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第1話 婚約破棄に逆襲します!

 ―ここはグランセリーヌ王国の、とある貴族学園の物語である。―



「リリアーナ様ぁ〜!今日こそは、おとなしくしていただけませんかぁ〜!」


 隣で項垂れながら弱音を吐いているのは、私の専属メイドのエマ。幼少期の頃から私の忠実なメイド兼遊び相手として、共に歩んできた従者。


「ふふん、無理な相談ね、エマ。だって退屈なんだもの!」


 一方私は、日差しが差し込むティーサロンで、優雅に紅茶をくるくるとかき混ぜながら、彼女の悲鳴をバックミュージックに寛いでいる。そう、私は────


「リリアーナ・セレフィーヌ・アルステッド。伯爵家の長女で、王太子殿下の婚約者にして、学園一のお騒がせ令嬢よ!」


 勢いよく立ち上がり、高らかに名乗った瞬間、隣の席の令嬢がビクッとした気がしたけれど気にしない。なにせ、今の私は、王太子殿下の婚約者にして、学園一のお騒がせ令嬢、リリアーナ・セレフィーヌ・アルステッドなのだもの!


「リリアーナ様ぁ……もう変な計画を企むのはおやめ下さいぃ〜……」


「何よ、『学食にコロッケパン導入大作戦』は変じゃないわよ? だって、"この世界"でもお昼はコロッケパンを食べたくて仕方ないんですもの!」


 "この世界"での庶民グルメ研究に余念がない私は、実はリリアーナに転生した元・日本人。高校卒業の春、コンビニでアイスを買おうとして車に轢かれ───気づけば、ここ、グランセリーヌ王国の公爵令嬢として生まれ変わっていたというわけ。


 でも、この世界は何かと不便。まず、す〇家もマ〇ドもス〇ローも無い! あの、脳に強制的に快楽物質を注入する事の出来ないあれらが無いのは致命傷よ! 


 そして、ゲームはおろか電子機器類が一切無い!スマホ使えないの辛い!ソシャゲやりたい!アイ〇ナやりたい!


 けれど、この世界にも一つだけ退屈しない要素がある。それは、誰でも魔法が使えるという事。


 人それぞれ程度はあれど、この世界の人達は皆等しく魔力を持っていて、自分の生まれ持った属性毎の魔法が使える。


 属性は主に、火、水、風、土、雷、氷があり、極稀に光や闇の属性を持った者が生まれるらしい。


 そういった自分の適正属性は、生まれた時の魔力測定で分かる仕組みだ。


 ちなみに私は何故か、闇属性の魔法以外全ての属性が使えるみたい。ふふん、やっぱり私は天才みたいね。


 だから、私はそういった魔法で遊んだり、自分がやりたいと思った事をやる事で、できるだけこの世界で楽しめるように、暇を潰して過ごしているって訳。


「ふふふ……いつしか私が、この国で故郷の味を手に入れるまで、この計画は朽ちないわよ……!!」


「リリアーナ様ぁ〜……なんだか悪い人みたいですぅ〜……」


 不気味な笑みを浮かべながら紅茶を嗜んでいると、とある人影がこちらへ向かっているのが見えた。


「やっと見つけたぞ、リリアーナ」




 破天荒令嬢は殿下の婚約破棄を破棄します!


 第1話 婚約破棄に逆襲します!




 そう、目の前の王太子殿下────ルシウス・クラウゼル殿下が、デコに怒りマークをくっつけたような表情で近づいてくる。


「あら。そちらから私に話しかけてくれるなんて、珍しいじゃない? ルシウス殿下」


「ふっ、確かにそうだな。だが、それも今日で最後だ。……急ではあるが、リリアーナ=アルステッド。私は貴女との婚約を、破棄することにした」


「……え?」


 ……えっ、えっ???


 突然の婚約破棄イベントに、思考が止まる。


「ああ、ついに来たのね……乙女ゲーム風の婚約破棄イベント……。でもそれって、だいたい悪役令嬢ルートじゃ─────」


 よく令嬢モノの作品では、主人公に悪さを働いていた悪役令嬢が、こうして攻略対象の王太子に婚約破棄をされるというイベントが発生する。そして大体その後はお察しの通り────といった感じだ。


(たまったもんじゃない! せっかくの二度目の人生がまたこんな爆速で終了するなんて! 一回目の人生ですら18年で終わってしまったのに!)


 そんな私の思いはいざ知らずと言った感じで、ルシウス殿下は淡々と説明し始めた。


「私は、貴女の突飛な言動に、これ以上ついていけない。昨夜も、学園の厨房に忍び込み、コロッケなる怪物の研究をしていたと聞いた」


「怪物じゃない! 揚げ物よ!」


 しかもコロッケの研究じゃなくて、コロッケパンの研究ね!色々大丈夫!?この王太子殿下!!


「その"アゲモノ"が何かは分からんのだが……他にも、学園内で『ワンチャン』『ガチ勢』『推し』など、意味不明な言葉を流行らせ、風紀を乱しているそうではないか。そんな低俗な言葉を、王族の婚約者が多用していると知られれば、王族の権威の失速に繋がりかねん。」


「それは……反論できないわね」


 私はため息をつきながら、王太子の真剣な表情を見た。そして、ふと思った。


(……これって、逆に相手を沼らせるチャンスなのでは?)


「よろしいわ、殿下。では、こうしましょう」


 私はにっこり笑って言った。


「婚約は破棄されても構いません。その代わり───一ヶ月だけ、私に"ガチ恋"をしてみてくださいな♡」


「……なっ、なにを言っているのだ、お前は!!」


 顔を真っ赤にするルシウス殿下。ふふ、計画通り。


「あらぁ〜? もしかして、殿下たるお方が、ただの色恋の1つが恥ずかしくて出来ないんですの〜?プププ〜!」


「ぬぅっ……!!ば、馬鹿にするでない!私とて、たかが恋愛の1つぐらい造作もない!!……いいだろう、その話、乗ってやる。ただし、"一ヶ月間"だけだ。その先はもう他人である事を忘れるでないぞ」


「ええ。それだけあれば十分ですわ。てんきゅーてんきゅー」


「なっ、お前は私を馬鹿にしているのか!?大体お前は昔から────」


 ずっとこちらに向かってガミガミ言っているルシウス殿下をスルーしつつ、時間が経って少しぬるくなった紅茶を優雅に嗜む。


「ふふふ……エマ。『学食にコロッケパン導入大作戦』は一度中止にするわよ。その代わりに、殿下を恋に落とす作戦、その名も『ルシウス陥落大作戦』を始動するわ!」


「いやぁ〜!リリアーナ様がまた変なこと言い出しましたぁ〜!!」


(見てなさい。ここからこの状況を逆転してみせるわ!)


 こうして、なんの計画性もない、婚約破棄を破棄させる為の戦いが、幕を上げたのだった─────

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