▽第13話 敵の正体
ルゼン王とロミ大臣、他三人の貴族を置いて王城を出る。
そこからユウとルーシーはマレイア辺境伯と共に、急ぎで用意した馬車にて出発。
くもり空の下、馬車をガタガタと忙しく揺らす最大速度で村へと向かっていた。
「勇者様、敵の情報を……」
「はい。敵はスウォーム・ワイバーンの他に、おそらくTSbという名の触手型生体兵器を投入していると思われます」
マレイア辺境伯が話を切り出し、ユウは触手の正体──TSbの名を告げる。
「TSb?」
「Tentacle Seedbed……触手苗床の略称です」
「特徴は?」
「この生体兵器は地下に触手自らの体で構成された巣を作り、他生物を巣に引きずり込んで繁殖のための苗床に使います」
質問を続けるマレイア辺境伯に、ユウは答え続ける。
「そしてなにより厄介なのが繁殖スピード。人間一人だけでも数時間後には建物と同規模の巣を形成出来ます。ここから捕まる人数が増えると──」
「更に巣の規模が急速に大きくなっていく、と……?」
「うわ、怖っ」
マレイア辺境伯とルーシーはゾッとする。
こうやって村に向かっている最中にもTSbの巣は大きくなっている。もしも王城で対策と準備に時間を掛けていたら、TSbによる被害者は急増するだろう。
「中々怖い兵器ですわね。どういう目的で、あなたの世界の敵はこんなものを?」
「敵地での戦力拡大と敵対勢力の損耗、敵地の占領。これを同時にこなすことを目的としています」
投入先の敵地で他生物を苗床にして勝手に繁殖。巣の規模を拡大させつつ敵勢力を損耗させ、敵地を占領していく。おまけに駆除には手間が掛かる。
これがTSbの主な役割。凶悪で効率的な性能をしている。
「ねぇ、ユウ君。TSbってのは分かったけど、スウォーム・ワイバーンの方は?」
「あ、ワタクシも聞きたいですわ」
今度はマレイア辺境伯の横からルーシーが質問。
TSbの次はスウォーム・ワイバーンの説明を求められた。
「スウォーム・ワイバーンは鋭い牙、大きい体格、口から吐く火炎放射、鋭利な尻尾と機動力の高い飛行能力を持ちながら増産しやすいのが特徴。万から兆単位の数で攻める運用が基本です」
スウォーム・ワイバーンの特徴と主な運用を説明。
文明レベルの低いリーロ・ラルレ大陸の戦力相手には十分過ぎる攻撃性能と飛行能力を持ち合わせており、一匹でも危険な存在。
それが本来の運用なら大挙して押し寄せてくる。
「そんな数で!? 初代魔王の時でさえ、ワイバーンやドラゴンは総数でも百体はいないのに!」
「でも、なんか数が少なくない? そんなに数がいたら今頃どこもかしこもワイバーンだらけでしょ?」
「……確かに、その通りですわね!」
ルーシーの鋭い指摘。マレイア辺境伯は現状の運用数に気付く。
「よく気付いたな、ルーシー」
そしてスウォーム・ワイバーンの数が少ないことはユウも気付いていた。
「ユウ君は最初から分かってたの?」
「TSbが投入されたと発覚した時点からだ。あくまで推測の域だがな」
「増殖スピードが早い触手を出すなら敵の数は少ないはずって?」
「そうだ。スウォーム・ワイバーンが本来の数で運用された場合、TSbの同時運用は基本的にない。スウォーム・ワイバーンと歩兵戦力で事足りるからな」
つまり敵はTSbでスウォーム・ワイバーンと歩兵戦力の少なさを補おうとしている。
ユウとルーシーが言葉を重ね、この場の全員が敵の意図を察せてきた。
「見えました! 村です!」
馬車の運転手が告げる。
三人は馬車の外を見た。
見えるのは無人の村、村から離れた場所に退避している村人と兵士の集まり。
目的地であるマレイア辺境伯の村──ルデンバ村が見えてきた。
「村は避けて、あっちの人が集まっている方に向かってください!」
「了解!」
マレイア辺境伯は指示を出し、馬車は村人と兵士の集まりへと向かう。
「そろそろ着きますわ、二人共」
「あれ、ワイバーンいなくね?」
「飛行能力を活かしてTSbを輸送しに来ただけかもしれない。既に飛び去った後だろう」
スウォーム・ワイバーンはいない。TSbの対処とマレイア辺境伯の娘の救出だけすれば良い状況になっている。
状況は悪くない。
「勇者イサム、TSbとやらの対処方法は?」
「現場で実践を交えて教えます。まずは村の状況確認からです」
話している間に馬車は目的地に到着。
三人は馬車を降りて動き出す。




