
「……あれか」
空を見上げる。視界に映るのはスウォーム・ワイバーンの姿。
「アイツ敵じゃん! 戦えない人は下がって!」
「あのワイバーンは……!」
「触手を運んできた奴が戻ってきたのか!」
襲来するのは敵。ルーシー、マカルタとトレイルの三人もスウォーム・ワイバーンを視界に捉える。
しかし三人のいずれも敵と目は合わない。
「俺が目標か」
敵と目が合うのはユウ。
敵の標的はユウだ。一直線にユウへ向かって降下、口から火炎を吐き出す。
スウォーム・ワイバーンの2000度にも上る火炎放射。迫り来る火炎をガードは出来るものの、火炎を周りに撒き散らされたら村まで燃える。
そうなる前に仕留めないといけない。
「武装現出」
ユウは初手で一撃必殺を狙い、思考型魔法の武装現出を行う。
作り出すのはユウの身長よりも大型な携行型レールガン。起動して、内部バッテリーから電力供給を開始。
「精度よし」
一秒の間を置いて発射可能状態に移行。安全装置を解除。火炎を吐きながら迫り来る敵に銃口を向ける。
「一発で仕留める」
ユウは引き金を引いた。
周辺の声を全て掻き消し、響き渡る発砲音。走る電気と発砲炎。
放たれた弾は火炎を打ち消してスウォーム・ワイバーンに直撃。一撃にて、その10mの体躯に風穴を開けた。
「す、すごぉ……!」
この世界の人間が初めて見るレールガンの迫力と威力。
声に出したルーシーも含めて、その場の全員が圧倒された。
「トレイルお姉様、今の……」
「あぁ、すごかった。本当に一発で仕留めるなんて……」
スウォーム・ワイバーンは口から尻尾まで開いた風穴。村に墜落して、ユウの言葉通りに一発で仕留められた。
マカルタとトレイルの視線は敵からユウに移る。そこにある感情はユウの圧倒的な力への羨望と恐怖。
そんな二人からの視線を浴びながらも、ユウは敵の死亡確認に向かった。
≪ハハハッ!≫
「……っ!」
スウォーム・ワイバーンから発せられる、ユウと同じくらい若い男の笑い声。装備された発声機を通した敵の声。
今度のスウォーム・ワイバーンはただの生体兵器ではない。人間の意識が入っている。
ユウは走る。敵の素性を探るため、倒れたスウォーム・ワイバーンの目の前に来た。
≪さすがだ! やっぱりユウだな!≫
敵との対面。相手はユウを知っている。
「貴官、誰だ? 官姓名を名乗れ」
≪この声を忘れたのかよ≫
「声? 一体、お前は誰だ?」
それに対してユウは相手を知らない。いや、忘れている。
≪まぁ忘れていても別にいいさ。俺たちがこうして再会出来たんだからな≫
「待て、まずは官姓名を名乗れ」
≪残念だが、この体はもう限界だ。脳機能がシャットアウトする。だから手短に言うぞ≫
「なんだ?」
≪また次の戦場で会おう。俺の友、イサム・ユウ≫
最後にまた会うことを告げて、敵の意識は去っていく。
残るのは意識の入れ物であるスウォーム・ワイバーンの死骸のみ。
「まさか……」
再会を喜ぶ、スウォーム・ワイバーンに意識を入れた人物。ユウを友人と認識していた敵。
敵が誰か、ユウには心当たりがあった。そして記憶から思い出を辿れば、軍学校での生活を共にした友人を思い出せてきた。
「お前もここに来ていたのか、ブレイズ」
その友人はブレイズ、ブレイズ・オヌール。
下半身麻痺で車イスに乗っていた。料理が上手だった。軍学校で四年間、生活を共にした。
同じマナの適合者。同じ魔法兵。
互いに魔法と戦技を鍛え合った。
別々の部隊に配属されて別れを告げた。それっきり会えなかった。
思わぬ再会。敵としての再会。
ユウは放心した。動揺した。でも、再会出来て嬉しい気持ちはあった。
様々な感情が混ざる。
今はただ、敵の死骸の前で立ち尽くすのみだった。




