▽第12話 開戦
ようやくみぞおちが痛くなくなった
これからもっと更新がんばらないと……
スワォーム・ワイバーン撃破後、謁見の間にて。
ロミ大臣、関係各所の貴族たち、ユウとルーシーは謁見の間に集まっていた。
「ルゼン王」
「うむ。これより戦時体制に移行、我々は戦争状態に入る。ここで我々の平和を守る」
ロミ大臣に応じて、ルゼン王は戦時体制に移行を宣言。
ルセーレ王国は戦争状態に突入した。
ブオオオオオオオオオォォォォォォォォ!
「うっ、また?」
人々の脳へと響き渡る終末音。ルーシーは思わず声を出す。
この精神波状意識支配システムが示すのは、敵が次の行動に出たということ。
威力偵察は終わりである。次は本部隊による攻撃が始まる。
「ルゼン王、早急な戦争準備を進言します」
「分かっている。早速全員取り掛かってくれ」
「はい」
ユウの進言にルゼン王は告げた。
全員、次の行動に動き出す。
国民への戦争状態移行の通知。戦費調達、資源確保、武器装備増産、兵士と騎士の増員に動く。
一方でユウたちはルゼン王の執務室にて、今後の戦略を考えていく。
「まずはこちらの事前準備していた戦略案に目を通して頂けると……」
「うむ」
ロミ大臣が地図を広げる。
それはユウとルーシーに見せたものと同じもの。
ルゼン王を始めとして、ジェズ侯爵たち四人も地図に目を通す。
「まずリシタ伯爵の家──アルセイダ家が管理する国境沿いの城壁都市群を第一防衛線として、マレイア辺境伯の管理下にある王都周辺の村々を第二防衛線、そして王都ルクセフォンが最終防衛線となります。王都が陥落した場合は港を通じて国外に脱出する手筈です」
用意は周到。
城壁都市群による分厚い防衛線に始まり、村々を拠点にした草原での機動戦と続き、最後には王都という強固な防衛線が待つ。
敵の侵攻を難しくさせる三段構えの防御。
それでも突破され、陥落された場合は国外へ脱出。血筋、人材を途絶えさせずに国の復興を目指す。
「移動経路まで細かく書かれている。万全であるな、ロミ大臣よ」
「それはもう……国防とうるさくしてきただけではありませぬから」
王都、村々、城壁都市群を繋ぐ経路。
これは国民の退避路にも、軍事における補給路や撤退経路としても使える。
万全を期している。
「後は戦力配置ですわね」
「私の管理下にある騎士団は王都に、マレイア辺境伯の戦力は第二防衛線、アルセイダ家は第一防衛線に……ポクニ公爵の魔法教団は第一防衛線と王都に集中しているのが現状です」
マレイア辺境伯とジェズ侯爵は言う。それぞれが抱える戦力には違いがある。
ジェズ侯爵は武器、防具など装備が充実した複数の騎士団を抱えている。
マレイア辺境伯は村の全農民、傭兵、冒険者で構成された大規模兵団を持つ。装備に個人差はあるものの兵力は最も多い。
アルセイダ家はそれぞれの城壁都市に騎士団を持つ。
ポクニ公爵のダブレメラズ魔法教団は都市を中心に活動。他戦力の隙間を埋める形で存在する。
「後は勇者イサムと、魔王となったルーシー殿ですが……」
リシタ伯爵が言うと、その場の全員がユウとルーシーを見る。
「アタシには一応魔物たちがいるけど、たぶん戦闘の役には立てないよ? そういう風に管理してないからさ」
「役に立つとすれば警備や軽い荷物持ち、偵察などの補助だろう」
ルーシーの魔物はほとんど愛玩動物と同じで戦闘に役立てない。ユウが付け加えて別の役割を言うように、魔物は補助で精一杯だ。
「では勇者イサムとルーシー殿、お二人の配置は?」
そうとなればユウとルーシーはどの防衛線に配置されるのか。
ジェズ侯爵の問いに、ユウは口を開く。
「俺は遊撃、逆侵攻及び攻勢を掛けます」
「たった一人で? 君が無詠唱で魔法を使える強者とて、それは無茶だ」
つまり戦場を臨機応変に駆け回り、侵略してきた敵を逆に追い詰めていくということ。
しかしポクニ公爵が言うように一人でやるには無茶がある。
「敵の主戦力はおそらく先ほどのスウォーム・ワイバーンのような生体兵器です。生体兵器は子宮外肉体生成装置によって常に増産され、生産元を断つまでは永遠に戦力を投入されます」
そのままユウは告げる。
「初期段階から守勢でいると敵が戦力を整えてしまいます。そうなると圧倒的物量で国は陥落します」
ルセーレ王国の守りは万全だが、逆に受け身なのが致命的。
子宮外肉体生成装置という培養カプセル内で肉体を生成する装置──生体兵器用にサイズアップしたものによって生体兵器が次々に増産される。
500m級支援艦に搭載された子宮外肉体生成装置を破壊、または奪取しない限り侵略は終わらない。守りが万全でもいつか崩されるだろう。
「だから攻勢に出て、あの魔物みたいな兵器の生産元を断つと?」
「はい。ルセーレ王国という国を保ちつつ侵略を退くには、これしかありません」
続けてポクニ公爵にユウは答える。
無茶だとしても攻勢に出て、子宮外肉体生成装置を搭載した500m級支援艦をなんとかしないといけない。
勝利しても平和がないのなら、ユウにとって意味がない。
「やはり無茶だ。初代魔王討伐でもポクニ公爵を含めた数万規模だったのだぞ」
「だったらアタシがユウ君と行く。アタシと魔物がいれば無茶にはならないでしょ?」
ルゼン王の懸念の横でルーシーが名乗り出る。
「ルーシー」
「なんか〝戦場は過酷だ、危険だぞ〟って言いたげだね」
「あぁ、そうだ」
「大丈夫だって! アタシだって平和のために魔法の腕を磨いてきたんだから!」
ルーシーの〝平和のために魔法の腕を磨いてきた〟という言葉。
ユウはかつての自分を思い出す。軍学校で磨き、鍛えてきた日々。
懐かしの思い出をルーシーの言葉に重ねる。
「分かった。頼りにしている」
「あいよー!」
一時の感情でルーシーを信用して、ユウは応えた。
「では、ビス家からも勇者様に同行させる者を──」
「大変です!」
マレイア辺境伯がユウに助力を言おうとした時、魔法教団の魔法使いが執務室に入ってきた。
明らかに緊急の報告を持っている様子。
ポクニ公爵が「何事か?」と聞く。
「マレイア辺境伯の村が正体不明の敵に攻撃されています!」
「まさか、いきなり第二防衛線に攻撃か!」
第一防衛線を飛ばして、第二防衛線が攻撃された。
魔法使いの報告にロミ大臣は驚く。
「ワタクシの村に……敵は?」
「ワイバーンと触手です! 住人及び兵士は村から退避出来ましたが、最後まで奮闘したマレイア辺境伯のご令嬢がまだ村に取り残されており……」
「そう、分かりましたわ」
戦場となった村に自らの子供が取り残されているものの、マレイア辺境伯は冷静そのもの。焦りも心配もない。
「マレイアさん、娘さんを助けに行こう!」
代わりにルーシーが心配する。
その優しさから、今すぐにでも救出に行きたい気持ちが出てきていた。
「もちろん行きますわ。でも敵を知らずして出向くのは愚行……勇者イサムから情報を教えてもらった上で、確実に対策した方がいいですわ」
マレイア辺境伯はユウを見る。確実な救出のために、まず敵を知ることを選んだ。
「いえ、今すぐ行きましょう。移動途中に敵を教えます」
一方でユウはルーシーと同様に今すぐの救出を選んだ。
「なぜ? ここで対策と準備をしてからでも良いのですよ?」
「それでは遅いです」
「もしも娘の心配をしているのなら不要。娘は成人した騎士なのですから、一時の感情に任せないでくださいまし」
ユウが感情に任せて言っているか?
それは違う。
なぜなら敵の正体を知っているからである。
「心配はもちろんあります。同時に、あなたの娘を苗床にした生体兵器の増殖を防ぐという戦略的な面から申し上げている」
「ワタクシの娘が苗床……!?」
「救出が遅れるほど村の外、王都にまで触手が伸びてくる。これがどういうことか分かりますね?」
「……分かりました、すぐに救出に行きますわ」
ユウの説得にマレイア辺境伯はうなずく。
これで今すぐ救出に向かう了承を得られた。
「ユウ君、さすが!」
「俺は当然のことをしているだけだ。行くぞ」
「あーいよ!」
事態は一刻を争う。
ユウとルーシー、マレイア辺境伯はすぐに娘の救出に向かう。




