▽第0話 終末の世界、上書きの光の中に消える魔王
初めてのファンタジー作品…しかもラブコメ要素とSF要素とファンタジー要素とミリタリー要素をコンクリートミキサーで混ぜてぶちまけた作品です
よろしくお願いします
広がる青い空。
快晴の空の下で天真爛漫な幼馴染の少女が大人しい少年の手を引き、遊びに出かける。
他の子供も遊ぶ坂道を駆け上がり、公園で遊んで、ちょっとした廃墟で二人きりになる。
平和な青春のひと時。
恋心を自覚しないまま二人の手は繋がれて強い絆を育む。
少年は思う。
また明日も少女と遊べれば、と。
しかし平和は戦争の狂気に呑まれる。
人類が宇宙の全てを統一した、12000年代。人類が極致に至ると同時に異世界勢力との果てしない戦争に突入する時代。
攻撃の怪音と轟音、灰色の空の下で起こる火災の連続、人の悲鳴。戦争の狂気が少年の身近にもやってきた。
「見ちゃダメ!」
母親の腕の中で少年は惨劇を目に映す。
焼ける少年の家と住宅街、腹を裂かれて横たわる近所の子供、耳の長い異世界人の死体。
幼馴染の少女はどうなっただろうか?
少年は抱えた不安を抑え切れずに母親の腕の中から抜け出て、駆け出す。
「行くな! たぶんもう……!」
父親の静止を聞かずに少年は駆けて、まだ燃えていない少女の家の前に来る。
そこで見たのは幼馴染の少女の死体。破られた衣服と裸体、首から大量に出血していてピクリとも動かない。
そして少女のすぐ横には下半身を露出したまま射殺された異世界人の死体があった。
悲しみ、喪失感、敵への殺意と憎しみ、怒り、色々な感情が一気に混ざる。
だけれど少年は感情を吐き出すことなく、ただ現実を直視した。
「俺がこの世界を平和にしてみせる」
この悲劇をなくすにはどうすればいいか?
少年は誰の問いでもない自らの問いに答える。
異世界勢力との戦争、人類同士の内戦、終わらない戦火がもたらす悲劇を次々に目にしてきた少年の決意は強かった。
決意が行動へと変わる時、少年は十二歳と若くして軍学校に入る。
「お前はどうして兵士になるんだ?」
「この世界を平和にするためだ」
彼は自らの戦う理由を、軍学校で出来た初めての友達──車イスに乗った友人に語る。
「出来ると思っているのかよ?」
「やってみせる」
強い決意と理由。
それを胸に、彼は友人と共に魔法の源──マナの適合者となって魔法兵になった。
彼は期待されていた。
車イスの友人と同じマナの最高適合者で、魔法の才能も戦いの才能もあり、士官候補生の時点で既に最強レベル。軍学校を卒業する時には最強の一人として数えられ、いくつもの内戦を終戦に導いた頃には魔王と呼ばれるようになっていた。
だけれども異世界へ続くゲートを通って戦場に立った時、彼はようやく気付く。
「戦火を広げていたのは俺たちだった……?」
誰が戦いの原因か?
魔王の肩書を得た彼に、神の階級に居座る腐敗が手を伸ばす。
命じられるのは異世界への侵攻。そこでは自軍による略奪と搾取、差別と虐殺がどこまでも続く。
大義も正義もない。
たくさんの死体と燃える民家。裸体にされた少女の死体。
かつて見た悲劇を自軍が起こし、異世界勢力の報復がかつて見た悲劇を再現する。
こんな悲劇を起こす原因は侵略を仕掛ける自軍の側にあった。
では裏切るか?
彼は裏切れない。
人道的な配慮を提示しただけでも「粛清されたいのか?」と上官が粛清を口に出すことから、裏切れば家族から親戚まで皆殺しにされてもおかしくなかった。
だから彼は命令に従い続けた。
どこまでも自分に言い聞かせた。心身を擦り減らしてでも、従い続けた。
「俺が、みんなを……殺した……」
そして彼は騙される。
こちらの世界に侵入した敵勢力が集まっている場所への攻撃命令。
しかし彼が魔法で攻撃した場所に敵はいない。そこにいたのは避難してきた民間人、自分の仲間、自分の家族だった。
彼が放った魔法は異世界勢力の攻撃と脚色される。
それは異世界侵略を正当化するものになり、更なる侵攻の口実となる。
世界を平和にしたくて鍛えた彼の魔法と戦技は、次第に権力を奪い合う内戦への引き金ともなっていく。
「俺は……」
彼は顔を伏せる。
家族と仲間を殺し、求めた平和を自らの手で壊して、人の悪意に手を貸し続ける。
喪失感と共に脱力していく。
自分の命も、願ったことも、全て無駄だった。
≪魔王、君の力を借りたい。この宇宙全ての戦火を消すために≫
それでも彼は終わらなかった。
「悲劇は、繰り返させない」
反乱勢力のメッセージに耳を貸した時、彼は軍を抜けた。
これ以上の悲劇を繰り返させまいと、伝説的な艦隊──黒炎艦隊や狂犬艦隊を筆頭とした反乱勢力の一人として再び戦場に立つ。
そこから始まる戦いはどこまでも長い戦場、果てしない宇宙の端まで行き渡る終末戦争の戦火。
「悲劇は俺の分だけで充分だ」
彼は、魔王は、もう一度平和を願って戦い続ける。
戦場で無数に散る命と機械。どこまでも戦い続ける気力。敵となる全てを倒す戦技。宇宙に広がる戦火の輝きを消すための魔法。
おびただしい数の血肉と鉄塊で彩られる戦場。
星々と銀河が次々に破壊されていく終末戦争。
その末に機械に覆われた人類の故郷──地球から光が広がる。
暗い全宇宙を真っ白に上書きする破滅の光。
宇宙再誕の光。宇宙の上書き。
魔王は戦い続ける。今を生きる人々を、共に戦った仲間を、星々を、銀河を、異世界へ逃がすために。
上書きの光の中に消えるまで、彼は戦い続ける。
既存の宇宙は終末へと向かう。
だけど彼の運命は終わらない。
破滅の光に上書きされて全てが終わる時、彼は世界から姿を消した。
────
──
「……?」
「召喚の義、成功しました!」
「明確な意思疎通が可能なようです」
「よろしい」
宇宙が上書きされていく終末の世界ではない場所。
謁見の間と思しきところで、彼は見知らぬ人間に囲まれている。
しかも理解出来る言語を話しており、なにを話しているか理解出来る。
「ようこそ、ルセーレ王国へ。新しい勇者殿?」
「え……?」
行き着いた場所は異世界。
魔王は勇者として異世界へ召喚された。
それでも戦う理由は変わらない。
「早速だが、このルゼン王から直接魔物と魔王の討伐を君に依頼したい。我が王国を守ってくれるか?」
「……はい!」
彼は戦い続ける。今度も平和を願いながら。
私の過去作と若干の繋がりがありますが、気にしないで気軽にお読みください
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