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魔王の異世界戦記~その最強の実力は願った平和を求めるために~  作者: D-delta


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▽第10話 戦時体制

 王城、謁見の間にて。

 ユウとルーシーは再びルゼン王と顔を合わせる。


「よく来た、勇者たちよ。市街で起こった暴行事件は大丈夫だったかな?」

「大丈夫です。俺もルーシーも怪我はしていません」

「それは良かった。だが、相手の右手を引きちぎったと聞いている」

「相手には明らかな殺意がありました。自衛のために止むを得なかったです」

「そうか、それを聞いて安心した。理由のない暴力ではなかったということだな」


 本題に入る前の世間話と事実確認。

 ルーシーを殺そうとした青年との一件は既にルゼン王の耳に入っていた。


「それで、ここに来た用件は?」


 そして本題に入る。

 ユウは「戦争が始まります」と用件を言い始める。


「一刻も早く戦時体制へ移行し、敵の侵略に備えてください」

「勇者イサム、なぜ戦争が始まると分かる? それに侵略というのは?」

「こちらの世界の敵と思しき戦力が、このリーロ・ラルレ大陸に飛来しました。連中の目的は侵略です。重ねて戦時体制への移行を進言します」


 敵の飛来。侵略の始まり。

 ユウが用件を言うと、謁見の間がざわつく。

 ルーシーも「え? マジ!?」と焦る中で、ルゼン王は動じていなかった。


「大丈夫だ、勇者イサム。異世界の住人である君とも対話出来て、そして魔王となった勇者ルーシーとも和解出来たのだ。その敵とも対話と和解が可能なはずだ」


 平和を望めば受け入れてくれるという、ルゼン王の強い意思。戦争という言葉程度で動揺することはないが、同時に愚直。

 ユウは危機感を覚えた。

 平和を望んでも、敵が受け入れてくれるという確証はない。むしろ平和を望む心に付け込んで侵略を推し進めてくる可能性の方が高かった。


「敵はおそらく初代魔王に匹敵しますよ。それでも対話、和解が出来ると言うんですね?」


 ルゼン王を脅すように告げる。

 もちろんユウは初代魔王がどんなものか知らない。

 しかし今回飛来した500m級支援艦がどんな戦力を有しているか、それによって大陸どころか惑星規模で侵略されかねない。

 初代魔王に匹敵する、もしくはそれ以上。可能性は大いにあり得る。


「我々は平和を求める。だから、まずは対話から──」

「ルゼン王、その件は私に一度預からせてもらって良いですかな?」


 聞き覚えのある声がルゼン王に口を出す。

 出てきたのは老齢の太った男──ロミ大臣だった。


「ロミ大臣、なにをしようと?」

「私が常日頃うるさく言っている国防です」

「……分かった。この件はロミ大臣に一任する」

「ありがとうございます。勇者イサム、魔王ルーシー、こちらへ」


 用件は意外な方向に傾いた。

 謁見の間を離れ、ユウとルーシーはロミ大臣に付いていく。

 そこからは移動。王城の廊下を歩く。

 その最中にロミ大臣が「この前は申し訳ないことをした」と謝罪から話を始めた。


「ルゼン王は善人なんだ。ルゼン王が君たちを信じ切って、騙されてしまう前にと思っての攻撃だったのだ……」


「それが、あの場で俺とルーシーを討ち取りに来た理由ですか」


「初代魔王という強力無比な存在がいたからな。あの力に対話能力が身に付いたらなどと用心に疑心を持ち合わせた結果、君たちに失礼を働いたという訳だ」


 ルーシーを魔王と知って殺そうとした理由。

 ロミ大臣の口から話される。

 そして廊下を歩いていた足は扉の前で止まる。


「ここだ。入りたまえ」


 扉を開けた先にあるのはロミ大臣の執務室。

 室内は広くない。加えて豪華な装飾もない。

 そこにあるのは仕事に必要な本棚、デスク。客人との用件を済ませるためのテーブルとソファがあるのみ。

 素朴な執務室であった。


「大臣さん、これは?」


 そんな中に目を引くものがある。

 執務室に入って早々にルーシーが指差す、優美な額縁に入った人物画だ。

 厳しい顔付きの騎士と優しい表情の少年が描かれている。


「あぁ、この絵画は若かりし頃の私とルゼン王だよ」

「これが!?」

「そうだ。こっちの騎士が私、少年がルゼン王だ」

「えぇ……マジで?」


 ルーシーは人物画の騎士とロミ大臣を交互に見る。

 鍛え上げられた肉体の昔と太った今の姿。印象があまりに違い、ルーシーは驚く。


「役割が変われば、体型も変わるということだ。君たちもいずれ分かる。自らの役割が体型に変化を及ぼしていることにな」

「ほぇ~」


 感心のルーシー。

 ロミ大臣は上手いことを言ったつもりの得意げな顔で、デスクのイスに座る。


「さて、本題に入ろう」

「はい。戦時体制……つまり侵略に対しての準備について」

「うむ。遂にこの時が来てしまったという気分だな」


 そしてロミ大臣はデスクの引き出しから取り出した地図を広げた。

 地図はリーロ・ラルレ大陸全土を描いたもの。

 ルセーレ王国は大陸の東に位置しており、地図にはロミ大臣の筆跡で色々と書き足されている。


「見たまえ。私が国防、国防と口うるさくしてきただけではない証明だ」

「これは防衛線と移動経路ですか。国が陥落した際の脱出路まで……」

「ほう、分かるのか」

「元の世界では軍人ですから」

「それなら話が早い」


 ロミ大臣が地図に書き足したものはいわゆる軍事戦略。

 大陸全土に戦略が書き足され、特にルセーレ王国周辺は入念に書き足されていた。


「勇者イサム、魔王ルーシー、君たちに助力を頼みたい。各領主、各貴族と共にルゼン王の説得に加勢してほしい。ルゼン王が動いてくれなければ戦時体制に移行出来ん」

「分かりました」


 ルセーレ王国は君主制である。

 ルゼン王がルセーレ王国の最高権力者であり、最終決定権を持つ。戦時体制への移行はルゼン王の決定がなければ実行出来ない。

 ロミ大臣の軍事戦略も現実化出来ないだろう。


「あのぉー……アタシはちょっと助力出来ないかも? なんだか話が難しくって、説得に参加出来るかどうか……」


 ルーシーは告げる。軍事、政治はまるで分からない様子。


「大丈夫だ、魔王ルーシー。参加してくれるだけで助力足り得る。君も平和を願いながら敵に殺されるのは納得いかないだろう」

「まぁ、それはそう」


 分からなくても参加しているだけで意思表示となる。

 侵略を許したくない根本はルーシーも同じである。


「では、ルゼン王をお茶会に誘うとしよう。謁見の間での彼は意思が固いからな」

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