表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

第2話 落ちても思いは上昇中!

「……さて、これからどうしましょう」


 私室に戻った私は、「ルシウス殿下陥落大作戦」についてを考えていた。


「エマ。何かいい案は無い?」


「え゛ぇっ!? わ、私ですかぁ!?」


 人差し指を自分に突き刺してエマは狼狽している。


「そもそも、リリアーナ様は策があって条件をお出ししたんじゃないんですかぁ!?」


「ふふん。ノープランこそ、チャンスを最大化する黄金律よ」


「そんなの初耳ですぅ〜!!」


 ため息混じりに嘆くエマを横目に、私はドレスの裾を払って立ち上がる。


「でも、殿下に"ガチ恋"させるには、やはり日常の中で特別な私を見せる必要があるわ。つまり──『ときめきイベント』が必要ね」




 破天荒令嬢は殿下の婚約破棄を破棄します!


 第2話 落ちても思いは上昇中!




「ときめき……イベント……?」


 エマは何を言っているのかさっぱりって感じで私を見つめてくる。仕方ない、そこまで気になるなら説明してあげようじゃない。


「そう、いわゆるラブコメのお約束イベント! 落とし物拾いからの手が触れ合うやつとか、悪党から助けられてドキッとするやつとか!」


 私の算段だと、あの王太子(ルシウス殿下)は恋愛経験が皆無。だから、少女漫画のような展開を意図的に起こしまくれば、私の事を段々意識していって、気づいたら私の可愛さに魅了されてしまうって訳。ふふん、やっぱり私は天才ね。


「えっ、えっ、それってルシウス殿下がリリアーナ様を助けてくれるって意味ですよね!?どうするんですかぁそんなのぉ〜!!」


「まあまあ、落ち着いて聞きなさいな。そこで"自作自演ヒロイン大作戦"の出番よ!」


 我ながら完璧過ぎる作戦に、腰に両手を当て、自信満々な表情で宣言する。


「いやぁぁ〜!またよく分からない作戦が出てきましたぁ〜!!」




 翌日、その日に行う作戦の振り返りをしつつ、エマと馬車で学園へ向かっていた。


「エマ。今日の作戦は分かっているわね?」


 エマに今日やる作戦を確認する。


「ええっと、今日の作戦は……」


 エマは、もはや観念したような顔で作戦内容を復唱する。


「リリアーナ様が"あえて"階段で転んで、通りかかったルシウス殿下に受け止めてもらい──『きゃっ……あ、ありがとう、ルシウス様』ってなる、いわゆる"お姫様キャッチ大作戦"ですぅ……」


「その通りよ、エマ! しかも、転び方にもこだわりがあるの。風属性魔法でスカートをふわりと揺らし、私の後ろに光を当てて後光が差す演出を入れるの。まるで乙女ゲームのイベントCGを再現する感じで!!」


「後光!? 転ぶだけじゃダメなんですかぁ〜!?」


 エマが早速異議を唱えるけれど、そんなものは通すわけが無い。なぜなら、こっちには明確な根拠があるのだから。


「駄目よ。視覚に訴えてこそ、恋は芽生えるものなの。ちなみに、転んだ後の台詞はもう決めてあるの。“あ……支えてくれて、ありがとう……ルシウス様”って、甘い声で!」


「うわぁ〜……もうこの時点で私の胃がきりきりしますぅ……」




 そんなこんなで、とうとうその時が来てしまった。時間は昼、教室から食堂へと向かう上り階段を、授業が終わって直ぐに利用するらしいけど……。


「エマ、本当にここに来るの?」


「え、えぇ。間違いありません〜。私が調べたところによると、ルシウス殿下は毎日こちらのルートを使って食堂へと向かうみたいですぅ〜」


 まあ、エマが言うのなら、間違いないのだろう。彼女はこんなにドジっ子ぽそうな感じなのに、仕事に関しては完璧以上にこなすタイプですしおすし。


「よし、そうしたら、予定通りの作戦で行くわよ。いい? ルシウス殿下らしき人影が階段を登ってきたら、私の後ろから光を出して頂戴。そのタイミングで私も殿下に向かってわざと転ぶわ」


 そんなこんなしていたら、階段の曲がり角から殿下が出てくるのを確認。階段を登り始めた辺りで、小声でエマに指示を出す。


「エマ、今よ!」


「は、はいっ!」


 エマが返事をした瞬間、私の後ろから光が照らされる。そして、それと同時に風魔法を自分の後ろから当てて準備完了。よし、後はルシウス殿下に向かって落ちるだけだ!


(ここで1発かまして、ルシウス殿下の心をドキドキさせてやるんだから! ……よし、今ね!)


「キャッ! ……え?」


 少しだけ勢いをつけて転ぶはずが、自分に掛けた風魔法が悪さをしてしまい、殿下を上を通り過ぎて下の階まで急降下してしまう。


 まずい……このままだと確実に大怪我をしてしまう……


 怪我を覚悟して目を瞑った瞬間、誰かが自分の身体を支えてくれた感触がした。


「……おい、何をやっているんだ、お前は!」


「……ぁ、ルシウス殿下……」


 私が頭上を超えてしまったハズの殿下が、何故か私の身体を支えている。


「あと少し私の反応が遅れていたら、お前は大怪我をする所だったんだぞ。」


「そ、そうですわね。申し訳ありませんわ……」


 助かった……危うくちゃんとした事故になる所だった。


 ルシウス殿下はリリアーナの身体をしっかりと支えたまま、鋭い視線を向けてくる。


「……全く、何を考えているんだ。危険すぎる。階段で風魔法を使い飛ぼうとするなんて……貴族の娘としても、淑女としても、軽率すぎるだろう」


 叱られているのに、心臓がドキドキしてしまうのは何故だろう。怒っているのに、こんなにも優しい手つきで支えてくれているから?


 ────ちがう、これは想定外! 本来なら、もっとロマンチックな流れに持っていく予定だったのに!


 でも、ここで挽回しなければ!


 私は少しだけ唇を噛んでから、ふと小さく微笑んで、言葉を返す。


「……でも、殿下が助けてくださったおかげで、私は無事でしたわ。ありがとうございます、ルシウス様」


 そして、少しだけ頬を赤らめてみせる。もちろん演技だけれど、私の乙女ゲーム知識を総動員した、完璧な「惚れさせ台詞」だ。


 ルシウス殿下は、一瞬だけ目を見開く。


 ────よし、効いてる。


 しかし彼はすぐにいつもの仏頂面に戻って、そっぽを向いた。


「……気をつけろ」


 そう言って、そっと私の手を離す。


 ……あれ? なんだかちょっと、耳が赤かったような……?


「リリアーナ様ぁ〜! ご無事ですかぁ〜!!」


 階段の上からエマが駆け下りてくる。私を心配するその顔は、明らかに胃痛持ちのそれだ。


「ええ、大丈夫よエマ。ちゃんと────助けてもらったわ」


 そう、予定とはちょっとズレたけれど、私はルシウス殿下に抱きとめられて、さらに感謝の言葉まで伝えられた。


 これはもう、イベントCG確定ルートと言っても過言ではない。


(ふふっ、次はもっと自然にドキドキさせてあげるわよ、殿下!)


 リリアーナは次の作戦に思いを馳せ、ほのかに頬を紅く染めたまま立ち上がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ