第51話 最終決戦8
「ケヘヘ、おまえら、いいから早くおれを助けろぉ!」
デス畳の追走からぬるりとのがれていた“ゲス野郎”であったが、デス畳と人間とではあまりにも体力差が大きく、目に見えてスピードが落ちていっていた。
つまずいて、転ぶ。
しかしその間際――
「“わけ知り顔”ォ、こいつの光をメガネにあてろい!」
と、なにやらライトのついたテンガロンハットらしき怪しげな機械を、逃げながら近づいていった“わけ知り顔”近くの床へとすべらせる。
「あれは……?」
“お嬢さま”が疑問の声をあげていると、“太鼓持ち”がデス畳に向き直りながらさけぶ。
「あれが、オイラたちが見つけた兵器『誇張しすぎマッシーン』でぇ! 見てろぉ」
舌なめずりをしつつ、先ほどもポンポコと鳴らしていた小鼓をくるくると回し、バズーカ砲でももつようにドシリと肩へとかまえる。
「いよぉ~っ」
と能や歌舞伎で聞くかけ声を大音声で放ち、ポポンッ、と小鼓を威勢よくたたいた。
「“太鼓持ち”の、誇張しすぎた太鼓ッ!」
するとなんということか。
小鼓から、音ともに指向性をもつカラフルな光が現出し、荒れくるう波濤となってデス畳へとおそいかかったではないか!
その波をまともに浴びたデス畳は、“ゲス野郎”を喰らう直前でビリビリと感電したようにしびれている。
さらに、“わけ知り顔”はとまどいながらも『誇張しすぎマッシーン』の光をメガネにあてた。
するとそのレンズが、どうした原理であろうか、みるみるうちに復元されていくではないか!
「わ、“わけ知り顔”の誇張しすぎたメガネッ!」
“わけ知り顔”が絶叫してフレームを押すや、そのレンズからひとすじの熱線――レンズで日光を集中させたときのそれよりもはるかに高い熱量がデス畳へとぶちあたり、デス畳の上部が烈しく発火する。
「ケヘヘ、ビビらせやがって……灰になりな。“ヤニカス”の、誇張しすぎたタバコだ」
“ゲス野郎”は炎にもだえるデス畳をながめながら、いまは亡き“ヤニカス”のタバコ――彼の遺したシケモクである――に火をつけてひと口だけ喫ったあと、ピン、とデス畳へはじいた。
タバコは燃えるデス畳と呼応し、爆発的に膨張してデス畳の全身をつつむ巨大な火柱と化す。
デス畳の、耳を覆いたくなるような苦鳴が研究室内にひびきわたった――
「す、すさまじい威力だ……。見つけたふたりから聞いたときは半信半疑だったが、まさかあれほどとは……」
「あれが、いえ、あれも兵器……? まさか、兵器はふたつあったのですか!?」
“お嬢さま”がおどろきながら、少し動いて、メカ畳のほうをふりかえる。
メカ畳は、壁に体重をあずけつつ、ガクガクと立ちあがっているところであった。
『たしかに、あれもマスターが開発していた兵器のひとつデス。しかし……あれでは結局デス畳をたおすことができなかったハズ……』
そうしたメカ畳の懸念をなぞるように、炎の渦のなかからデス畳のぶきみな低音がひびく――
「……奥義、〈畳と鮫は龍と成る〉」
瞬間、高い天井へと到達するほどの竜巻が発生し、いぐさの一本さえのこさず焼きつくすかと思われた灼熱を、あっさりと消し飛ばしてみせる。
デス畳がその場にてフィギュアスケートの選手のごとく高速回転し、強制的に風を起こしてみせたのだ。
しかし、尋常ならぬ熱を想像させるにじゅうぶんな焦げあとが床や壁にのこっており、デス畳もまた黒く焼け焦げていた……
「……ゆるさん、ゆるさんぞ」
これまでにない忿怒の感情をこめて、デス畳がギヌロンと“ゲス野郎”をねめつけた。
が、すでにそこに彼の姿はなく――
「ケヘ、おれにできることはやったから、あとよろしく」
と早くも逃げ出しているではないか……
「キサマだけは、絶対に、逃がさん」
デス畳はそう宣言してふたたび“ゲス野郎”を追いはじめる。
“ゲス野郎”が「なんでぇ!?」と奇声をあげているのを見ながら、メカ畳は意を決したように言った。
『あの子を、ワタシのもとへ……』
“お嬢さま”がそっと駆け寄り、すでに胸へと抱きあげていたミニ畳を見やる。
ミニ畳は、「たみ」と小さく声をあげているが、耳をすまさねば聞こえぬほどに、かぼそい。
デス畳の容赦ない攻撃により、いぐさは裂け、中のいびつな機械が見えてしまっている。
「ミニ畳、ここまで“お嬢さま”とともにいてくれたのか……」
「それだけではございません。デス畳からわたくしのことを、まもってくださって……」
「……そうか。最初から信じてあげることができなくて、すまない。……ありがとう」
礼とともに“カタブツ”がフチをなでると、ミニ畳はよわよわしくもふにゃふにゃと波打った。
“お嬢さま”の腕のなかで安んじている姿は、まるでふたりのいとし子のようでもある。
『その子には、ワタシやデス畳のような生命力はないのデス。おそらく、もう余命いくばくもないでしょう。先ほど、ワタシに向けて、言っていました。「せめてママの腕のなかで死にたい」と。ワタシのことを、母親だと誤認しているのデス……。ワタシもまた、この子のことを……』
メカ畳はことばを濁した。
が、切り替えたようにいさましく顔をあげ、ピポパポと電子音を発したあとに、言う。
『この子の材料には、あの新デス畳のいぐさも多く使われています。計算の結果、この子を吸収すれば、あと一発〈断滅する女王の剣閃〉を撃つエネルギー源に……なるはずデス。しかしあのビームには、少々チャージ時間がかかります……』
“お嬢さま”と“カタブツ”は正面からメカ畳を見て、うなずく。
「わたくしたちで、時間を稼げばいいんですのね」
『それだけではないデス。先ほどのようにはじかれては終わりデスので、確実にデス畳にあたるように、どうにか消耗させてもらえないかと……』
「できるかわからないが、やってみるしかないだろう。……まかせてくれ」
全員でうなずくと、“お嬢さま”は一度ぎゅっとミニ畳を抱きしめ、「本当に……ありがとう」と語りかけた。
ミニ畳は「たみ」と満足そうにこたえると、ふっと、からだのちからが抜ける。
“お嬢さま”はこらえきれぬなにかに臓腑を乱されているようにも思われたが、すううと深呼吸をし、まなじりを決すると、聖なる供物をささげるように、端然と両腕でメカ畳のまえへとミニ畳をかかげた。
メカ畳は、先ほど旧デス畳を喰らったような残虐さなどみじんもなく、仏が合掌をするように、やさしく、やわらかく、ミニ畳をつつんだ。
全身が、あわい乳白色の光で満たされていく。
一方で――
「おおい、手伝ってくれぇい! さすがは歴戦の猛者デス畳だぜ、誇張しすぎた太鼓にもう対応してやがる。みんなの荷物のなかから、道具をもってきてたヤツのものはなるべくピックアップして、『誇張しすぎマッシーン』のライトを浴びせてそこの袋に入れてある!」
「すまない、すぐに行く!」
と、ちょうど道具を探していた“カタブツ”が、まず手にしたものは――




